第144話 浮遊帆船から



Side ???


「取りか~じ、いっぱい!」

「取りか~じ、いっぱい!!」


浮遊帆船の操舵室で、乗組員たちが声を出して確認し合う。

空を浮かんで進む船とはいえ、危険な航行なのは海と変わりはない。

海には海の、空には空の危険な魔物はいるのだ。


「もうすぐ、バストルの上空にさしかかる。

人が暮らさなくなってずいぶん経つ町だが、いまだ魔物すら寄り付かないそうだ。

何があるか分からない場所だ! 気を引き締めて行け!!」

「「「了解!!」」」


バストルの町は、通常航路では通ることのない場所なのだが、今回のような緊急便の時は通過することを許可されている。

上空からでも分かる、その異様さにビクビクする船員が多いのだが、実際通ってみればただの誰も住んでいない町の上を通過しているに過ぎない。


だが、なぜかその町の姿は、浮遊船が通るようになった数十年前から変わっていない。

そのため、いつしか呪われた町と揶揄されるようになり、領主がバストルとリンガールの町との間の街道に砦を築いたほどだ。


それに、バストルの町のさらに西には例の魔王が出現したレストールの町跡がある。

伝説の勇者が敗北した地として、今も廃墟のままだという噂だ。



「船長! バストルの町が見えてきました!」

「よし! バストルの町通過後、リンガールの町へ舵をとれ!」

「了解!」


今回、我々緊急便が出された理由は、空賊が捕らえられたということからだ。

クレンベルスの町に入ってきた浮遊船を空賊が襲い、墜落。

その時、冒険者ギルドをはじめ町の商店などを巻き込んでしまったため、領主に復興のための資金提供をお願いするために、俺たちの緊急便を使ったというわけだ。


まあ、冒険者ギルドは王都の冒険者ギルド本部が出すだろうが、町の商店などはそうはいかない。

そこで、いつも税金を取っている領主に何とか資金を出そうということだろう。


「俺はそれよりも、リンガールからクレンベルスに繋がる街道を造ってほしいところだがな……」

「何です? 船長」


隣で外の様子を見張る副船長が、俺の独り言に反応した。

訝しげに、俺の方を見ている。


「いや、今回の緊急便のことだ。

クレンベルスの復興のために、領主に金を出させるくらいなら街道を何とかしてくれないかとな」

「ああ、リンガール、クレンベルス間ですか。

あそこは、間にレストールがありますから無理じゃないですか?

それに、ほら、今見えているバストルもあり……ま………?」

「ん? どうした副長?」


船長は、窓の外に見えるバストルの町の光景に目を疑った。

そこには、人が動いて何かをしている。

いや、それは暮らしているといったほうがいいだろう。

何せ、生活のための煙などが煙突から出ているのだ。


「ま、まさか!」


船長は、隣で唖然とする副長を置き去りにして、後ろにある田政管を使って命令を下す!


「見張り! バストルの町の様子を伝えろ!」

『は、はい!! 現在バストルに、人が住んでいる模様!

その数、………たくさん!!』

「他に変わったことはないか!!」

『か、変わったこと……?』

「普通の町と比べて、あるはずのないものがないかということだ!!」

『さ、探してみます!!

……おい、何か見つけたか?

……いや、今のところ何も発見できないな。

……こうしてみると、普通の町のようだが……。

……ん! 見つけたぞ! あれだ! 伝令! 見つけました! 町の北側の城壁に洞窟を発見!!』


その報告を確かめるため、船長は急いで操舵室の左側へ走り、その窓から町の様子を見た。

すると、北側と思われる城壁に冒険者ギルドの建物が二軒入りそうな穴が開いていた。


しかもその穴から、馬車が出入りしている光景も見えた。


「あれはまさか……。

動力室!! 魔導炉の出力をいっぱいまで上げろ!!

リンガールの町へ急ぐ!!」

『りょ、了解!!

……おい! 魔導炉、出力いっぱ~い!!

……出力、いっぱ~い!!』


船長が伝声管を使って、動力室に指示するとすぐに浮遊帆船の帆が勢いよくすべて張られ浮遊帆船の航行スピードが上がった。


「通信室! 魔導通信を使って、以下の文を領主さまに送れ!

『バストルにダンジョン出現、至急、調査されたし!』分かったか?」

『バストルにダンジョン出現、至急、調査されたし! 分かりました! すぐに送ります!』


その時、副長の意識が戻った。

そして、すぐに船長の側に行き小声で伝える。


「船長、ここは討伐隊を出させるべきではないですか?」

「知らんのか? 討伐隊は二年ほど前に解散した」

「か、解散した?」

「……本当に知らなかったのだな。

魔王のダンジョンに挑むも、勇者が敗北しその関係者も敗北した。

勇者隊から引き継がれた連中は、何かしら理由を付けて討伐隊を抜けている。

残った連中は、魔王のダンジョンに挑むも帰ってきた者はごくわずかだ。

そのことを理解した王様がな、討伐隊の解散を宣言したんだ。

国庫の金食い虫だった討伐隊の解散で、今、国は建て直しに躍起だ。

今さら討伐隊を復活なんてのも、許可なんて下りないだろう……」


「それじゃあ、あのバストルのダンジョンは……」

「おそらく、調査して放置、だろうな。

それにしても、よくあの洞窟がダンジョンだと分かったな……」


船長は、肩を落とす副長をまじまじと見ながら感心している。


「……昔、討伐隊にいましたからね。

もっとも、貴族連中が幅を利かし始めたんで、すぐに辞めましたが……」

「そうか、元討伐隊か。

それも、平民出身者の……」

「……勇者様がお亡くなりになられてから、討伐隊はすぐに、貴族たちが実権を握るようになり平民出身者は貴族様たちの盾として使われるようになりましたから。

一応、勇者様の血縁者たちがかばってくれることもあったんですが、貴族たちの権力の方が強くて……」


副長は、そんな状況でダンジョン攻略なんてできるはずもなく、すぐに討伐隊を除隊したそうだ。

平民出身者が、ことごとく辞めた後は奴隷などを平民出身者として入隊させて、盾として、あるいは夜の相手に普段の雑用など、酷使していたそうだ。

奴隷からの告発はあったものの、貴族たちによって握りつぶされ、潜入調査をしていた王家直属の調査員の報告でようやく王家も事態を把握。


すぐに、討伐隊解散を命令し、討伐隊に所属していた貴族たちを処罰した。

だが、抜け目のない貴族たちは、王族が動いた情報を掴むとすぐに除隊して難を逃れていたらしい。



「そういえば、ここの領主の息子も討伐隊出身だったよな……」

「ええ、難を逃れた貴族の一人です……」


ダンジョンの報告をして、大丈夫だろうか?







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