第130話 人の居なくなった町で



Side ロビン


「とにかく、案内するわ。

町中に魔物の気配はないし、安全だと思うから……」

「了解。それじゃあ、ゴーレムはどうしようか?」

「ゴーレムには、町へ行って門のところで警戒をお願いしましょう」

『了解しました』

「え?」


みんなを案内するため、馬車の側で話し合っているとニーナがゴーレムをどうするか聞いてきた。

私は、召喚したまま町の門兵として警戒させておこうと提案すると、それが命令になったようだ。

離れた場所で警戒、護衛しているゴーレムに聞こえたらしく返事があった。


「驚いたわね、あんなに離れているのに……」

「どうやら、今回ギルド側はかなり警戒しているみたいね。

こんなに高性能な、ゴーレム召喚魔石を渡してくるなんて……」

「ま、とりあえず案内するからついて来て」

「了解」



馬車を引きながら、歩いて町に近づいていく。

そして、町に近づけば近づくほど、その異様さに気づいてくる。


何せ、町をぐるりと囲んでいるであろう城壁に崩れた箇所は見当たらない。

詳しく調べたわけではないが、見えている部分は無傷だ。

さらに、町に続く街道も壊された、荒らされた形跡はない。


街道の両端には、魔物除けの魔法陣が刻まれた石が置かれているのだが、それが壊されたりした形跡がない。


だから、不思議でならなかった。

何故、この町に人がいないのかを……。



町の入り口の門を潜る時、サーシャが何かを発見した。


「ロビン、あれって結界石じゃないかな?」

「結界石?」


私は、サーシャの指さす方向を見ると門の石材の一部に結界石を発見した。

確かに、あれは結界石だった。


「……ということは、魔物除けのためですね。

町の門から魔物が侵入しないように、石材に混ぜて造られたということですね」

「それって、どこの町でも同じように作っているわけではないんですか?」

「今は、結界石よりも魔石を使っているわね。

結界の魔法陣を魔石に刻んで、門のことに飾っておけば効果は結界石の何倍もあるし……」

「へぇ~」


「ということは、この町はかなり古い歴史がありそうですね」

「う~ん、どうかな?

結界石を織り交ぜた建築は、そんなに昔の建築方法ってわけでもないし……。

とりあえず、今回の調査には関係ないでしょ」

「ですね」


みんな納得したようで、これ以降この話題が出ることはなかった。

そして、町の異様さに気づき始める。



「ロビン、これってどういうことなの?」

「分からないわ。私が来た時には、もう誰もいなかったんだし」

「そう……。とりあえず、手分けして探してみましょう」

「了解」

「それじゃあ、俺たちはこっちの方を探してみる。

ランドは、馬の世話を頼む」

「分かりました」


ランドさんをこの場に残し、私たちは手分けして町の中を調べ回ることにした。




▽    ▽    ▽




Side ニーナ


誰もいない町を歩いて、何か情報がないか探す。

時には店の中へ、時には住人の住んでいた家の中へと入ってみるが、誰もいなかった。

というより、どこの家も店もかなり埃などが溜まっていた。


人がいなくなって、だいぶたっている証拠だ。


「……ここも、いなくなってからだいぶ経っているわね」

「冒険者ギルドでも、こんなになるなんてね……」


私とロビンは、冒険者ギルドの建物の中へ入ってきたが誰もいなくて閑散としていた。

さらに、掲示板には依頼書が貼られたままの所を見ると、この町の住民全員が引っ越したということはないと分かる。


「見て、ロビン。テーブルの上に食器がのったままよ」

「この皿にのっているのは、骨のようね……。

後は何にもないということは、腐って無くなってしまったということかな?」

「そうでしょう。

そして、それだけ時間が経っているということでもあるわね……」


一体いつ、この町の人たちはいなくなったのだろう。

そんなことを考えていると、サーシャが息を切らせながらギルドに入ってきた。


「み、見つけたわよ!

この、この町で、何があったのか! どうして、人がいないのか分かる物を!」

「本当?! サーシャ、どこにあるの?」

「教会よ! 来て!」


そういうと、サーシャはギルドを出ていく。

私とロビンは、サーシャの後を追ってギルドを出ると教会へ急いだ。



途中、商人ギルドから出てくるダンカルさんとデビットさんを見つけ、一緒に来るように促した。

そして、私たちはそろって教会へと入っていく。



礼拝堂の中も、埃が溜まっていたが他の場所と積もっている量が違う気がする。

これは、人がいなくなった後でも掃除をした形跡があるということか?


サーシャの案内で、教会の奥に進むと神父の部屋の前まで案内された。


「ここに、手掛かりになるかもしれない物があったわ」

「手掛かり? 人がいなくなったことの?」

「ええ。

これから中に入るけど、驚かないで」


そういうと、サーシャは扉を開けて中の様子を見せる。

すると、小さな部屋の脇にあるベッドの上に人の骨が横たわっている。

頭蓋骨から、全身の骨がそのままだ。


「う……」


思わず、デビットさんが口を手で押さえるも匂いは全くない。

ただ、埃臭いだけだ。


「そ、それでサーシャ、手掛かりになりそうな物って?」

「こっち。この机の上にある、この紙の束よ」


ベッドの反対側にある小さな机と椅子。

その机の上に、何枚もの紙の束が置かれていた。


実は、この世界にも紙は存在していた。

過去に召喚された勇者か、迷い込んだ異世界人の手によって伝えらえられていたようだ。

ただし、印刷技術はなかったようだが……。


「この紙の束……、もしかして日記か?」

「おそらくね。

私も少し読んだけど、大半が町の人がいなくなってからのことだったみたい」

「ん~、懺悔がほとんどだな。

誰もいなくなった店や住居から、残っていた食糧を持ってきたことに対するものだ……」

「あ、これ! 『西のレストールの町から、恐ろしい気配が無くなって二十日が経つが、人々は戻ってくるのだろうか? もし戻ってきたら、誠心誠意謝罪しなければ……』てあるけど、西の恐ろしい気配って何のことだろう?」


ダンガルさんが、不思議に思う恐ろしい気配。

おそらく、その恐ろしい気配の原因がレストールに起こったことであり、この町の人々がいなくなった原因だろう。


「それよりも、気配がなくなって二十日って書いてあるわね。

二十日前の日記はどこかにない?」

「確か、こっちにあったような……」








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