第142話 動画と指摘



神殿の廊下を歩くシスターが、上から下へゆっくり映し出される。

美しい日本人離れした顔、白い首筋から大きな胸が歩くたびに揺れる映像、そこでおもむろに手を伸ばしたシスターの指先に、妖精が座る。


透明な羽を羽ばたかせ、妖精の表情は笑顔だ。

そしてシスターと笑い合い、再び羽を羽ばたかせて空中へ。


すると、シスターが下の何かに気づき、ゆっくりとその場に屈んだ。

そして、屈んだ先に映し出されたのは、かわいい白狼の子供。

シスターはおもむろに手を伸ばして、白狼の子供を撫で始める……。


そこへ一筋の風と共に、シスターの視線は空へ!


『今年の夏ごろ……』


黒い画面に白字で表示される。


次に現れたのは、神殿の上空で翼をはためかせながら飛び留まるドラゴン。

そして、その背には軽鎧を身に纏って手綱を握る女性騎士。

その肩には、妖精がしがみついている。


また、ドラゴンの横を飛びながら抜けていくのは真っ白なユニコーン。

その背には、白いローブを身に纏った女性が手綱を握り、笑顔でドラゴンにのる騎士に手を振る。


『九州の地で、ファンタジーの世界が体験できる!』


また、黒い画面に白字で表示される。


小さな翼を持った天使族の女性の後ろ姿が映し出され、すぐに振り返る。

そして、動画を見ている視聴者に対して言葉を発した。


『今度のファンタジー世界は、テイム能力を追加してあげたわよ!

ますます広がった異世界を、あなた自身で体験しなさい!?』


そう言い終わると、美しい天使族の女性はウインクをする。

そして、すぐに画面は黒くなりダンジョン企画のロゴと予定開園日を表示して終了した。



この予告動画は、瞬く間に拡散され日本中を騒がしたのちに、世界をも巻き込んで大騒ぎとなる。

何せ、最初の場所以外にダンジョンパークが設置できたのだから……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


コアルームで、椅子に座りながら腕を組んで考える。


「ん~~~~」

「何をそんなに考えこまれているのですか? マスター」


そこへ、コアルームに入ってきたミアに心配された。


「ん? いやね、昨日予告動画が公開されただろ?」

「はい、私も見ましたがいい出来だと思いますよ。

陸斗様の趣向が前面に出ていて、視聴者を引き付けると思います。

それに、最後の口頭による予告は必ず伝わるでしょう。

……それが?」

「うん、ちょっとこれを見てくれる?」


そう言って、俺は動画を見た人たちの感想が書かれた掲示板サイトをミアに見せる。

空中に浮かんだ画面に、ネットの掲示板を映しだし、そこに書かれた視聴した人達の意見を目にした。


「……これは、すごい感想の数々ですね。

それに一部、テイム能力やテイムできる魔物などに関する意見も混ざっていましたね……」

「そうなんだよね。

俺たちが気づかなかった指摘が、かなりの数あがっている。

特に、テイムした魔物や幻獣などの処遇に関してが多い……」

「……確かに、テイムした魔物などを預かる施設などを設置する予定ですが、預けたまま放置するという指摘は、私たちも考えていませんでしたね」

「ああ、意見を聞いた人たちみんな、かわいがってくれたり側に置いたりしてくれそうだったからな。

放置するというのは、考えられなかった」

「後、町中でテイムした魔物などを仕掛けるなどと言うのもそうですね。

よくよく考えてみれば、そういうことに使う人もいておかしくはないはずなのに……」


これはゲームじゃなくて、現実なのだ。

昨今の犬や猫などのペットの行きつく先を知っていれば、分かっていたことだったはず。

これは、俺たちの認識不足による大きなミスだ……。


「どうされますか?

テイム能力の使いを、中止にされますか?」

「……いや、追加はこのままだ。

動画で宣伝してしまった手前、中止しますとは言えないだろう。

楽しみにしている人だっているだろうし……」

「では?」

「まず大前提として、テイム獣はダンジョンパークの外への持ち出しを禁止する。

ダンジョンから持ち出そうとしたら、自動的に預かり施設に転送されるシステムを構築する。

さらに、ダンジョンの町で連れ歩いたりするのも禁止にしておこう」

「それは、かなりクレームが来そうですね……」

「まあ、テイムギルドを作って、そのギルド内にある運動場での顕現で我慢してもらおう。

町中で問題を起こして、テイム獣と強制的にサヨナラは嫌だろうからな」


これは、法律にもテイム獣のことを追加しておかないといけないな。


「あとは、育てられなくなったり、面倒を見られなくなったテイム獣の引き取りや買取りをギルドでできるようにしておこう」

「となると、テイムギルドはかなり大きくなりますね」

「新しく造るダンジョンで、活動させればいいだろう。

後は、誰をギルドマスターとするかとかだけど……」

「その辺りは、私たちにお任せください。

適任と思われる人物に、声をかけておきますから」

「任せた」


さて、まだまだ問題が出てくると思うけど、ダンジョン内である限りミアたちダンジョン巫女やダンジョンマスターの俺が目を光らせておかないとな。


「そうと決まれば、まずは新しいコアでダンジョンを造り、最初のダンジョンをコピーしてしまおうか」

「はい」


「【ダンジョン創造】」


俺がそう唱えると、久しぶりの天の声が聞こえた。


『新しいダンジョンコアを収得したため、ダンジョンを創造することができます。

新しく造りますか? それとも、既存のダンジョンをコピーしますか?』


うん、ここは既存のダンジョンをコピーするを選ぶ。


「既存のダンジョンをコピーする」


『現在あるダンジョンをコピーするには、3兆DPが必要です。

現在所有しているDPから使いますか?』


約4京DPもある中の3兆DPは、たいした消費ではない。

なので、使うを選択。


すると、胸のあたりが温かくなり少しだけ苦しくなるが、すぐに戻る。

そして、再び天の声が聞こえた。


『ダンジョンのコピーが終了しました。

生命体のコピーはできませんでしたので、ダンジョンマスターによる直接の調整をお願いします』


これで、ダンジョン創造が終了した。

階層の調整などを終わらせた後、最初のダンジョンと繋げて魔素などの共有をして終わりだ。


さて、忙しくなるぞ………。







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