第103話 ギルドマスター室にて



Side ルーゼ


情報収集のため、軍資金を増やそうとポーションを買い取ってもらうために来た冒険者ギルドであったけど、今私は、ギルドマスターの部屋の前にいる。

どうして、こんなことに……。


―――コン、コン。

「ギルドマスター、受付のシャーリーです。

先ほどお話ししました、ルーゼさんをお連れしました」

『入ってくれ』


私の応対をしていた受付嬢の名前って、シャーリーっていうのね。

今、知ったわ。


ガチャッと、ドアを開けてシャーリーさんが私を中へ入るように促す。

私はそれに従い、部屋の中へ入った。


「失礼します……」

「ルーゼさん、いきなりこんな所に連れてきてしまってごめんなさいね。

どうしても、聞いておきたいことと確かめたいことがあってね」

「い、いえ。それで聞きたいこととは……」


女性のギルドマスターが、部屋の中にいた。

それと、もう一人女性がいて向かい側のソファに掛けるように促している。

私は、少し緊張しながら薦められたソファに座る。


「あ、自己紹介がまだだったわね。

私はこの冒険者ギルドレストール支部のギルドマスターを任されてる、アルニーゼ・フォーバスよ。

隣にいるのが、副ギルドマスターの…」

「セーラ・コルレード」

「は、初めまして、ルーゼです」


アルニーゼさんは、私の自己紹介に笑顔で答えてくれる。

何だか、ホッとしてしまった。


「それと、あなたを案内してくれた受付嬢のシャーリーよ。

シャーリー、どうせいつものように自己紹介まだしてないでしょ?」

「そういえばそうでした。

ルーゼさん、あなたを担当しているシャーリーと申します。よろしくお願いします」

「は、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


私はドアの側で立って自己紹介してくれたシャーリーさんに、ソファから立ち上がってあいさつする。

挨拶が終わると、再び座るように言われる。


「では、早速だけど、話を聞いてもいいかな?」

「は、はい、どうぞ」


「シャーリーから報告にあったんだが、ポーションの作成での失敗の原因を知っているそうですね?」

「それ、教えて?」


アルニーゼさんとセーラさんが、食い気味に質問してきた。

一番知りたい情報の様だ。


「えっと、ポーションは魔法薬といわれる通り作成時に魔素、魔力を一定量込めないと失敗して苦い水になるんです。

つまり苦い水になるということは、込めるはずの魔素の量が足りないことを意味します」

「……その魔素の量は決まっているの?

込める量が足りないと苦い水になるが、込め過ぎるとどうなる?」

「込め過ぎると光だします。

そして、光だしてもなお込めると爆発します」

「爆発……」


アルニーゼさんたちは、爆発することに驚いているようだが通常は光だしたところで込める魔素を止めればいいだけだ。

その光も、一定時間そのまま置いておけば光もおさまる。

それは、空気中に魔素が霧散していくからなのだが、こんなの基礎中の基礎だと思ったけど……。


「えっと、錬金ギルドで作成時の注意で記されていたと思いますけど……」

「え、そうなの?」

「一度、錬金ギルドで調べてみるべき」

「そうね……。

シャーリー、職員の誰かを錬金ギルドへやって調べてもらってきて」

「分かりました」


シャーリーさんは、手帳を取り出し今言われたアルニーゼさんの指示をメモしている。

後でまとめて、指示するつもりなのだろうか。


「いやいや、いい情報をありがとうルーゼ。

ダンジョンがこの世界から無くなったとはいえ、魔物はまだいるからねぇ。

それに護衛依頼でも、ケガをする者はいるから助かるよ」

「ん、情報代を用意します」

「そうね、すぐに用意させましょう。

セーラ、金貨二枚ぐらいでどうかしら?」

「それでいいと思う」


私が教えたことだけど、こんなの情報といえるものなのだろうか?

これで金貨二枚は貰いすぎのような気もするけど、今は気にすることじゃない。

アルニーゼさんは今なんて言ってた?

ダンジョンが、無くなった?


「あ、あの…」

「すぐに用意するから、少し待って「いえ、そのことじゃなくて!」」

「ん? 何?」

「あの、世界からダンジョンが無くなったって、今……」


アルニーゼさんとセーラさんはお互いを見た後、私を見て不思議な表情をしている。

私は、扉の側のシャーリーさんを見ると、同じように不思議な表情をしていた。

おそらく、何を当たり前のことを、と思っている……。


「えっと、ルーザさんは他の大陸から来たのかしら?

……今から、百三十年ほど前だったかしらね?

勇者ナナカ様を中心とした勇者隊が、魔王を生み出すダンジョンの討伐に乗り出したのよ。

それまでダンジョンを利用してきた探索者ギルドは猛反対したけど、魔王誕生の危険性を説明され説得してようやく了承したの。

そして、それから三十年かけて世界中のダンジョンを討伐してから以降、魔王は出現してないわ」


ダンジョンを討伐って、本当に魔王誕生の原因と考えて行動したんだ……。

何て的外れな考え方をしているのよ……。


「あ、あの、ダンジョンを無くすことはできないと思います」

「ルーザさん?」

「ダンジョンは、この世界の魔素を生み出したり循環させたりするために必要なものですよ?

ダンジョンが無くなれば、この世界から魔素が無くなります。

魔素が無くなれば、魔法も使えなくなるんですよ……」


「ちょ、ちょっと待って、ダンジョン消滅で魔素が無くなる?」

「それ、どういうこと?」

「……魔素がどうやって生み出されているか、知っていますか?」


三人は、それぞれの顔を見た後、そろって顔を横に振る。

魔素は自然に生まれるものではない。

魔素は、トレントなどの植物系の魔物や精霊の大木などの精霊樹などによって生み出されたものだ。

しかし、生み出されたばかりの魔素は空気に溶け込むことはない。

そこで、ダンジョンが必要になる。


言わばダンジョンとは、星の肺なのだ。

魔素をダンジョン内に取り込み、空気中に浸透させてダンジョン外へ放出しているのだ。

それは、魔物や魔石、魔法鉱石やダンジョン内の宝箱などに現れる魔法武器や防具も魔素を浸透させて造り出された結果なのだ。


と、長年の研究で分かってきていた。

さらに、ダンジョンマスターなどに話を聞くことでさらに情報を保管したが概ね研究通りの結果となった。


そのため、ダンジョンが無くなるということは星の肺が無くなること。

魔素は空気中に混ざることなく、生まれた辺りに溜まり消滅していくだけ。


「そうなれば、後はどうなるか分かりますよね?」

「空気中の魔素があるうちはいいが、そのうち魔法を使い魔法薬を量産していれば……」

「……ゴクッ」


唾を飲み込む音が聞こえたが、誰も何もしゃべらなかった。

ことの重大さに気づいた瞬間だった……。


「……でも、ちょっと待ってください。

ダンジョンが無くなって魔素が循環しないなら、なぜ、今も魔法が使えているのですか?」

「そこなんです。

今も魔法が使えていることこそが、ダンジョンが無くなっていないといった理由なんです」








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