第105話 緊急事態!



Side エレノア


ダンジョン内の町などでは、新年祭に向けての準備が進められている。

また、最初の町でもクリスマスはせずとも新年祭は行うことになった。

そのため、準備が始まっていてファンタジーダンジョンパークに遊びに来た人たちが珍しそうに見学していた。


日本のような大晦日やお正月の飾りなどは無く、ファンタジーなお祝いをしているため見学者が増えたのだろう。

中には、手伝っている人たちもいた。


そんな忙しい中、第七階層の外泊の町から行ける異世界の町レストールでは、ダンジョンの冒険者などの情報を収集している者や帝国からの依頼を受けた冒険者たちに、レストールの領主から命令された騎士の何人かが、牽制をしながら見張りを続けていた。


「マスター、虫ゴーレムからの報告です。

どうやら、レストールの町には今、いくつもの勢力がお互いをけん制しているようです。

特に、厳しい監視をしているのが領主から命令された兵士たちですね」

「こっちは、情報収集しているだけなんだけど……。

こうも警戒されると、大変だな……」


一応、必要な情報は集まっていたが暮らしている人々のことが気になっていた。

向こうは、魔素が少なくなっていて魔法や製薬に制限がされているとか。


特に、魔法薬に関しては国が主体の管理体制ができつつあるとか。

窮屈な監視体制の場所で、ポーションとか作りたくないわよね……。


「とりあえず、新年祭の二日前までには全員引き上げさせて。

人質に取られると、面倒なことになるからね」

「分かりました。そう通達しておきます」


これで、レストールでの情報収集は一旦終了ね。

あ! あの問題を先送りにしていたの忘れてたわ。


「そういえばマスター、エルフ達の処分はいかがなされますか?

例の至上主義騒ぎを起こしたエルフは……」

「うん、エルフ種族代表のシルフィラの意見を聞かないといけないけど、俺としては異世界への追放処分でいいんじゃないかなと思っている」


異世界へ?

追放処分は、少し甘すぎないかな?

ここは、サクッと斬首刑で終わりだと思うけど……。


「マスター、ここは斬首でどうです?

ダンジョン追放は、甘すぎるような気がしますよ?」

「ちょっとエレノア、凛さんがここに入るのです。

斬首とか、縛り首とかギロチンとか、物騒な処刑方法を並べてはいけません」

「……ミアが、処刑方法を並べているじゃない」

「あら……」


そう言って右手で口を覆い、凛さんの方を見る。

凛さんは、少し複雑な表情をしていた。


今日も今日とて、ダンジョンのコアルームでは同じメンバーで情報整理を行っていたのだがその時に、新年祭の期間にまで及ぶ情報収集依頼をどうするか考えたのだ。

そこで、情報収集を虫ゴーレムに交代し全員の引き上げがすぐに決定した。


やっぱり、新年祭はみんなで祝いたいよね……。


「ねぇ颯太、向こうの世界への追放って甘い罰になるの?」

「いや、国外追放と同じような意味合いを持つし、何よりあのエルフ達がダンジョンを追放になって生きていけるとは思えないんだけど……」


エルフ至上主義に染まり、いまだにそれに浸透しているエルフ達は多い。

そんな者たちが、ダンジョンの外。しかも異世界に追放されるのだ。

生きていけるか?


「颯太、何言っているの? エルフだよエルフ。

異世界の住人のエルフだよ? 向こうの世界なら生きていけるでしょう……」

「フッ、だといいけどな~」


マスターは少し笑い、凛さんの意見を流した。

でも、あのエルフ達はダンジョンが守っていて生きてきたエルフ。

魔物と、まともに戦ったこともない連中だ。


魔法は使えるが、戦闘経験はない。

そんなエルフが、異世界に追放され魔物との戦闘ができるか?

向こうは、街道といえど魔物に盗賊が出てくるのだ。


安全な場所などない。

それを凛に説明していると、ソフィアが緊急事態を告げる。



「マスター、緊急事態です!

ダンジョン内の魔素濃度が、八十%を超えました!!

このまま九十%を超えれば、マスターの身体に異変が!」

「颯太っ!!」


私たちはまず、マスターの体調を心配したが少し息苦しそうにしているほかは笑顔で答えてくれるほど大丈夫なご様子。

すぐに原因究明に、ダンジョン操作をミアと行いダンジョンのあらゆる場所を映した画面を、数多くコアルームの壁いっぱいに映し出した。


そして、そのすべてに目を皿のようにして探す、私とミアとソフィアと凛さん。



「ググッ!」


突如、マスターが胸を押さえてその場に崩れ落ちた!

それと同時に、ダンジョン内の魔素の濃度が九十%越えを表示している。

このままでは、マスターが爆発してしまう。何か手を打とうとしたとき、凛さんが原因を映しだした!


そこには、外泊の町に侵入しようとしている異世界の者たちが映し出されている。

どうやら、このダンジョンとレストールとの繋がりの扉を発見し、中に侵入してきたようだ。

原因が分かれば、対処は簡単だが扉を消すことはできない。


レストールにはまだ、情報収集をしていた者たちがいるのだ。

一旦繋がりの扉を消してしまうと、向こうの世界とこちらの世界の時差で何十年、何百年の開きができてしまう。


何かいい手段はないか考えていると、ミアが何か閃いた。


「マスター、ダンジョンパークのある山のどこかに、排出口を作ってください!

そこから、過剰なダンジョン内の魔素を地球へ排出します!!」


マスターはそれを聞いて、すぐにミアにダメだと顔を横に振る。

だけど、時間がないと命が危ないとミアが説得し、魔素が安定したら排出口をすぐに閉めることでマスターは渋々了承した。


そして、すぐに山の中腹の目立たない所に魔素排出口が出現する。

そして勢いよくダンジョン内から魔素が、淡い紫色の煙が排出されると、ダンジョン内の魔素濃度が下がっていく……。


ゆっくり、ゆっくりと時間をかけてダンジョン内の魔素濃度は下がり、二時間でようやく五十%前後まで下がった。


「それにしても、どうして魔素濃度が上がったんだ?」


マスターは不思議な表情をした。

でも、確か異世界の魔素は減少していたはず、それならダンジョン内の魔素は異世界へ出ていくはずなのに、ダンジョン内へ勢いよく流れてきた。






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