第131話 報告と今後



Side 五十嵐颯太


「で、これがレストールから東にある町に行った調査隊の?」

「はい、持ち帰ってきた『神父の日記』です」


飛行ゴーレムによって、上空からレストールの町の周辺の地図が制作され各方面に町が存在することが分かった。

そこで調査隊を結成させ、調査をさせて、あわよくば交流を取れないかと各方面に派遣させる。


そして、一番近い東の町へ行った調査隊が持ち帰ってきたのが『神父の日記』と呼ばれた紙の束だ。

本の存在は確認していたが、ノートの存在は確認していなかった。

俺がまだ異世界にいた頃でも、ノートに関しては確認していなかった気がする。


無地のノートじゃなくても、こういう白紙の紙にメモや日記などを書いていたのだろう。

何せ、他人が読むものではないからな。

日記やメモなどは……。


「それで、この日記に勇者隊反乱のことが書かれてあると?」

「いえ、そのことは出てきません。

ただ、あの日、神父の居た町からレストール方面に何が起きたのかが書かれていました」


そう言って、ミアはその時のことが書かれた日記を渡してくれた。

俺はそれを受け取り、読んでいく……。



『聖神歴362年5月14日


 今日、世界は終わりを迎えたのだろうか?

 教会から外に出て西の空を見ると、レストールの町がある方角に真っ黒な雲が見えた。

その雲から発せられた黒い稲光を何本も確認すると、数分後に轟音とともにあの恐ろしい気配を感じたのだ。

私には分かる。

この心の底から逃げろと訴えかけてくる感情は、魔王が復活したとしか思えない。

だからこそ、町の人は我先にと東へと逃げ出した。

私も、この感情に任せて逃げるべきだろうか?』



「魔王復活?」


いや、ありえないだろう。

魔王は確か、封印魔法陣に封印されていたはず。しかも、管理は協会がおこなっているんだぞ?

復活なんて、ありえないだろう。


「ミア、本当なの? 魔王復活なんて……」

「それも含めて、他の町や村などで調べているのです。

レストール周辺にある各村や町などに送ってもらった調査隊から、次々と結果などが持ち込まれていますから」

「真相は、すぐに判明するか……」


しかし、もどかしいね。

ダンジョンの中のことなら、何でもわかるのだけど、ダンジョン以外のこととなるとこうして調べないと分からないなんて……。


「でも、東の町に人がいない理由は分かったね。

この日記に、恐ろしい気配から逃げるためにとあるし、神父も、心の底から訴えかけるほどの感情とある。

それに、この日記の続きにあるように町の人々が神父を残していなくなるまでに、数日かかったとあるし……」

「それまでずっと、魔王の恐ろしい気配を感じていたと書かれていますね。

……ですがここ、5月24日の日記に、あの恐ろしいまでの気配が何事もなかったかのように消えたのだ、とあります。

これは、魔王が移動したということでしょうか?」

「たぶんね。

確か、教会では魔王はダンジョンの力を借りて強くなるんだっけ?

だから、ダンジョンのある場所に移動したと考えられる……。

真相は分からないが……」


でも、帝国領内にはダンジョンが無いはずだから帝国外の別の大陸へと移動したことになる。

ただ、今や帝国そのものがどうなったのか分からないな……。

あの時、勇者隊が反乱を起こしていたということは、帝国内も混乱と戦乱で大変なことになっているのかもしれない……。


「どれも調査隊の報告待ちか……。

そう言えば、東の町にダンジョンの入り口を移動できないか質問がきていたよね?」

「はい、レストールは荒廃しましたから東の町を活用できないか、と」


人々がいなくなり、唯一の神父も亡くなっていた東の町。

人々が戻ることを願っていた神父の願いをかなえてやりたいから、東の町の中にダンジョンの入り口を作れないか……。


結論から言えば、できないことはない。

ただ、今はこのレストールの町跡を中心にして調査をしている時。

だけど……。



「ミア、エレノアを東の町の調査に向かわせてくれる?

町のどこかにダンジョンの入り口を作るにしても、どこがいいのか調査が必要だ」

「分かりました」

「調査が終わって、ダンジョンの入り口の場所が決まったら、すぐに空間座標を変えて移動する」


ダンジョンの出入り口は、空間座標と呼ばれるもので固定されている。

これは、ダンジョンを造った当初に決めた場所の座標がそのまま当てはまるのだ。


そもそも、ダンジョンで表に出ている部分は出入り口のみなのだ。

後の階層などダンジョン内の部分は、別空間にあってたとえ表で地震などの災害が起きても、ダンジョン内には影響はほぼない。


言うなれば、ダンジョンとは『どこでも〇ア』に近い存在かな。

……いや、ちがうか。




「マスター、レストールの町跡を調査している者たちから、聖剣の残骸を発見したと報告が来ました」

「聖剣?? 確か、あのお転婆姫が持っていた? その残骸?」

「はい、こちらです」


そういうと、ミアは聖剣の柄の部分だけの映像を見せてくれた。

また、聖剣のどこかの刃の一部と思われるものもあった。

これらの発見から、聖剣は砕かれたと思われる。


もしかして、あのお転婆姫が魔王と戦った?

……まさかな。

もし戦うとしても、メイドさんや勇者が止めただろう。


「勇者オオノ殿たちがどうなったかも、調べないといけないな……」

「はい、私も気になります」


「そういえば、肝心なことを忘れていたな」

「どうしました? マスター」

「もし魔王復活となれば、勇者召喚を行うはずだよな?」

「必ずしもそうとは限りませんが、行う可能性は大いにありますね」


ダンジョン討伐を示唆する教育を行う教会だ、勇者召喚をしないはずがない。

となれば、現代人の中に行方不明になっている人がいるかもしれない。

どの時代のどこから呼ぶか分からないが、行方不明者リストを作っておいた方がいいかもしれないな……。


大変な作業になるかもしれないが……。







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