第115話 ワクワクする



Side カエデ


ダンジョン討伐。

百年ほど前、母のナナカがダンジョン殲滅宣言をしてからダンジョンそのものを帝国領内で見ることはなくなった。


それに、ダンジョンによる被害もなくなったと同時に恩恵も無くなり冒険者たちが困窮することになったとか。

そこで、冒険者たちはまだダンジョンが存在する別の大陸へと捜索に出たとか。

ですが、いまだダンジョン発見の報も討伐依頼も無いということは、別の大陸にもダンジョンは無かったということでしょう。


それなのに、ここにきてダンジョン発見の報が勇者隊にもたらされました。

しかも、勇者オオノ様の出動を要請された。

これは、勇者が出なければ難しいほどのダンジョンということ。


私は、このことを侍女のメイリから聞いて居ても立ってもいられず、勇者オオノ様の元を訪ねることにいたしました。

もう見ることのできなかった、ダンジョンを見て感じるために……。


「フフフ……」

「カエデ様? 何か嬉しいことでもありましたか?」

「メイリ、これが喜ばずにいられますか!

ダンジョンですよ、ダンジョン! お母様が亡くなって、もう聞くこともできなくなったダンジョンが、この町にあるのです!」


メイリにそう言うと、私はレストールの町の城壁を見つめる。

ダンジョンをこの目で見て、オオノ様に許可をいただけたら私自らダンジョンに入ってみたい……。


「もしかしてカエデ様、後ろの馬車に例の物を持って来ておられるのですか?」

「……どうして分かったのかしら?」

「ハァ~、ナナカ様も相当なお転婆だったと聞いていましたが、カエデ様もお姉様たち同様、お転婆なのですね……」

「あら、私のお姉様たちと比べるなんてとんでもない。

あんな化け物みたいな力、私は持っておりませんよ」


私には三人の姉がいますが、どの姉もドラゴンキラーだの一騎当千だの閃光の騎士だの、物騒な呼び名で呼ばれるほどの強さを持っています。

戦場でも活躍して、一人は騎士団の副団長に、一人は辺境伯の領主に、そして最後の一人は帝国を離れて傭兵団を率いているとか……。


おかげで、私まで姉たちと同じようになるのではと危惧されたほどです。

……まったく、いい迷惑です!


あ、オオノ様とログフド様の話し合いが終わったようですね。

ようやく町に入れます!


……フフフ、私、ワクワクしてきました!!




▽    ▽    ▽




Side オオノ


勇者の寿命は、二百年がせいぜいだ。

勇者ナナカさんや聖人勇者イツキさんも、二百歳を迎えると急速に体が衰え老化する。

その後は、五年ともたず死へと至るそうだ。


勇者召喚陣には、こういう罠が仕込まれている。

大昔の研究家であるコブランが、勇者召喚陣を読み切り改造したのは有名な話だ。


私も召喚されて百五十年。

後五十年は、老化せず全盛期の身体でいられるがその後は……。

ならば、送還されればいいのだが勇者召喚陣に送還機能はない。


コブランが改造した勇者召喚陣には、送還機能があったらしいが自身の命を鍵としてようやく作動させることができたとか。


コブラン亡き後、帝国が中心となって研究はされたが、いまだ送還機能に関してはコブランの頃のままだ。


「勇者オオノ様、この先に今回のダンジョンの歪みがございます。

そして、交渉の場でもございます」

「交渉、ですか?」

「はい、カエデ様。

今回のダンジョンは、交渉ができるダンジョンなのです。

そして、その正体はレストゥール聖王国の宮廷魔術師コブランが行った人体実験で生まれたダンジョンであると、私どもは睨んでおります」


人体実験で生まれたダンジョン……。


「ならば、ダンジョンマスターは異世界人か……」

「はい」


コブランの研究所には、異世界人を利用した人体実験の資料もあった。

異世界人の身体に、ダンジョンコアを埋め込むというもの……。


「まあ、そのようなダンジョンが存在するのですね!

……でもぉ~、ダンジョンはダンジョンですわよ、ねぇ~」

「は、はい……」

「ねぇ、オオノおじ様? ダンジョン討伐はしませんの?

交渉をされているということは、魔物と交渉しているということですわよ?」

「……どうなんだ? ログフド」


ログフドは、少し焦っているようだな。

カエデのことが、少し怖いようだ。少し怯えている……。

まったく、カエデのことは噂程度でしかないというのに……。


「こ、交渉相手は、魔物というような方々ではないかと。

この度の交渉に、お二方もご列席されれば……」

「フム、どうする? カエデ殿は」

「もちろん、会ってみたいですわ。ダンジョンの交渉役とやらに……。

でもログフド様? もし相手が魔物と分かった時は……」

「私が倒せばいいだろう」

「さすがオオノおじ様! 勇者の名にふさわしいお方ですわ!」


孫のような年の娘におだてられ、私もまだまだだな……。




▽    ▽    ▽




Side カエデ


フフフ、これで例の物を持ってきたかいがあるというもの。

それに、シェーラの勧めてくれた『ドレスアーマー』のお披露目にもちょうどいい。

ブラシア政府高官の先制攻撃論には、少し疑問がありますが先手必勝という言葉もあります。


ですが、ここはログフド様の顔を立てて相手を確認して一撃を入れて見せますわ!!


さぁ、もうすぐログフド様の仰っていた歪みがある場所です。

馬車を降りたらすぐに準備を始めましょう……。







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