第112話 新年祭



ファンタジーダンジョンパークの最初の町では今、年越しカウントダウンが行われている。


「「『五!』」」


また先ほどまでは、ダンジョン企画が企画したアイドルたちの年越しコンサートやお笑い芸人たちのトークライブなど、町のあちこちにステージを作り行われていたのだ。


「「『四!』」」


いろいろな日本人の観客の他に、最初の町に住む住人たちも参加した大規模なものだった。


「「『三!』」」


最初の町の中心へ向けて、みんなの視線が集中していく。


「「『二!』」」


十二月三十一日、午後十一時五十九分。

いよいよ、今年が終わる……。


「「『一!!』」」


「「『ゼロ!!!』」」


その瞬間、最初の町の中央に建てられた臨時の塔から各種いろいろな花火が舞い上がる!

さらに、町のあちこちからも、花火が上がり新年を祝った。


「「『ハッピー、ニュー、イヤー!!!』」」

「「『新年、おめでとう!!!』」」


そして、新年祭が始まる……。




▽    ▽    ▽




Side ソフィア


「ビールお替り!」

「はい! 承りました!」


「こっち、ハイボール二つ!!」

「はい、承りました!」


「店員さん! テキーラ貰える?!」

「はい! 承りました!」



向かいの酒場の騒ぎが、こっちにまで聞こえるほど繁盛しているのが分かる。

こちらは、この時間帯に開けるような店ではないので閉めてはいるが、準備は始めているのだ。


新年祭が始まると、毎年同じような騒ぎに巻き込まれるが、今年は一段と騒がしいようだ。

おそらくダンジョンの外の人たちが、この騒ぎに参加しているからだろう。

今も、向かいの店で酔った人がこちらの店のドアを叩いて、開けろ開けろと騒いでいる。


「今日は新年だぞ~、開けろ~」

「しょうだ、しょうだぁ~。開けてみんなで、飲もうぉ!!」

「「「おおー!!」」」


……酔っ払い、嫌いっ!!




▽    ▽    ▽




Side エーウ


壁の向こうが騒がしい。

日本が亡命を受け入れてくれて、しかもこの場所に、俺たちの町を作ってくれたのには感謝しているが、こうも五月蠅いと苦情を言わないわけにはいかない。


しかし、新年祭の騒ぎについては連絡が来たが、ここまで五月蠅いとは思わなかった。


俺たちの故郷では、新年はもっと後になる。

日本とは風習が違うのだから、ここは我慢しなければならないのだろうけど何とかしてもらおう。


「母様、役所へ行ってきます」

「この騒音を、どうにかしてもらうのですね?」

「はい、役所なら対策を考えてくれるはずですから」

「妹たちのためにも、静かにしてもらいたいですね……」

「はい……」


俺は、辺りはまだ寝静まっている中、役所に向かって歩き出した。

ここの役所は、一日中開いている。

おそらく、亡命してきた俺たちに気を使っているからかもしれないが、結構便利だ。


どんな苦情も、要望も、聞いてくれるので、ここの町の人たちは、どんなことでも話したり相談したりしていた。



「……あ、花火が上がった」


破裂音や、向こうの騒ぎの声がここまで聞こえている。

楽しそうな笑い声も聞こえるが、俺たちにしたら騒音でしかない……。




▽    ▽    ▽




Side 河口卓二


「卓二さん、見て。南の方、いろいろな色で光ってる」

「あっちって、最初の町がある方向だよね? 何の合図かな?」


中央の町では、年を越した時、教会の鐘が三回ほど鳴って新年が来たことを知らせた。

本来の新年祭の始まりは、このような静かなものなのだろう。

最初の町では、日本人を招いているからあんなに他の町からも分かるほど騒いでいるんだろうな。


「心配ないよ。あれは、新年を祝うお祭りの光りだ。

最初の町では、日本人たちがたくさん集まっているから、あんなに派手になっているんだよ」

「へぇ~、城壁の上にまで登って確認しに来たけど、確かに派手だよね~」


去年は、いろいろなことがあったから今年は良くなるといいな。

それに、彼女たちとももっと仲が良くなると……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


「……最初の町は、大変な騒ぎだな……」


コアルームから、最初の町の騒ぎを画面越しに眺めているが滅茶苦茶な騒ぎだというのがよくわかる。

おそらくこれ、父さんたち運営も制御できてない。


本来、町全体を使ったお祭り騒ぎをするなら警察などの協力が必要だ。

だが、それを町の衛兵で補ったため、警備員のような立ち位置になってしまっている。


つまり、騒いでいる人々の制御ができていないし、取り締まりすらできていない。


「お、ソフィアからのSOSだ。

それでは、人型ゴーレム警備部隊、投入! ダンジョンの法律違反者を捕縛せよ!」


ダンジョン操作盤を操作し、DPを使って人型のゴーレムを投入した。

ダンジョン企画の失態ではあるが、俺も一応ダンジョン企画の一員ではあるので責任は取らないとな……。


画面の中では、人型ゴーレム警備員が酔って暴れる人々を捕縛している。

また、町の建物やダンジョン住人を襲っていた人たちも捕縛対象だ。


「お酒って駄目だな……。

羽目を外しすぎれば、獣と同じだぞ……」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る