第102話 冒険者ギルドにて



Side ルーゼ


錬金のギルドマスターからの依頼で、異世界のことを調べてきてほしいと頼まれ、高報酬にひかれた私は軽い気持ちで異世界への扉を潜った。


私が訪れた町は、普通のどこにでもある町で名前をレストールという。


「さて、まずはこっちのお金が必要だよね~」


何をするにしても、まずは資金が必要だ。

そう考えた私は、背中の鞄の中にあるどこに出しても需要のあるポーションを売ることにした。

ただ、自身で売るわけにはいかない。


各町には、売買のルールというものが存在する。

それを無視して売買を行ってしまうと、悪ければ殺されてしまうこともあるのだ。

そこで、今回はギルドに売ることにした。


「持ち込みで買い取ってくれそうなのは、冒険者ギルドか商人ギルドかだけど、ここは冒険者ギルドへ持ち込むのが正解かな」


ポーションの使用頻度を考えれば、冒険者ギルドが一番欲しがるはず。

そこで、近くの屋台で冒険者ギルドの場所を聞き、私は歩いて向かった。




レストールの町の、東寄りに建っていた冒険者ギルド。

三階建ての大きな施設だが、看板は二種類出ていた。絵と字の二種類だ。

これはおそらく、識字率が低いからだろう。


字が読めない、書けないという人が冒険者には多いのだろう。

その理由も、誰でも冒険者になれるからということ。

身分証代わりになるギルドカードを持つために、誰でも登録可能な冒険者ギルドは便利なギルドといったところか……。


そんな考察をしながら、私は建物の中へ入っていく。

中は、きれいな受付嬢たちのいるカウンターに、依頼書がたくさん貼っている大きな掲示板。

併設された食堂が三店舗あり、よく見れば、その三店舗もそれぞれで提供している物が違うようだ。


さらに奥には、二階へ上がる階段があるが私の目的は買い取りだ。

そこで、カウンターに行って受付嬢にポーションの買取をお願いする。



「すみません、ちょっといいですか?」

「はい、冒険者ギルドへようこそ。今日は、いかがされましたか?」

「買い取りをお願いしたいんですがいいですか?」

「ギルドカードはお持ちですか?」


錬金ギルドに登録してはいるけど、この世界のギルドに登録しているわけじゃないからここは登録し直しておく。


「いえ、してませんけど、登録しておいた方がいいですか?」

「そうですね。

一応登録していなくても買取はしていますが、その場合は、買取価格の一割がギルドの手数料として引かれます。

登録していれば、手数料は取りませんから……」


ここは、登録が無料なら登録。登録料がかかるなら、その金額で判断、かな。


「えっと、登録料って取られますか?」

「冒険者ギルドは、誰でも登録できるようになっていますので登録料はいりません。

その代わり、依頼を受けて達成したとき報酬州から少しだけ引いてお渡ししています。

その引いた分が、ギルドの運営料であり新人さんの登録料になるんですよ」


へぇ~、新人の負担をなるべく無くして登録しやすいようにしているのか。

でも報酬から少し引いてって、そんな量で運営大丈夫……いや、大丈夫だよね。

依頼は、高ランクの依頼もあるしその成功報酬はかなりのもの。

ということは、ギルドに入るお金もかなりの量になるわけか。


「なるほど……。それじゃあ登録、お願いします」

「分かりました。

……では、こちらに必要事項のご記入をお願いします。

代筆はどうされますか?」

「自分で書けますので、代筆は大丈夫です」

「はい。では、ご記入をお願いします」


受付嬢に一枚の紙を渡されて、そこへ記入していく。

名前、年齢、職種、得意なことと隠せるところは隠していいみたいね。

私は、記入できるところを記入すると、受付嬢に渡した。


「はい、では確認いたします。

お名前は、ルーゼ。年齢が二十三歳。職種が、錬金術師ですか?」

「そうですけど、ダメでした?」

「いえ、そんなことはありません。

ただ、錬金術師の方は錬金術ギルドへ行くので珍しいな、と思って……」


なるほど、確かにそうだよね。


「実は、この町には来たばかりなの。

それで、持ち金に不安があったからどんな町や村にもある冒険者ギルドへ来たのよ。

錬金ギルドとか、大きな都市に行かないと在るか無いか分からないギルドと違って、冒険者ギルドなら確実にあると思ったからね」

「確かに!」


そう言って納得すると、お互い笑いあった。

そして、確認作業を続ける……。


「えっと、得意なことがポーションなどの作成?

えっ!? ポーションなどの魔法薬を作ることができるんですか?」

「……おかしいですか?」

「いえいえ、おかしいどころかすごいことですよ!

魔法薬は、ここ百年で作成できる人がどんどんいなくなっているんです。

今はまだ、ご存命の人がいますから問題ありませんが、その方たちが亡くなれば、ポーションなどの魔法薬は初級ポーションでも、国宝級の値段がつきますよ」


……これって、どういうこと?

確か初級ポーションって、レシピが公開されていて誰でも制作できたはず。

もちろん質はピンキリだけど、作ることはそう難しいことではなかった。


「え、でも、初級ならだれでも作成できるはずでは……」

「あ~、昔はそうだったみたいですけど、今はできないんですよ。

ポーションのレシピは、錬金ギルドで公開されていますが作成するには、何かが足りないみたいで作成したほぼ全員が苦い水ができたそうです」


苦い水。それは、初級ポーション作成に失敗したときにできるものだ。

ただ、失敗した原因も分かっている。

それは、作成時に練りこむ魔素の量が足りなかったからだ。


魔法薬は、その名の通り魔素をどれだけ制作時に練りこむことができるかで効能が変わる。

ポーションの種類によって、材料が違うが魔素を練りこむことはどのポーションでも同じ。

……でも、魔素を練りこむなんて魔法が使えるものなら誰でもできるはず……。


どうなっているの?


「ポーションは魔法薬という名前の通り、製作中に練りこむ魔素の量で出来が決まるはずなんですけど……」

「!! それ、本当ですか?!」

「は、はい。

確か、錬金ギルドでも公開している作成方法のはずですけど……」

「ちょ、ちょっと、ここでお待ちください!?」


そう言うと、受付嬢はあわててカウンター内の階段を駆け足で上がって行った。

あれ? これってもしかして……。



私の予感は的中し、受付嬢が階段を降りてくると予想通りのことを言われる。


「ギルドマスターが、お会いしたいそうです。

お願いしますルーゼさん。会ってもらえませんか?」

「……分かりました」


これはあきらめて、会うしかないな。

……私、これからどんなことに巻き込まれるのかな……。








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