第120話 話し合い
Side 五十嵐颯太
「ではこれより、ダンジョン側代表と帝国代表による話し合いを行います。
まずは、帝国側よりお願いします」
「……あ、ありがとうございます。
え~と、まずはこちらを提示させてもらいます」
次の日の歪みの前で、ダンジョン側と帝国側の話し合いが始まった。
話し合いといっても、これからどうするかを決める話だ。
俺たちの要求は、新しいダンジョンコアを入手してもらいたいのだが、それをしてもらうための条件が帝国側から提示されるだろう。
そう思っていたのだが、提示は帝国側からだった。
ログフド殿より、一本のスクロールを出された。
ファンタジー世界で定番の羊用紙に書かれたもので、中身は帝国皇帝からのものだった。
「これは?」
「これは、帝国皇帝からのダンジョンへのお願いです。
現皇帝アステウス二世陛下は、ダンジョンで作られている食糧の売買をお願いしたいのです。
帝国はここ五十年ほど、他国からの食糧の買い付けで何とかやってきましたが、帝国全土を賄うには足りず何かないかと考えておられました。
そこへ、今回のダンジョンの報告ですぐに決断されました」
皇帝がすぐに決断って、昨日の今日だぞ?
報告って、そんなに早く皇帝の元にまで知らされるものなのか?
「あの、早すぎませんか? 報告が皇帝陛下にまで上がるの……」
「ああ、それは『魔導通信』を利用しました。
勇者隊には、最新鋭の魔導通信道具である『魔導通信』が配備されています。
それを使って、皇都におられる皇帝陛下に直接報告いたしました。
勇者オオノ様が……」
そういわれ、帝国側の端の席に座っている勇者オオノ殿を見る。
そこには、お転婆お嬢様のカエデもメイドのメイリと一緒に静かに座っていた。
まあ、勇者なら皇帝に直接報告できるか……。
「それで、どうでしょうか?
ダンジョン内で育てている、食糧の売買をお願いできませんか?」
「それに関しては、マスターより構わないと許可も受けております。
ですから、食糧の売買のお願いは許可しようと思いますが、こちらからも条件があります」
ログフド殿は喜ぶが、すぐに真顔になって条件を聞いた。
「条件、ですか?」
「ええ、こちらの条件は一つだけ……」
「……どのような条件でしょうか?」
ログフド殿は、覚悟を決めて条件を聞こうとする。
どんな条件でも飲むように、皇帝陛下より言われているのだ。
それだけ、帝国の食糧事情は切羽詰まっている……。
「今度創設される予定の勇者オオノ殿の部隊に、新しいダンジョンコアを入手してもらいたい。
その入手したダンジョンコアと引き換えに、食糧の売買の契約を結ぶというものです」
「……ダンジョンコア、ですか?」
「はい、新しいダンジョンコアを入手してもらいたいのです」
ログフドは、すぐに勇者オオノ殿を見る。
すると、勇者オオノ殿は考え込んでいた。
現在、この帝国領内にダンジョンは存在していないことになっている。
そのため、ダンジョンコアを入手しようと思ったら帝国以外へ行くしかない。
だが、そのような時間が帝国にあるのか?
「ログフド、帝国の食糧は何年もつのだ?」
「……オオノ様、帝国ではここ最近、不作が続いております。
すでに備蓄分もすべて出し、他国からの輸入分をうまく帝国内に回したとしても、持って一年です。
後は、食糧争奪の戦争が待っているだけです……」
「何と、帝国はそこまでに……。
だが、今までも何とかなっていたと記憶しておるが……」
「皇帝陛下のおかげです。
皇帝陛下が、いろいろな国へ頭を下げて民のためにお願いしておられたのです」
「何と……」
俺は、隣にいるミアに小声で話をする。
「今の帝国の皇帝は、賢帝のようだね」
「はい、臣民からもかなり慕われているようです。
農業政策や、農作物の研究も力を入れているようですが、帝国では何故か他の国より作物の育ちが悪く飢饉が続いているようですね」
「……原因は分かっている?」
「おそらくですが、ダンジョンを殲滅したからと思われます。
この世界の作物にも魔素が栄養の一つとして含まれていますから、ダンジョンが無くなったせいで魔素が足りなくなり不作になっているのではないかと……」
「……なるほどね」
この世界で、ダンジョンって結構役に立っていたんだな。
というか、ダンジョンを無くそうとしている教会と帝国政府の人たちは、無能の集まりだな。
魔王復活が恐ろしすぎて、切らなくてもいいところを切っている感じだな……。
「ミア殿、我々への要請、承った。
必ず新たなダンジョンコアを入手して、その方らに届けよう!」
「はい、ありが『その代わり!』……」
ミアのお礼を遮って、オオノ殿がお願いしてきた。
「その代わり、二年分でいい。
ダンジョン側に、帝国臣民に対しての施しをお願いしたい!
この通りお願いいたす!」
そう言うと、勇者オオノ殿は日本人ならではの土下座をしてお願いしてきた。
傍から見ても、きれいな土下座だ……。
「私からも、お願いいたします!」
そして、勇者オオノ殿の隣でカエデ殿も同じように土下座をしてお願いしてきた。
勇者のご息女が、同じように土下座をする。
ログフドたちは、その光景を見ているだけであ然としている。
それだけ、驚いたのだろう……。
「……マスター、よろしいですか?」
「ああ、こんなにきれいな土下座だよ? それに地位のあるものが、これだけお願いしているんだ。聞かないわけにはいかないよ」
「ありがとうございます……」
二人で小声で話した後、ミアはログフド殿へ食糧の件を了承した。
帝国で消費される、二年分の食糧をダンジョン側から提供することになった。
でも、二年分ということは、二年以内にダンジョンコアを入手するということと同じだ。
勇者オオノ殿が率いる部隊なら、何とかなるということだろう。
この後は、ダンジョンとの交易の場所をどこにするかとか、ダンジョン側に造る町をどうするかなど話し合いを一応行った。
ただ、まだ決定したわけではない。
ダンジョンコアを入手後、再び話し合うことで今回の話し合いは終了した。
「あ、ところで、そちらの子供はどなたでしょうか?」
「……そういえば、紹介していませんでしたね」
会談の場を離れる前に、ログフド殿がミアに質問してきた。
今回の話し合いの場には、帝国側にログフド殿をはじめとした数人の帝国の人と勇者オオノ殿にカエデ殿とメイリ殿がいた。
そしてダンジョン側には、ミアともう一人子供がいたのだ。
「こちら、ダンジョンマスターの分身になります」
「ダンジョンマスター! ……分身?」
「はい、分身人形です。
ダンジョンマスターに、同席をお願いしましたが昨日の私への件で同席させるわけにもいかないとのことで、代わりになる分身人形を同席させたということです。
本当なら、マスター本人を模った人形にしようとしたのですが、本当の姿をさらす必要もないだろうとのことで子供の姿に……」
「そうでしたか……」
これで、話し合いの場に子供がいた謎も解けただろう。
さて、後は食糧を用意して待つだけだ……。
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