第134話 襲撃と避難
Side リーナ
「ハァ、結局、きちんとした歴史書は存在しないということだけが分かりましたね」
「私も、こんなにバラバラな歴史書は初めてです。
何故こんなことに……」
「ここを見て、リーナ。
巻末のここ。他の本にもあるけど、この全部製本した場所が質問の答えよ」
私は、ルリィの指摘する歴史書すべての巻末に書かれている製本した場所を見ると、本ごとにバラバラの貴族領の製本商店が記載されていた。
「これって……」
「そうよ、貴族ごとに歴史の改ざんがされているということよ。
特に勇者隊に所属していた貴族がいた領地の製本商店は、改ざんが酷いわね」
「その貴族の都合のいいようになっていますから。
……この本など、特にひどいわ。
他の歴史書でも、魔王復活を知らせたのは勇者オオノ殿になっているのに、この本だけその勇者隊に所属していた貴族が知らせたことになっているし……」
さらに酷い改ざんは、勇者隊は自分が設立したとか書かれているものまである。
もはや、ギャグレベルです。
「歴史はもういいわ。
これからは、周辺の町や村などについて調べましょう。
特に、あの浮遊船についてもね」
資料室の窓から、町の外から新たに浮遊帆船が向かってくる光景が見える。
確かに、いつごろあんな船が出てきたのか気になります。
「それじゃあ、始め…ッ!!!」
その時、窓の外の浮遊帆船の後方が大爆発!
そして、大きな軋む音をたてて浮遊帆船がゆっくり下降していく。
「!! ディアナ! ルリィ!」
「すぐに避難しましょう! こっちに落ちてきているわ!」
「はい!」
私たちは、すぐに資料室を出ると階段を急いで下り、冒険者ギルドのロビーへと出る。
すると、ロビーではすでに職員たちが避難するために動いていた。
「ディアナさん! すぐにギルドの外へ!」
「資料室の窓から見えました! リーナ! ルリィ! まずは外へ!」
ディアナの指示通り、私とルリィは職員さんたちと一緒に外へと避難する。
私たちが外へ出ると、私の後ろからバリバリといった大きな音が響いてくる。
「リーナ! 早く! 走って!!」
「は、はい!!」
冒険者ギルドの出入り口から、ディアナたちの元へ斜めに走った私の後方に、大きな船の側面が滑りながら現れた!
すでに、今までいた冒険者ギルドは滅茶苦茶だ。
ゴオォォォという唸りのような音を響かせながら、今まで飛んでいた浮遊帆船が墜落した。
「お、おい! 火災が起きている! すぐに火を消せぇ!!」
「しょ、消火担当! 魔術師! すぐに消化しろ!!
大切な、ギルドの財産が燃えてしまう!」
「は、はい!!」
「お、おい! 急げ!」
「帆船の中に、生存者はいないのか?!」
「すぐに助け出せ!!」
大騒ぎしながらも、消火や生きている人を救出している。
だけど、残念ながら帆船の後方にいた人たちは、ほとんどの人が亡くなっていた。
中には、遺体の一部が無い人もいたらしい。
私たちは、離れた場所からこの騒ぎの光景を眺めていた。
何故、こんなことが起きたのか考えながら……。
「リーナ、無事でよかったわ……」
「ディアナ、でも……」
「しょうがないことよ。
私も本当は、みんな助かってほしいけど、そういうわけにもいかないでしょ?」
「……そ、そうだよね……」
頭では分かっているのだが、気持ちがざわざわしてしまう。
私の目の前で、助かる命と助からない命がいるなんて、と……。
「ルリィも、無事で……。ルリィ?」
「ディアナ、あそこ!」
ルリィは、怖い表情で空を指さす。
私たちは、その指された空を見ると何かが浮かんでいる。
「……何、あれ」
「!! ギルドマスター! 空賊が現れました!!」
「何ぃ!!」
私たちの登録の時に対応してくれたギルド職員の女性が、ギルドマスターと思われるムキムキの男性に話しかけている。
緊急事態ということなのだろう。
それにしても、空賊。
空を飛ぶ帆船を襲う盗賊だから空賊か。
空に浮かぶ何かが、下降してくる。そして、その時初めてその下降してくるものが船であることが分かった。
浮遊帆船よりもさらに小さい船で、乗っている空賊も、見えるだけで五人しかいない。
でも、爆破し墜落させて盗る物が残っているのだろうか?
▽ ▽ ▽
Side ディアナ
「皆さんは、すぐに避難してください。
向こうの建物が避難場所になっています」
「分かったわ」
ギルド職員の女性に教えてもらった場所は、冒険者ギルドが持つ訓練場らしい。
大きくて丈夫な建物らしく、町に何かあった時の避難所の一つになっているそうだ。
リーナとルリィを連れて、私たちは避難する。
空賊相手に、どう戦っていいかもわからないし、相手の力も分からない。
何より、私たちはこの町に来て初めて浮遊帆船を見たほどだ。
何もできない悔しさもあるが、今は避難して戦う人たちの邪魔にならないようにすることだ。
避難場所の訓練所に入ると、たくさんの町の人が集まっていた。
どこに、こんなにいたのかと思えるほどの人数だ。
「どこから避難してきましたか?」
話しかけられたのは、避難所に入ってすぐでした。
避難者の所属や、ケガなどをしてないかの確認をしているそうだ。
「冒険者ギルドからです」
「ということは、空賊によって落とされた帆船を見たんですね?」
「はい、資料室の窓から目撃しましたわ」
「それは危なかったですね。
ここはもう安全です、すぐに係りの者が来ますから、その人について行ってください」
「分かりましたわ」
そう何かを書きながら確認すると、次に避難してきた人の元へ行った。
あれで、誰が来たのか確認しているのか……。
そんなふうに考えながら眺めていると、すぐに女性が近づいてきた。
「避難されてきた方ですね? そちらはお友達ですか?」
「彼女たちは、同じ仲間ですわ」
「では、身分証になる物を提示できますか?」
「ギルドカードで、よろしいですの?」
「ええ、それで構いません」
そう言われ、私たちはギルドカードを女性に見せる。
三人分のギルドカードを確認すると、すぐに避難所の奥に案内してくれるようだ。
「では、私について来てください。
みなさんの避難できる部屋に案内します」
「よろしくお願いします」
この町は、こういうことが多いのかもしれない。
こんなにも、避難の仕方が確立されているなんてと、感心した。
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