第104話 近づく帝国



Side ログフト


帝国にある召喚陣が描かれた神殿で、レストールに出現したと思われるダンジョンの扉の存在を感じてから四日、皇都の南門の前には五人の男女が馬を引き連れて集まっていた。


「「敬礼っ!」」


門番の男にそう言われ、五人の男女は門を正面に整列して敬礼する。

そこへ、一人の女性が衛兵を二人連れて現れた。


「召喚研究所所長のルティアです。

今回の貴方たちの任務は、レストールで怪しい行動をしている者たちを見つけることです。

その者たちは、おそらく情報収集を中心に行っていると思われます。

もし、そんな者たちを発見しても絶対に捕縛はしないように!」


五人の男女を見ながら、ルティア所長は命令する。

そこに、一人手を上げるものがいた。


「質問です! 捕縛がダメということは見つけたら監視しろと言うことでしょうか?」

「その通りです、ビッター。

その者たちを監視し、どんな行動をしているか把握するのです。

そして、すべての怪しい者たちを見つけ行動を把握したのち、帝国の兵で包囲して捕まえます!」


「もしかして所長は、その怪しい奴は一人ではないと考えているのですか?」

「そうだよ、ログフト。

向こうの連中も、レストールに出現してしまったことは想定外だったかもしれないからね」

「想定外……」


今回出現したと思われる者たちは、十中八九ダンジョンに関係がある者たちだ。

俺は召喚陣の上で瞑想して、新たなダンジョンコアとの繋がりを感じ取り間違いないと確信している。

だが、人数まではさすがに分からなかった。


だからこそ所長は、大人数だった時を考えて様子見を命令してきたのだろう。

俺も、その作戦には賛成だ。


「いいかな? くれぐれも接触は避けるように!

怪しいヤツを見つけ次第、接触を避け監視を行うこと。

そして、隊長であるディセルに知らせ、ディセルはこちらに連絡するように、な。

そうすれば、すぐに尾行部隊を送る」


その後、尾行部隊と交代し新たな怪しいヤツを調べろということか。

もし発見すれば、同じことをして尾行部隊と交代。

発見できなければ、帝国兵で捕らえる作戦が発動されるまでレストールで待機、ということか。


「では、先発隊! 出発!!」


ルティア所長に命令され、俺たちは馬に騎乗するとレストールに向けて出発した。

俺たちがレストールに着くころは、新年祭の頃だろうか……。




▽     ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


「……クリスマスが終わってしまった」

「すみませんマスター、情報整理に付きあわせてしまって……」


ダンジョンコアルームで、様々な方向所の画面を見ながら愚痴をこぼすと側で、同じように画面を見ていたミアが謝ってきた。

他に画面を見ながら情報整理しているのは、エレノアにソフィア、そして凛がいた。


「ああ、いや、情報整理が嫌だとかそういうことじゃないんだ」

「颯太、ここにいるのはみんな、あなたの恋人たちなんだからいいじゃない。

こういうクリスマスイブも、いい思い出よ?」

「まあ、思い出といったら思い出なんだけどねぇ~」


ダンジョン内にある各ギルドから数人、情報収集のために出してもらい、向こうの世界のレストールという町で情報収集をしてもらっている。

各種族からも出してもらおうと思ったのだが、向こうの世界の種族がどうなっているのか分からないことから、人族メインでまずは送り出した。


そして、その集めてきた情報が現在俺たちの目の前の画面に映し出されている。

その報告は細かいことまで報告していて、情報整理が大変なのだ。



「それにしても、帝国が大陸統一するとはねぇ。

他の国と同盟を結んで、聖王国と対峙していた頃が懐かしいな……」

「マスター、帝国が大陸統一してかなりの時間が経過しているようです。

それと、こちらは予想通り、各地で帝国貴族の腐敗が広がって反乱が起きている場所もあるようです」


やはり、平和を維持するのは難しいな。

人の欲で、矜持していた平和を手放すのか……。



「戦い、反乱、そしてダンジョンに関しての情報だな……」

「マスター、この情報は……」


エレノアが、ダンジョンの情報に驚いている。

だが、これは冒険者ギルドで調べて手に入れた情報だ。

召喚された勇者たちの部隊による、ダンジョン討伐宣言、そして、達成宣言。


大陸中のダンジョンが攻略、討伐、そして消滅。

これを繰り返し、すべてのダンジョンを討伐することに成功し、ダンジョンは消滅した。

だが、地上は魔素が無くなった形跡はない。


ただし、魔素が薄くなっているみたいで魔法薬であるポーション作成に影響がみられる、と。


「ポーション作成に影響って、回復や治療はどうしているんだ?」

「マスター、こっちの情報によれば、今は魔法とポーションで治療も回復も行っているが、そのうちできなくなる。

その回復手段のない状況に対して、対策は行われていない……」


俺たちは、その情報に言葉も出ない。

原因究明や新たな治療方法の確立とか、まったく対策が立てられていない。


「……どうするんだろうな」

「たぶんだけど、深刻になるまで何もしないと思うわ。

そういう所は、異世界も地球も同じよ……」


危機が、自分たちの目で見えるようになって慌てる、ということか。

未来の危機を予測し、ちゃんと対策を練れるものはわずかしかいない。

しかもその声は、その他大勢によってかき消され気づかれることはない、と。



「マスター、気になる報告があったわ」


ソフィアが、画面を真面目に見て整理していると、レストールの領主の館に帝国関係の人たちが訪ねてきたという報告を見つけた。


その報告には、男女合わせて五人で馬に騎乗して館に入っていった。

玄関で馬を降り、執事らしき人が出迎え中へ入っていった、と。

館の中へ侵入できず、これ以上は情報収集できなかった、とまで報告されていた。


これはちょっと調べてみるか?


「エレノア、虫ゴーレムを使って調べてくれるか?

特にこの領主の館を中心にな」

「了解。でも、私が忍び込んでもいいけど?」

「いや、ここは安全策をとろう。

これまでの情報から、危険を冒す必要はないと思うからね」

「分かりました」


そう言うと、コアルームからエレノアが出ていった。

虫ゴーレムを向こうの世界に放って、館の内部とかを調べるのだろう。

情報収集なら、人を使ったほうが細かいことまで手に入るが、虫ゴーレムだと表面の情報しか手に入らないからな。


それでも、今回は安全策をとる必要があるような気がする……。







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