第119話 報告と条件
Side ミア
「それで、明日も話し合いを行うの?」
「はい、今日はハプニングもありましたが、顔合わせといったところでしょう。
そして、明日の話し合いこそ帝国が私たちダンジョン側に要求を突き付けてくるはずです。
おそらく、その要求は……」
「物資の取引、か」
さすがマスター、帝国の要求が分かっているようですね。
帝国側は、私たちのダンジョンが旧レストゥール聖王国を陰で支えていたダンジョンであると分かっていて話し合いを求めてきました。
「これから帝国は、粛清と戦争で忙しくなるようですから、私たちダンジョンに陰から支えてほしいということでしょう」
「聖王国のように、か?」
「はい」
「ん~~」
考えこまれていますね。
また、あの陰から支え無茶な要求の日々が戻ることを懸念されているのでしょうか?
まあ、あの頃は聖王国の言うことがすべてでしたからね。
異世界を知ることができたのも、ダンジョン運営をして三年がたった頃でしたし……。
「何か気になることでも?」
「いや、もし帝国の要求を呑むとしても、今のダンジョンのキャパじゃ支えることは無理だと考えてね?
だから、もし帝国が俺たちに陰から支えることを要求してきたらあるものを手に入れてきてほしいと要求しようと思ってね」
「あるもの、ですか?」
「オリジナルのダンジョンコアだ」
「そ、それは……」
ダンジョンコア、それはダンジョンの最下層にあるとされ、ダンジョンそのものを形作るものといわれている物。
その大きさは、物語などではよく抱えるほどの大きさだのダンジョンの大きさによって違うだの言われていますが本当の大きさは握りこぶし半分ほどの大きさです。
出なければ、マスターの胸に埋め込まれていないでしょうから……。
でも、そのダンジョンコアを要求するというのは……。
「マスター、帝国にそれを要求するのは……」
「ああ、無い物を持ってこいという条件だ。
まるで、かぐや姫の求婚の条件だな!」
「……マスター、かぐや姫という物語がお好きなのですか?」
「いや、昨日テレビの映画でやってた」
「……」
ま、まあ、条件はいいとしましょう。
向こうの世界はまだ、魔素が枯渇している様子はありません。おそらく、ダンジョンがまだ残っているからでしょうね。
ただ、帝国では殲滅宣言が出されていますから、もし手に入れるなら別の国、もしくは別の大陸へ行くしかないでしょう。
「ですが、無い物を条件にして帝国は呑むでしょうか?」
「……帝国はダンジョンに陰から支えてほしい、ということは、食糧やダンジョンで作っている生活物資などを要求するはずだ。
となれば、現在貿易している日本と同じことをすることになる。
ダンジョン内の住人の生活も支えなければならないこの状況で、帝国まで面倒は見れない!
ではどうするか?」
「……ダンジョンの階層を増やす」
「正解! だが、現在このダンジョンは限界階数となっている。
この先、条件を満たして新しいダンジョンスキルを覚えたとしても、階層が増えるわけはない。ならば、新たなるダンジョンコアを吸収して器を拡大させるしかない」
マスターのダンジョン階数が十階層しかないのは、階層を限界まで広げたため。
そのため、一階層ごとの収穫量が一国並みになっている。
食料自給率で言えば、ダンジョンだけで約二百五十%ぐらいか。
だからこその、日本と貿易をしている。食料などを海外に頼らなくてもいいように。
「でも、新たなダンジョンコアなどどうやって……。
あ! もしかしてマスター……」
「ああ、勇者隊の解散。そして、勇者オオノ殿の率いる騎士団の誕生。
これを利用して、新しいダンジョンコアをお願いしようと思っている」
「……帝国は、どう出てくるでしょうか?」
「俺は呑むと思うよ。
ただ、警戒はさせるだろうけどね。
帝国の監視を、ダンジョン内の町に置いてくれということになるだろうな」
「そこまでして、新しいダンジョンコアを……。何故ですか?」
そう問うと、マスターは笑顔で答えてくれました。
「父さんからお願いされているんだよ。
ファンタジーダンジョンパークをもう一つ造ってくれないか、てね。
で、どうするかずっと考えていたんだ……」
……もう一つのダンジョンパークですか。
確かに、いろいろなところから打診が引っ切り無しにあるとは知っていましたが、マスターのお父様は、何とかならないか相談されたのですね。
おそらく動いたのは、マスターのお父様の幼馴染の日本国総理大臣のあの女性。
……これは、断れませんね。
「……少し前から、ダンジョン内人数百万人を目指したのも異世界との繋がることのできるスキルを手に入れるため。
そして、異世界と繋がったら、ダンジョンコア収集隊を結成させて手に入れてもらいたかったんだけど、帝国のおかげでダンジョンが殲滅されたと聞いたときはガク然としたよ。
ただ、向こうで魔素が無くなった感じはなかったからどうするかと考えていたんだ」
マスターは、すでに新たなダンジョンコアをご自身に受け入れる覚悟ができていたということなのですね……。
新しいダンジョンコアを手に入れるだけでは、新たなダンジョンマスターと新しいダンジョンが誕生するだけ。
マスターのダンジョンのように、即戦力のダンジョンにするには、マスターが新たなダンジョンコアを吸収し、第二のダンジョンを造りだせば、第一のダンジョンのコピーができるはずです。
それを第二のダンジョンとして、新しいファンタジーダンジョンパークとして開園するのでしょう。
そして、帝国を陰から支えることが可能となる……。
▽ ▽ ▽
Side ログフド
「ハァ~、カエデ様が来られたことでヒヤヒヤしたが、何とかなってよかった。
それに、皇帝陛下からの本当の交渉がこれでできるな……」
「ログフド、この書類は本当に皇帝陛下から直接、渡された物なのか?」
信じられないのも無理はない。
今、ビッターが見ている書類もルティア所長は知らないものだからな。
それにしても、今の皇帝陛下は本当に優秀だ。
歴代の皇帝陛下の中で、三本の指に入るほど優秀な皇帝といってもいいほどだ。
前の皇帝は酷かったからな、だからこそ余計に優秀に見えているのかもしれないが、歴代の貴族にとっては目の上のたん瘤だろうな……。
だからこそ、敵も多く暗殺騒ぎも起きているのだが……。
「勇者隊の解散、納得しない者がかなりの数、出てきそうだな……」
「今の勇者隊は、貴族の子息を入れて箔をつけるためだけにあった部隊だからな。
帝国内にダンジョンがないのに、いつまで勇者隊を維持しなければならないんだ、とな」
そういって皇帝陛下が、真っ先に切ったのが勇者隊だ。
だが、その戦力は放置するわけにもいかず今の今まで根回しに時間がかかったらしいが、ようやく解散させるまでに至った。
これから帝国は大変になるが、これを乗り切れば……。
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