第132話 北の町で
Side トラビン
運搬ギルドより、レストールの町跡から北へ向かった先に町のことを調べて来てくれという依頼があった。
各ギルドの人々と一緒に向かってほしいとのこと。
そこで、依頼を受けた俺は各ギルドの人たちと一緒に向かうことになった。
「んん~~、出ませんねトラビンさん」
「街道がこれだけ整備されていれば、魔物が嫌う物が埋められているのでしょう。
だから、街道が安全地帯になっているんだと思いますよ」
「それじゃあ、私たちに出番はないわけですね?」
馬車の御者席に座っているのは、馬車を操る俺と冒険者ギルドから参加したディアナさんだ。
狩人系の職業で弓を得意としている。
「そんなことないですよ。
魔物がいなくても、盗賊とかが襲ってくることがあるんですから」
「それじゃあ、その時までは暇ですねぇ~」
そう言って、背もたれに体を預けて背伸びをする。
本当に、暇そうだな。
「ねぇねぇディアナ、暇なら遊ばない?
私、カード持っているよ」
「遠慮するわ。リーナにカードで勝ったためしがないもの」
「やっぱりリーナ、カード強すぎでしょ。
何か、イカサマしているんじゃないの?」
「してないわよ! イカサマして勝って、何が面白いのよ」
「ルリィ、リーナは不正はしてないぞ。
ただ、運が異様に強いだけだよ……」
「そうそう」
今回の調査依頼に同行しているのは、運搬ギルドから俺が、冒険者ギルドからディアナ、リーナ、ルリィの三人。
商人ギルドから、カーブル。料理ギルドからシーラが参加している。
魔物や盗賊の類も出てこない旅が、約三日ほど続いた後、町の城壁が見えてきた。
あそこが、レストールの町跡から北にある町だ。
「ちょっと、何あれ! 帆船が空に浮かんでいるわ!!」
馬車の幌から顔を出してみたルリィが、町の外壁の側に浮かんでいる帆船に驚き声を上げた。
周りに、人はいない。
ルリィの大声を聞いたのは、俺をはじめとした馬車にいるメンバー。
それだけだ。
ルリィの声に反応した馬車のメンバーは、ルリィと同じように空に浮かぶ帆船を見た。
「ホントだわ。本当に帆船が浮かんでいるわね……」
「あれって、魔導船じゃないかな?」
「魔導船? カーブルさん、魔導船って何ですか?」
「魔導船というのは、昔の魔導国が造り出した伝説の空飛ぶ船だよ。
地形の影響を受けないから、辺境とかに物や人を運ぶのに重宝したらしいよ?
ただ、戦争で利用されるようになったけど、対抗策が立案されたことで物資運搬にだけ使われるようになったのが今の魔導船だよ」
「へぇ~」
まあ実際は、フライプレートと言う乗るだけで浮かび、空を飛べる板が開発され、場所や人員をある程度必要とする帆船が廃れていったらしい。
古代魔導国という歴史研究の書物に書かれていたらしいが、今、この時復活したのかな?
町に近づき、空に浮かぶ帆船を下から見ることができた。
「ん~、海に浮かぶ帆船そのものだな……」
「ということは、急遽魔導船に改造したのか?」
「あそこ! ほら、城壁の上だよ」
今度は、ディアナが何か見つけたようだ。
ディアナが指さす、魔導船側の城壁の上を見ると鎧を着た兵士の姿を見た。
同じような槍を持っている兵士が何人もいるところから、近衛兵かな?
ならば、あそこで出入りしている人たちは貴族や王族ということになるか?
「……あれは、関りにならない方がよさそうだな」
「身分が高い人たちに関わると、ろくなことがないからね……」
「「同感」」
ディアナたち冒険者が同感したので、俺たちは何事もなかったかのように町の門を潜って入っていった。
「まずは、宿を探さないとな」
俺がそう言うと、ルリィが町を見渡してある違和感に気づいた。
「ね、ねぇ、この町、人が少なくない?」
「……そうねぇ、ちょっと見渡しただけだけど少ない気がするわね」
「リーナ、気じゃないよ! もうすぐ夕刻だよ?
この時間で、通りを歩いている人が少なすぎるよ……」
「そういえば、開いている商店も少ないな。
ここから見ただけだが、開いている店も働いている人が少ない感じがするな」
それに、宿の位置も気になるな……。
こんなに町の中心に近いところに宿があるのも、変な感じだ。
そして、宿も寂れた感じだ……。
宿の前で馬車を止めると、降り際にディアナが指示を出した。
「トラビンさんとカービンさんにシーラさんの三人は、宿にいてください。
私たちは、冒険者ギルドに行ってきます。
あそこなら、情報収集ができると思いますから」
「了解」
「ディアナちゃん、気をつけてね?」
「シーラさんも、気をつけてくださいね?」
「ええ、ありがとう」
ディアナさんたちが冒険者ギルドへ、カービンさんとシーラさんが宿の宿泊手続きを済ませようと中に入り、俺は宿の裏にある厩に馬を引いて移動していると、城壁側に止めていた魔導船が大きな音をたてながら動き出した。
風が、魔導船に集まりボボボッという音とともに城壁からゆっくり離れていく。
そして、離れながら大きな帆を張り、ゴゴンと木が擦れる音とともに魔導船が進み始める。
俺は、その光景を唖然と見ていた。
「……すっげぇな!」
「ヒヒーンッ!」
馬の嘶きで、すぐに自分がしなければならないことを思い出し、厩に馬を入れて正面から宿の中へ入っていった。
中に入ると、カービンさんとシーラさんが宿泊手続きが終わったのか談笑をしていた。
「あ、トラビンさん、さっきの音は何ですか?」
「あれは、魔導船が動く音ですよ。
さっき、魔導船が動き出してゆっくり飛んで行きました」
「ええ、それは見たかったな……」
「また見れますよ、カービンさん。
それで、どっちの方向に飛んで行ったんですか?」
「あれは……北ですね。さらに北へ向かって飛んでいましたよ」
「北……」
俺たちは、この町に来たばかりだが町の門の位置は分かる。
何せ、門の場所は城壁の色が少し違うのだ。
この町に門は三カ所。 魔導船が向かった北、そして、俺たちが入ってきた南。後は、城壁が途切れていた東と思われる。
「あ、この町の名前が分かったぞ。
『クレンベルス』というそうだ」
「クレンベルス……ね、分かりました」
町の名前も分かり、後はディアナさんたちの帰りを待とう。
魔導船の謎や、町の人口の謎が分かるかもしれないし……。
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