第136話 空賊



Side ディスティミーア


私は、目の前で頭を貫かれて死んでいる枢機卿なる人間を見ている。

何れこの死体は、ダンジョンに吸収されDPとして役に立ってくれるだろう。


するとそこへ、魔族の男が姿を現した。


「魔王様、復活おめでとうございます」

「ヴァラクか、久しいな」


執事のような姿で現れた男は、枢機卿の死体をチラリと見ると、表情を歪めた。

フフ、こ奴も他の魔族同様、人族嫌いなのは変わらないな……。


「それで、この蟲はどういたしましょうか?」

「ほっておけ、何れダンジョンが吸収してくれる」

「……では、城の外に捨てておきましょう。

魔王様との謁見の間に、このような無様な蟲は相応しくありません」

「フフフ、お主の好きにいたせ……」

「ハハッ!」


私の意見に、嬉しそうに返事をすると死体とともに消えた。

いや、転移したか。

そしてすぐに、今度は女性を連れて現れた。


「魔王様、こちらの女は新しく魔界の君主の一柱になりましたアミーでございます」

「この度は、魔王様のご尊顔を拝し、恐悦至極にございます。

魔界の一柱となりました、アミーと申します。

今後とも、魔王様のお側に仕えさせてもらえる喜びを胸に働かせてもらいます」

「うむ、アミー。今後もよろしく頼む」

「ハハッ!!」


アミーは、真っ赤な髪を靡かせながら頭を下げた。

そして、よく見れば少し震えているようだな。

まあ、私の前に跪いている時点で、かなりの実力があるはずなのですが……。


「それで、ヴァラク。

先ほど、アミーをここに連れてきたと言っていたが、繋がったのだな?」

「はい、魔界とこのダンジョンが漸く繋がりました。

これで、魔王様の本来の居城へのご帰還が可能となりました」

「漸くか……。

先の勇者によって石板に封印されてから長かったが、ダンジョンマスターの力を得ることができたのはうれしい誤算だったな」


今の姿と違い、先の勇者との戦いのときは男の姿で凛々しい角を有していた。

魔神の槍を武器とし、地上を蹂躙したものだ。

だが、異世界の勇者たちによって倒され、胸の魔王の魔石を石板に封印され何もできなくなってしまった。


……だが、やはり人族は愚か者が生まれる種族だ。

私の封印は解かれ、異性の姿に魔石が固定され今に至る。


「では魔王様、再び地上に、人族に対し侵攻をいたしますか?」

「前の魔王の憤りは、前の魔王のもの。

現在の私は、人族に何の感情も持っておらん。よって、地上への侵攻は無い!」

「「ハハッ!」」


勇者物語などで、魔王が地上の者たちを蹂躙、虐殺する記載があるが、あれは魔族に対して人族が行った非道な行為の結果なのだ。

決して、人族を滅ぼすことが好きなわけでもない。


魔王とは本来、全魔族の力の源。

そのため、破壊することができない魔石となり、意志を伝えるために肉体を持っている。


つまり、私のこの姿は、胸にある魔王の魔石の意志を伝えるための仮初めの姿。

そして今の姿が女なのは、前の男の姿が倒され、女の姿になったただそれだけなのだ。


「それで、現在地上界にいる魔族はどうなのだ?」

「今のところ、迫害を受けている様子は無いようですが……」

「人族には、特に気をつけるようにな。

今も昔も、人族だけはそうそう変わるまい」

「ハッ! 了解いたしました」

「では、私は居城へ戻ろう。

アミー、早速ですが、このダンジョンの運営をあなたにお願いします」

「ハハッ! お任せください」


私は、その返事に満足して玉座から立ち上がると、転移魔法で懐かしき魔界へと移動した。




▽    ▽    ▽




Side ディアナ


避難所の一室で過ごすこと三十分。

喉が渇いてきたので、部屋を出て飲み物を探しに行くことにした。

リーナとルリィは、疲れが出たのかベッドに横になるとすぐに寝てしまったので、わざわざ起こすのも酷だと思ったからだ。


「さて、どこに行けばいいのか……」


廊下に出て部屋のドアを静かに閉めると、とりあえず避難所に最初に入ってきた一階のロビーを目指すことに。

あそこなら、誰かしらいるから何か聞けるだろうとの考えからだ。


廊下を歩きながら、避難してきた人たちと挨拶やちょっとした話なんかをして分かったことがある。


避難所として使われている冒険者ギルドの訓練場は、かなりの広さがあり訓練場と休憩場という区画で分かれている。

これは、訓練場で汗を流した冒険者などが、休憩場で疲れをとるといったスパのような施設になっているのだ。

ただ、飲食店は訓練場の周りに数多くあるため、訓練場の中に併設できなかった。


「そうですか、ここには無いんですね……」

「申し訳ございません。こんなことになるなら、併設しておけば良かったんですけど周りの飲食店の売り上げに関わるからと……」


一階のロビーでお世話をしていた、冒険者ギルドの女性職員を捕まえて聞いてみたが訓練場の中に飲食店はなかった。

しかも、空賊の襲撃で浮遊帆船が墜落した影響で冒険者ギルドだけではなく、周りの商店や住居にも被害が及んでいた。


「でも、飲み物でしたら用意できますが」

「お願いします」

「では、少々お待ちください。すぐに用意してまいります」


そう言って、受付の奥へと移動していった。

避難してきたのは私たちだけじゃないのに、丁寧な対応をしてくれる職員さんだ。

そんなふうに感心していると、後ろから声を掛けられる。


「ディアナちゃん!」


そう呼ばれ、振り返ればシーラさんが立ち尽くしていた。

そして、私の顔を確認すると抱き着いてくる。


「シーラさん、ご無事だったんですね!」

「ディアナちゃんこそ、無事なら無事って知らせてくれないと!」

「すみません、すぐここに避難するように言われたもので……」


シーラさんは、抱き着いたままで私の身体を確かめるように触っていく。

どこかにキズがないか、確かめているようだ。


「うん、どこにもキズらしいキズはないわね」

「ええ、冒険者ギルドの資料室にいましたが、逃げることに成功しましたから」

「そう、でも無事でよかった。

それで、リーナちゃんとルリィちゃんは?」

「避難部屋で寝ています。

精神的に、疲れたんだと思います」

「そう、でも本当に無事でよかった……」


シーラさんと無事を確かめ合っていると、出入り口付近が騒がしくなったので、そっちに視線を向けると傷だらけの男たちが飛び込んできた。


「お、おい! ここは避難場所だぞ!」

「だ、ダメだ! ここで食い止めないと!!」


私たち避難してきた人たちの姿を見て、飛び込んできた男たちは驚いた表情をする。

そしてすぐに、入ってきた入り口に向き直ると武器を構えた。


「おいおい、いるじゃねぇか。売れそうな奴隷たちがよぉ!」


そこへ、黒い軽鎧を付けた男たち三人がゆっくりと入ってきた。







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