第116話 勇者の力を継ぐもの



Side オオノ


レストールの町に馬車で入ってから、五分ほどで目的のダンジョンの歪みがある場所の近くまで来た。

ここからは馬車での移動はできず、歩くしかない。


ログフドが最初に降り、カエデ殿御付きのメイドのメイリが降りて私が降りる。

そして、最後に私が手を取って降りてくるのがカエデ殿だ。


「……ありがとうございます、オオノおじ様」

「何、これが勇者の行動だと教わったのでな」

「まあ! おじ様、それを言わないで行動するのが勇者であり紳士ですわよ?」

「そ、そうか……」


カエデは本当に十二歳か? と疑問に思えてしまうが、この行動が誤解を招くのだろうな。

現に、ログフドはずっとカエデに怯えている……。


「オ、オオノ様、カエデ様、この先が目的の場所です」

「ん~~、やっとダンジョンを体験できるのですね!」

「カ、カエデ様?!」


はしゃぐカエデを諫めようと、メイリが声を掛けるが感情を抑えられていない。

こんな所は、まだまだ子供か……。


「ログフド様、交渉の準備が整いました。

相手にも通達して、了承をえております」

「分かった、ありがとう。

オオノ様、カエデ様、ダンジョン側との交渉の場へご案内します」

「ああ、よろしく頼む」

「おじ様! 私、少し準備をして向かいますのでお先にどうぞ」


準備? 交渉する話し合いの場で何を準備するというのだ?

カエデの言う意味が分からなかったので、私はメイドのメイリを見る。

すると、笑顔で頷いたので大丈夫ということだろう。


「分かった。合流するときは、静かに来るのだぞ。

話し合いの最中かもしれんのだからな?」

「はい、オオノおじ様」


そう笑顔で答えると、メイリと一緒に後ろのもう一台の馬車へと移動した。

あれに何か積み込んでいるのだろうか?

そう困惑していると、ログフドが側に来た。


「オオノ様、大丈夫でしょうか?」

「ん? んん~~」

「カエデ様にお会いして、どうにもあの噂が頭から離れないのです……」

「噂というと、勇者ナナカの生まれ変わりというやつか?」

「はい」


勇者ナナカが最後に産み落とした子、カエデ。

190歳前後で産んだという超超高齢出産だが、勇者の身体の老化は200歳を目前にしてからだ。

だから、100歳を過ぎようが150歳を過ぎようがその辺りは現役バリバリである。

もちろん私も、現役だから妻は大変だろう……。


それはともかく、勇者ナナカはカエデを産んだ後、寝たきりになってしまった。

もちろん、意識はあるし母親として楓に愛情を注いでいたのは私も見てきている。

それでも、ナナカが亡くなってすぐにカエデが、ナナカの剣術や魔法を自在に使っていたのには驚いたな。


おそらく、そんな出来事が帝国貴族たちの噂に上がり生まれ変わりなどと言われるようになったのだろう。


「それは無いと私は思うぞ。

カエデはカエデ、ナナカはナナカだ。戦い方や能力が似るのは、母娘だからだろう」

「ですが……」

「それにな、ナナカはあのようなお転婆ではなかったぞ?」

「……フフフ、両方を知っているオオノ様がそういわれるのなら噂は噂でしかないのでしょうな……」

「そういうことだ。

それより、案内してくれないか?」

「あ、はい、こちらです」


私は、ログフドの案内で交渉の場へと足を踏み入れる。

前に渡した、私が異世界人だという証にどんな反応だったのか。

気になることは多々あるが、どのような交渉になるか……。




▽    ▽    ▽




Side メイリ


「お、お嬢様! その剣は……」

「いいでしょ? お母様の剣『聖王の証』よ。

この聖剣で、お母様は数々のダンジョンを討伐してきた。そして今、私がその後を引き継ぐの! 魔王をこの世に復活させないために!」


ご立派な決意に、私は涙が出ます。

ですが、その決意は教会と帝国政府の教えを受けたからでしょう。

思えば、勇者ナナカ様をはじめ、勇者様方は教会から魔王討伐、封印、そして復活の阻止を洗脳されるように教えられていると聞きました。


その教えを、お嬢様も幼いころから学んでいましたから、このようなお転婆になることは分かっていたからこそ、皇帝陛下は私たち戦闘メイドを側に置いたのでしょうね。


お嬢様の行動を、何としても制御しろと……。


「お嬢様、ご立派な決意ですがここは勇者オオノ様もいらっしゃるのです。

まずは、ログフド様の交渉をご覧になってから動いても大丈夫でしょう」

「ム~、メイリがそう言うなら見学してあげるけど、動くときは動くからね!」

「はい、それでよろしいかと」


とりあえず、お嬢様から動かれることはないでしょうが、ダンジョン側がどう動くかでまた状況は変わりそうですね……。


「それより、どうかな? このドレスアーマー。

シェーラが薦めてくれたんだよ! この赤いスカート部分が、上半身の軽鎧に合っていると思わない?」

「メイド長のシェーラ様が?

……確かに、お嬢様の体型を考えればこれ以上は無いと言えるドレスアーマーですね。

さすがは、メイド長です……」

「フフフン!」


ご機嫌のお嬢様ですが、戦闘メイドの長たるシェーラ様!

何をお勧めしているのですか!


「そ、それでは、髪を整えて交渉の場へと出陣しましょう、お嬢様」

「ええ、もちろんよ!」


着替えとメイクなどの準備を終えると、馬車を降りて交渉をしている場へと進みます。

ログフド様が待機させていた兵士が、私たちを案内してくれます。


そして、ダンジョンと思われる歪みの前で行われている交渉の場で、私たちは驚きました。

勇者オオノ様が、歪みの前に立つ美女の前で顔を両手で覆っている姿を。

一体、何があったのでしょうか?

ですが、今は!!


「おじ様!!」

「いけません! お嬢様!!」


お嬢様が、剣を抜いて飛び出していかれてしまいました!

向かう先は、歪み前の美女へ……。







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