第111話 本当の目的



Side ログフド


行方不明だった三人が出現してから二日後の歪みの前には、向かい合わせに並べられた机と椅子が用意されていた。

ダンジョン側から、話し合いがしたいとのことだったので用意したものだ。


また、行方不明だった三人からダンジョン内、歪みの向こう側について聞いたが誰もいない町があるだけだと知らされた。

おそらく、何かしらのメッセージかもしれないが、今は気にすることでもないだろう。


とりあえず、対話の用意ができたと書いたスクロールを歪みの向こう側に投げたが、果たして届いたかどうか……。


「ログフド、帝国より連絡が。

勇者の出発を確認、到着は二日後の予定。とのこと」

「了解。話し合いはそれまでに、終わらせないといけないな……」


現在帝国が召喚した勇者は、一人になってしまった。

勇者ナナカ様がお亡くなりになると、その後を追うようにわずか三年で聖人勇者イツキ様が亡くなり、最後の勇者のオオノ様を残すのみとなった。


新たに勇者召喚をしようとするも、魔王無き今の時代に勇者は必要ないと、召喚陣も反応を示さず勇者を呼ぶこともできない状態だ。


勇者オオノ様も、今年百五十歳になり先が見え始めた。

帝国政府の中核でがんばっておられるが、寄る年波には勝てず休まれることが日に日に増えていっている。


そんなときに感じた、ダンジョンの出現。

これを利用して、新たな勇者召喚を。

もしくは、勇者オオノ様を元の世界へお返しできないかということ。


地球が、日本が懐かしいと、ナナカ様もイツキ様も、そしてオオノ様も仰られていた。

かつてあったダンジョンの伝説に、ダンジョンの向こう側が異世界に通じているというものがあったが、果たして……。




スクロールを投げ入れてから半日が過ぎた頃、歪みの中から二人の女性が現れた。

帝国の皇都でたくさんの美女を見てきたが、ここまでの美女は見たことがない。

そんな美人のお二人は、姿を見せると我々に挨拶をしてきた。


「初めまして、ダンジョンで巫女を務めております、ミアと申します。

こちらは、同じ巫女をしているエレノアです。

今回は、私どもの提案をお聞きいただき、ありがとうございます」


そう言うと、用意されていた椅子に座る。

隣のエレノアという女性は、ミアという女性の斜め後ろに立ったままだ。

俺はすぐに、もう一つ椅子を用意するように指示を出した。


「お構いなく」


そうエレノアという女性が答え、笑顔を見せた。

その笑顔を見て、動悸が激しくなったのが分かったが気力で表情に出ないようにする。


そして、すぐに椅子が用意され、エレノアという女性が座られた。


「初めまして、帝国勇者隊、先発隊隊長ログフトです。

こちらは、部下で副隊長のサラといいます」

「サラです、初めまして」

「紹介ありがとうございます。

では、話し合いを始めましょうか。

まずは、帝国の勇者隊がこの町へ来た理由を教えてもらえますか?」


いきなり来たな。

ここで、ダンジョン討伐のためとは答えられない。

それに、先発隊だけでダンジョンを討伐できるとは思えないしな……。


ここは、恥もプライドも捨ててまっすぐ聞くことが正解のような気がする!


「ミア殿、単刀直入にお聞きしたい!

その歪みの向こう側は、ダンジョンで間違いないでしょうか?」

「……ログフド?」


俺の質問に、目の前のミア殿やエレノア殿だけではなくサラも驚いていることが分かる。

だが、ここはこの質問が正解だと俺の感が告げている!


「コホン。直球過ぎて驚きましたが、この先はダンジョンで間違いありません。

それも、レストゥール聖王国が所有していたダンジョンです」

「な! ほ、本当に、存在したのか……」


約二百年前に存在した、レストゥール聖王国は、人体実験の結果、独自のダンジョンを保有し繁栄と戦争の助けとしたと歴史書にはあったが、本当のことだったんだな。


「ミ、ミア殿! 聖王国が保有していたダンジョンがあった場所は、現在遺跡があるだけで、ダンジョンが存在していた形跡はありませんでした。

本当に、聖王国のダンジョンなのですか?」

「はい、間違いありません。

正確には、聖王国の魔術師に召喚された異世界人に、人体実験でダンジョンコアを埋め込み造らせたダンジョンですが……」


じ、人体実験という記述は、実際に行われたことだったのか!

聖王国の悪魔の魔術師コブラン。

勇者召喚陣を、異世界人召喚陣に作り変え実験台を召喚したという話も……。


歴史の齟齬があるとしても、ミア殿たちは生き証人なのだな……。


「ログフド殿?」

「あ、これは失礼……」


俺たちの感情が、表情に出ていたらしい。

痛ましい者たちを見るように、歪みの先を見てしまっていた。


「実はですね、帝国が召喚した勇者のお一人が自分の世界へ帰りたいと仰っているのです。その世界は、日本という国で地球という世界にあったと……」

「はぁ……」

「昔からダンジョンには、ある伝説が言い伝えられています。

それが、ダンジョンの奥には異世界への道があるというものです」

「……」


「ミア殿、どうなのでしょうか?

ダンジョンの奥には、異世界へ通じる道があるのでしょうか?」

「……もしあった場合、ログフド殿はどうされたいのですか?」


ここは、もう正直にお話しして信を得るべきだ。

嘘や隠し事をしたら、一気に信を失い話し合いすら持たれなくなるかもしれん。


「勇者オオノ様を、日本へ帰すお手伝いをお願いできませんか?」

「私からも、お願いします!

日に日に衰えられていくオオノ様を見ていると、胸が締め付けられる思いなのです」


俺とサラは、立ち上がり頭を下げた。

今だけは、帝国の利益とか関係なく勇者オオノ様のために頭を下げられる。

オオノ様に、もう一度故郷の地を……。



「……分かりました。ダンジョンマスターに聞いてみましょう。

それと、その勇者オオノさんについて、何か分かる者はありませんか?

日本のどこに住んでいて、どんな仕事をしていたのか、とかですが……」


そういえば、オオノ様が肌身離さなかった物があったな。

確か、免許証というものだったな。

あれ、どこに行ったか……。


「すぐに、探させます。

再びの会談を、お願いしてもよろしいでしょうか?」

「では、後日また……」


そう言って立ちあがると、二人して歪みの中へ入っていった。

……これで、当初の目的は果たされるはずだ……。






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