第135話 ある枢機卿の末路



Side ???


大陸を統一したロスオーディス帝国の皇都に、魔王はダンジョンを出現させ最深部の階層に居城を造った。

ダンジョンの階層は、百階層以上とも言われ帝国が組んだ魔王討伐隊による侵攻も防いでいた。


魔王討伐隊がなかなか成果を上げられないうちに、ロスオーディス帝国は各地の貴族たちの反乱により崩壊、皇帝暗殺や皇族が別大陸へ逃げるなどして事実上滅んだ。

また、勇者隊によって討伐された各地のダンジョンも復活し、人々の生活圏を狭めていく。



魔王のダンジョン最下層にある居城の謁見の間。

その玉座に座るのは、魔王ディスティミーア本人である。

この世のものとは思えないほどの美貌と、その身に纏う膨大な魔力は視認できるほどだ。


そんな魔王が、笑みを浮かべて目の前に跪く人間を見ていた。


「面を上ゲナさい、ジルバ枢機卿」

「はい」


返事をして、ゆっくりと頭を上げて魔王の姿を確認する枢機卿。

召喚した勇者たちを意のままに操ろうと企んだ枢機卿だったが、魔王討伐隊の浅い階層での撤退に絶望し魔王側に取り入ろうとたった一人で、魔王のダンジョンへ来たらしい。


「それデ、私に会いタカったようダけど?」

「はい! 私は魔王様のお力を知り、ぜひともお側に置いてもらいたくお願いに上がりました。

どうか、どうかわたしを魔王様のお側に……」

「フム……」


魔王は、少し考え納得する。

そして、誰もが見惚れる笑みを浮かべると枢機卿に質問する。


「どウヤら、勇者召喚は失敗続きのよウデすね?」

「な、何故それを?!」

「フフフ、ここに来たノモ討伐隊に絶望したかラデはなく、自ら行い続ケテいる勇者召喚が失敗していルカら……」

「クッ!」


枢機卿は、魔王からの質問に動揺し、さらに言い当てられて表情を歪める。

この場に来たのも、魔王に取り入って勇者召喚の謎を探るため……。

何故、枢機卿が行っている勇者召喚が失敗しているのかが分かれば、隙を見て魔王のもとを去り、勇者を召喚して自らが指揮して魔王を討伐するつもりだった。


だが、ここにきてすべてを見透かされていたことにようやく気付いた。

枢機卿は、すべてをあきらめたように肩の力を抜きその場に座り込んでしまう。


「……はぁ、その通りだ魔王。

だが、もうあきらめた。魔王にはすべてお見通しのようだしな……」

「つまらヌノう、もうあキラメるとは……」


心底つまらない表情をする魔王は、座り込んでいる枢機卿を路傍の石でも見るような目で見ていた。

魔王に、蔑んだ目で見られてゾクゾクした枢機卿だが、その感覚を無視して質問する。


「なあ魔王、私の勇者召喚は間違っていたのか?」

「クックック、魔王復活ととモニ勇者召喚陣が使えルヨうになる、だッタか?

アれはウソよ。

本当は、私の魔力ヲ使って勇者召喚がでキルようになる、ダ」

「……それは、どういう意味だ?

勇者召喚陣に、大量の魔石、そして召喚者の意志があれば、魔王復活後、勇者を召喚できるはず。

なのに、魔王の魔力が必要とはどういうこと……」


枢機卿は教会の許可の元、魔王が復活したときより毎年勇者召喚の儀式を行っていた。

勇者召喚陣を前に、大量の魔石を召喚陣にばらまき、枢機卿自身が祈り勇者を召喚する。

だが結果は、召喚陣は起動するものの勇者が呼び出されることはなかった。


毎年毎年、大量の魔石を消費しても召喚できない枢機卿に対して、何度か別の者が召喚を試みるも勇者を召喚できたものはいなかった。

何が間違っていたのか、教会幹部や枢機卿は頭を悩ませる。


魔王復活から数十年が経過し、勇者オオノも勇者地も無くなった今、教会は窮地に陥っていた。

そこで、枢機卿はなりふり構わずに魔王本人に聞くことにした。

そして、今、魔王の前にいる……。



「フフ。枢機卿、魔王とは何ダ?」

「は? 魔王は、魔王でしょう。魔族の王であり魔物の王。

そして今、俺の目の前にいる、お前のことじゃないのか?」

「違ウ、魔王とは……これノコとだ」


そういうと、魔王は自らの服を開き豊満な胸を見せた。

その光景に、神に仕えるはずの枢機卿が顔を真っ赤にして口をパクパクさせる。


「……どコヲ見ていル、ここダ、ここ」


少し呆れた表情で、魔王は胸の中心にある外に出て見えている魔石を指さした。

魔王の魔石は、その大きさから体内にあったとしても一部は外へと突き出ている。

それが、胸の中央に見えている赤い魔石だった。


「この魔石こソガ、真の魔王ナノよ。

この魔石カラ漏れ出る魔力ガ見える? それホドまでに、こノ魔石ニは魔力が蓄積さレテいる。

勇者召喚にハ、この膨大とモイえる魔力を利用シて行わレルのよ」

「ま、待て! どうやって復活した魔王の魔力を使えというのだ?

召喚陣まで連れて来いと? そんなこと、できるわけがないだろう!!」


勇者召喚陣に、お前を倒すための勇者を呼ぶため力を貸せと言っているようなもの。

そんなの実際は無理だ。

一体、昔はどうやって勇者召喚をしていたというのだ?!


枢機卿は混乱し始めていた。

だが、その答えを魔王が話し出す……。


「落ち着きナサい枢機卿。

私が言っテイる勇者召喚は、レストゥール聖王国の行なッタ勇者、イえ異世界人召喚のやり方を話しタノよ。

まだ私が、封印ノ魔法陣の中心で封印の石板の中ニイた頃の話ネ。

ソして、本来の勇者召喚にハ必要な要素が一つアる……」


「そ、それは何だ?」

「それは、私タチ魔族によル地上の者への虐殺ヨ」


これまでで一番深い笑みを浮かべ、枢機卿を見る魔王。

枢機卿は、体の芯から凍えるような冷たい笑みだと感じた。


「虐殺を行イ、天界の女神が聖女を通しテ力を貸し本来の勇者召喚陣が起動し、勇者が召喚されルノだ。

ソレと、魔王討伐とは魔王の持ち主デアる私を倒すコト。

魔王封印とハ、この魔石ヲ封印すルコとよ」


枢機卿は、魔王の話を聞きようやく勇者召喚の使い方を理解した。

後は、教会に帰還して女神に祈り勇者召喚を行うだけ。

おそらく、魔王が復活している今なら、女神への祈りだけで勇者召喚ができるはず。


そう答えを出すと、枢機卿は懐から一つの魔石を取り出す。


「これは帰還石! ダンジョンから一瞬のうちに帰還するための物だ。

魔王、いい話を聞かせてくれてありがとう!! 【帰還】」


枢機卿は帰還石を頭上に掲げて、呪文を唱えるが何も起こらない。

おかしいと焦り、何度も何度も呪文を唱えるが何も起きることはなかった。


「【帰還】、【帰還!】、【帰還!!】

……何故だ……」


絶望の表情の枢機卿に、魔王は笑いながら答える。


「魔王かラハ、誰も逃レラれない……」



……その後、枢機卿の姿を見た者は誰もいなかった。

地上でも、そしてダンジョン内でも……。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る