第108話 事件は一つではない



Side エレノア


捕らえた帝国の斥候たちをそのままにして、私はマスターのいるコアルームへと戻った。

すると、情報処理をしているのはマスターだけだった。


「マスター、ミアたちは?」

「ああ、ソフィアは新年祭に自分のお店が出店するとかで、その準備に向かったぞ。

何でも、人手が足りないからって連絡があったようだな。

ミアと凛は、中央の町へ向かった」

「中央の町へ? また、何故?」


マスターは、ため息を吐くと呆れたように言った。


「日本人が、奴隷落ちしたそうだ。

それも、借金奴隷じゃなくて犯罪奴隷な。まったく……」

「犯罪奴隷って、まさか?」

「ああ、エレノアが想像している通りだ。

性奴隷を購入して、無理矢理襲ったそうだ。

……まったく、いくらファンタジーだからって法律ぐらい存在するのに……」


奴隷に関する法律は、厳密に作られている。

それは、奴隷になったからといって人格を否定するものではない。

借金奴隷は、お金を返すまでの奴隷期間であり、お金を返せば奴隷から解放される。

犯罪奴隷は、その犯した罪によって奴隷期間が決められている。


そして、性奴隷は無理やりの行為を禁止している。

お互いの同意で、そういう行為を行うようになっている。

だから、人格を無視した行為は犯罪となっている。


「……確か、犯罪奴隷期間が十年でしたか?」

「いや、そこまで重くはないし被害者の要請で減刑も可能だ。

だけど、今回は購入後すぐだからな……」

「減刑はないでしょうね……」


日本人って、性犯罪多くない?

しかも、何でも力で解決するようなバカばっかりだし……。


「でも、犯罪奴隷は今回初めてだが借金奴隷はここ最近多い気がするな」

「それは、このダンジョンパークでお金を稼ぐことができると分かってきたからじゃないですか?

実際、冒険者で依頼を達成すれば報酬が貰えます。

その報酬を日本円に換金すれば、お金が手に入るわけですから」


そう、このファンタジーダンジョンパークでは、お金を稼ぐことができる。

それに逸早く目を付けた人たちが、今やかなりのお金持ちになっていた。


でもそれは、ダンジョンパークで稼いだお金を元手に日本に戻って株などに投資をしたからで純粋にダンジョンパークだけでの稼ぎではない。

だが、ネットの噂ではダンジョンパークで冒険者として依頼を受けまくって稼いだとあった。


実際、そんな冒険者はダンジョンパーク内の住人の中にもいないのですが……。

噂話とは、恐ろしいものですね……。




▽    ▽    ▽




Side ミア


中央の町の南側にある奴隷商を訪ねる。

ここには、連絡のあった日本人が奴隷として売りに出されているらしい。


「ミアさん、ここに日本人が捕まっているんですね?」

「はい、犯罪を犯したため犯罪奴隷として捕まっているはずです」

「犯罪奴隷……」


このダンジョンには、日本の刑務所のような場所は存在しません。

その代わり、奴隷にしてから自身が犯した罪の重さによって奴隷期間を過ごしてもらうことになります。

しかも、犯罪奴隷の過ごし方はかなりの重労働を毎日経験することになります。


「とにかく、会ってみましょう」

「は、はい」



私と凛さんは、奴隷商の店の中へと入っていきます。

すると、受付で二人の男性と受付嬢とが揉めていました。


「だから、捕まえた浩司を解放しろって言ってんだよ。

人権侵害だろうが! 奴隷にするなんてよぉ!!」

「いえ、しかし……」

「しかしも案山子もねぇんだよ!

俺たちは客だぞ? きゃ~く! お客様なんだよっ!!」

「あ、あの、その……」


何でしょうか? あのお二人は。

客がどうこう言っているということは、もしかして、ファンタジーダンジョンパークを遊園地かなんかと勘違いしているということでしょうか?


ここは、現実のファンタジー世界です。

しかも、犯罪者の扱いは日本政府の許可を受けているはずです。

……たぶん。


「何をしているのですか?」

「ああん? 何だよ、すげえ美人じゃねぇか!」

「おお! あのさ、あのさ、この施設から友達を出したいんだけど、運営の人呼んでくれない? 君たち、警備関係者でしょ?」

「警備関係者? そうなのか?」

「だってよぉ、こんなにクレーム言ってたんだぜ?

テーマパーク施設としては、警備員とか呼ぶっしょ~。

だから、この人たちは警備関係者、でしょ?」

「なるほどなぁ!」


……この人たちは、何を言っているのでしょうか?

日本人が奴隷落ちしたから、詳細をと思って来てみればこんなバカ二人の相手をしないといけないとは……。


「私たちは、警備関係者ではありません。

というか、警備関係者などいませんよ? ここは本物のファンタジー世界。

奴隷落ちしたのなら、法律にのっとって罰を受けて奴隷期間を過ごしてください」

「……」

「……ぷ、あはははは! いや、そういうのいいから」

「奴隷体験何て、俺たちそんな時間ねぇし。

早く帰りたいんだよ! せっかく性奴隷でいろんなことしようって誘われてきてみれば、あのアホ奴隷落ちになってるって言われてよぉ。

こっちは、いい加減ムカついてんだ!」


そう言うと、男たち二人は私を睨みつけてきました。

今までのおチャラけた態度が、嘘のようです。

しかし、迫力がありません。十二支ダンジョンに出没するゴブリンの方が、まだ迫力がありますね。


「なあ、お姉さん。いいから友達解放しろや。

なめた態度してたら、本当に全身舐め回すぞコラッ!」

「お、いいねぇ。俺は、揉みまくってやるぜぇ~」


……はぁ~、またですか。

何でしょうか、日本人の男は性犯罪者の集まりですか?

私は、嫌らしい目で私を睨みつける手前の……名前何でしたか? まあ、その手前の男の懐に素早く潜りこむと電撃魔法を手に纏わせ、掌底を男の腹に撃ち込んだ!


「ガハッ!!!」

「……え?」


白目をむいて、その場に崩れ落ちる男と何が起きているの分からない男。

私は、素早く崩れ落ちてくる男を躱してもう一人の男の懐へもぐりこむ。


そして、電撃魔法を手に纏わせたまま同じように掌底を男の腹に撃ち込む!


「ゲブッ!!!」


二人目の男も、白目をむいて倒れこむところを私は素早く躱し、凛さんの側へと移動した。

その場に崩れ落ちている男二人を、私は睨みつける。


「……え? ええ? ミアさん? 何したの……」

「見えませんでしたか? 電撃魔法で気絶させたんですよ。

受付さん、すぐに衛兵を呼んで捕縛してもらってください!」

「は、はい!」


そう返事をすると、受付嬢は店を出て衛兵を呼びに行った。

さて、奴隷落ちした者に会って、詳細を確認しなければ……。







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