第110話 勇者隊、到着



Side ???


レストールの西門に、ある一団が到着した。

全員、左腕の鎧だけが赤い特徴的な帝国の鎧を着ている騎士たち。その中には、白いローブで左の袖だけが赤い魔術師たちも混ざっていた。


その一団が、馬から降りて西門近くまで来ると二人の男が近づいた。


「お待ちしておりました、勇者隊の皆様。

レストールで調査隊を指揮しているポーグです。こっちは、ニブルです」

「勇者隊のログフドだ。

本当は少数で来るはずだったんだが、陛下の命で勇者隊の先発部隊を引き連れてきた。

何かがあるとのことだが、詳細までは分からん。

とりあえず、休める場所を頼む。調査の詳細はその後で聞きたい」

「分かりました。では、ご案内いたします」


そう言うと、勇者隊を引き連れて西門を潜り、レストールの町の中央付近の宿へ案内する。

そこは団体が泊まれる宿があり、勇者隊が来ることが決まった時から予約しておいたからだ。





「こちらが、今までの調査で分かったことです」


宿に案内し、一息ついてから宿のロビーの一角で勇者隊のログフドと女性が一人。

対面にはポーグとニブルが座り、話し合いが始まる。


「ダンジョンが出現するときにわかる予兆である空間の歪みを発見、内部調査で調査隊より三名を侵入させるも連絡が途絶。

現在行方不明、か……。内部の様子はどうだ?」

「歪みの内部には、だれも住んでいない町があったそうです。

明かりもなく、かなり不気味だったと報告が来ました」

「その後連絡が来なくなったんですね?」

「はい」


ログフドと女性は、時折話し合いながら今後の行動方針を決めている。

ポーグとニブルは、聞かれたことを淡々と答えていて、分からないことは分からないとはっきり答えていた。



「魔物の気配もない、人の気配もないとなればダンジョンが構築したフィールドということになりますね」

「サラもそういう見解か……。

過去のダンジョンにそういうフィールドがあるとは、俺の記憶にはなかった気がする。

となれば、これは慎重に行動しなければならん」

「潜りますか?」

「いや、まだ歪みの段階で潜るには情報が不足している。

俺たち勇者隊が潜るなら、ダンジョンの入り口ができてからだ。

それと、他に歪みを通った者はいなかったか?」


ニブルは、顔を横に振りなかったと言うが、ポーグは何かを思い出して報告する。


「そういえば、冒険者と思える者たちがレストールの町で情報収集をしていました」

「……冒険者が町の情報を集めるのは、新しい町に来たら当たり前のことじゃないのか?」

「はい、私もそう思っていたのですが、その冒険者たちは歪みを出入りしていたのです」

「歪み? ということは、ダンジョンからの冒険者?」


考えこむログフドとサラ。

ダンジョンが人型の冒険者を送り込むことなど、過去の資料を探しても無いことだと思ったからだ。

これは、初めてのダンジョンかもしれないと結論を出した時、宿の入り口から一人の男が飛び込んできた。


「ポ、ポーグ! 出てきたぞ!!

行方が分からなかった、ベルガたちが!!」

「何! どこから出てきたんだ?」

「歪みだ! 歪みの中から放り出されるように出てきた!

それと、これが!」


そう言うと、手に持っていた一枚の紙を手渡した。

ポーグはそれを確認すると、すぐにログフドに手渡す。


「ログフドさん、これを!」

「拝見します」


ログフドは紙を手に取り、書かれている内容に目を通した。

その横から、サラも覗き見る。


「フム。『話し合いを求む』か、このダンジョンは知的ダンジョンの様だな。

これなら、本来の目的に適していると考えるが……」

「そうですね、話し合いができるなら話し合いをするべきでしょう。

戦力を消耗してまで、戦いをする必要はないと思います。

でも、帝国には一応連絡はしておきます」

「よろしく頼む。

ポーグたちは、出てきた者たちから何があったのか聞き取りを頼む」

「分かりました。

リューグ、ニブル、行くぞ」

「おお!」


ポーグは、ニブルとともに飛び込んできたリューグの案内で、行方不明となっていたベルガたちの元へ急ぐ。

歪みの中で何があったのか、本当に話し合いができるのかなど、気になっていることがたくさんあったからだ。


そして、ログフドの言った本来の目的もポーグは気になっていた。

本来の目的とは、ダンジョン討伐ではないのか? と……。




▽    ▽    ▽




Side ミア


「よろしかったんですか? ミア様。

せっかく捕らえた者たちだったのに……」

「向こうの上の者たちが、レストールの町に来たことは察知していましたからね。

話が分かるなら、これに応じるはずです。

もし、応じないときは……」

「応じないときは?」


私は笑顔で、冒険者の一人に笑いかけました。

応じないときは、どうしたって力で攻めてくるだけです。

その時は、繋がりを消し、ある程度日数が経ってから再び繋げることで数十年の時間が経過し、向こうの状況が変わるというもの。


こちらとあちらの時間経過は、同じではないのです。

ならばまさに文字通り、時間が解決してくれる話となります。


「再び繋げる時が来たら、また情報収集のために、みなさんに動いてもらうことになるでしょうね……」

「時間の流れが違うとは、残酷なものかもしれないですね……」

「無駄な犠牲は無い方がいいのです。

時間が解決できるなら、それに任せた方がいい時もある」

「………」


さて、向こうはどう出てくるでしょうか?

一応、話し合いのための場所を用意しておきましょう。




▽    ▽    ▽




Side ソフィア


「新年祭オリジナルの商品を並べて~」

「は~い」


もうすぐ新年祭、新しい年が始まる。

日本では、お正月として認知されているわね。

年越しイベントとかは無いけど、カウントダウンはしてもいいかもしれない。


「店長~、こっち、手伝いお願いしま~す」

「は~い」


異世界のことも気になるけど、こっちは新年祭のことで手いっぱいね……。








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