第101話 勇者とダンジョン



Side リリィ


冒険者ギルドの資料室で、情報収集をしていたところ、ロジィが一冊の本を私たちの前に持ってきた。

それは、この世界に存在するダンジョンについて書かれている本だ。


私たちが過ごしていたダンジョン以外にも、この世界にはダンジョンが存在している。

その場所が書かれているのだが、私たちは読んでいて違和感を感じていた。


「……ねぇロジィ、この本、何かおかしくない?」

「ローリィでも気づくということは、気のせいってわけじゃないのね」

「リリィ姉様、酷い!」


違和感、おそらくそれは、このダンジョンの紹介文がすべて過去形で書かれていたからだ。

そして、本の最後にその理由が記されていた。


「……ここに紹介したダンジョンは、勇者たちによって攻略され消滅したものだ。

十年前、この大陸最後のダンジョンが攻略、消滅したためダンジョンは過去のものになった。

だが、再びダンジョンが復活するかもしれないため、ここに記録を残す……」


「え、ということは、今、この世界にダンジョンは無い?」

「……いいえ、ロジィ。ダンジョンが、すべてなくなることはありえません。

何故なら、この世界の魔素を生み出しているダンジョンが消滅するということは、この世界から魔素が無くなるということ。

ですから、ダンジョンは今もどこかで存在しているということでしょう。

ただ、発見されていないというだけで……」


発見されていないダンジョンが、この世界を救っているとは皮肉なものですね。

この本によれば、人々にとっては、厄災の象徴のように言われているのに。


魔素が無くなれば、魔法が使えなくなるだけではありません。

魔法を使っている者たちは、生命維持も魔素の恩恵を受けているのです。


「リリィ姉様、これって私たちのダンジョンも危ないのではないですか?」

「……こちらに出現するようなことがあれば、危ないかもしれませんね」


今、この大陸は帝国によって統一されている。

そして、その帝国は、勇者召喚を行い現在も勇者は存在しているらしい。

ということは、私たちのダンジョンがこちらの世界に出現すれば、すぐにでも勇者たちが攻めてくるってことでは……。


いえ、今の情報だけで判断はできません。

このことは、ギルドへ報告して、私たちは引き続き情報収集を続けましょう。


「ロジィ、ローリィ、この情報はギルドに報告します。

ただし、この情報だけでは判断できません。

もっと、こちらの世界の情報を収集しますよ、いいですね?」

「「はい、リリィ姉様」」


私たちは、資料室での情報収集を再開させた。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐今日子


夫の五十嵐太郎が、学生時代の友達の総理をもてなすといって息子の颯太から、隔離ダンジョン居酒屋を借りて行った。


この隔離ダンジョンは、人目を避けて会う時に便利な隔離空間をダンジョンとして扉に付与し持ち運びできる扉を作り出したもの。

所謂、魔道具といってもいい物ね。


「もう、遅くなるなら連絡ぐらいよこしなさい!

飲んでいるわけでもないのに、何を話すことがあるのかしら?」


今の総理大臣の山波芹那は、私にとっても同級生の友達。

学生の頃、私と太郎さんは付き合っていたけど芹那ちゃんとも噂はあった。

でも、太郎さんはきっぱりと芹那は友達だ、と私にも紹介してくれてからの付き合いになるわね。


将来、政治家になるなんて夢にも思わなかったけど素質はあったわね。


家のリビングにある、テーブルの椅子に座って夫の帰りを待っているけどなかなか帰ってこない。

しかも連絡もないとは、心配になるわ……。


「……仕方ない」


私は立ち上がり、颯太の部屋へ行き、太郎さんたちの使っている隔離ダンジョン部屋への扉を用意してもらった。

その扉を開けて中へ入ると、話に夢中になっている太郎さんと芹那ちゃんを見つけた。

しかも、話し込んでいるテーブルの上には、あるはずのないお酒が並んでいる。


「太郎さん? その、テーブルの上の者は、何?」

「ヒイィッ!」


太郎さんと芹那ちゃんがびっくりした後、私を見て怯えている。

離れたテーブルにいた、SPと思われる二人の男女の黒服の人たちが私の登場に驚きつつも、すぐに立ち上がり私の近くへきて警戒している。


「だ、大丈夫だ! 彼女は、五十嵐さんの奥さんだ」

「……本当ですか?」

「ああ、本当だ。後、総理とも学生時代の友達だ」

「分かりました……」


二人は、警戒しながらも元の席へ戻っていった。

太郎さんと芹那ちゃんは、お互いに息を思いっきり吐いた。


「「フゥ~~」」

「……とりあえず太郎さん、お酒は飲まないんじゃなかったの?」

「こ、これは、ノンアルコールだよ。

お酒じゃないって」

「そ、そうだよ今日子、私もお酒は飲んでないよ」


そう言いながら、芹那ちゃんは私に座るように席を用意してくれる。

そして、私にも同じように料理や飲み物を注文してくれた。


「そうだ今日子、颯太君にお礼を言っておいてくれない?

さっき太郎にも同じことをお願いしたんだけど、どこか信用できなくて……」

「……信用無いな。ちゃんと伝えるぞ?」

「まあ、そういうことなら分かったわ。

でも、颯太にお礼って、あの子何かしたの?」


芹那に理由を聞くと、何でも颯太は日本政府に対し、ダンジョン企画を通して大量の金塊を寄付したそうだ。

その寄付された金塊のおかげで、日本の借金だの政策の追加予算だのといろいろお金がかかっていたものの資金になって助かったとか。


私は寄付したことに驚いたが、それよりも颯太がそんなにお金持ちだということにも驚いた。

派手な生活をしているわけでもないのに、そんなにお金があったの?


「今日子? 颯太はまだ高一だぞ? 未成年だ。派手な生活って何だよ……」

「……そういえば、そうでしたわね。

いろいろと、大人顔負けの貫禄みたいなものがありますから勘違いしていたのかもしれないわね」

「でも、颯太君ってどうやって、あんな量の金塊を用意しているの?」


そういえば前、お金には困らなくなったとかなんとか言っていたような……。

これも、ダンジョンマスターの力なのかしら?


「颯太曰く、ダンジョンマスターになれば国会を金塊に変えることもできるそうだ。

……たぶん、冗談だろうがな」

「国会を金塊に……。

フフッ、それじゃあ、話し合いとか会議とかができないじゃない」

「そうよねぇ~」


私たちは笑いあったが、颯太は本当にできるでしょうね。

でも、お金に目がくらむ総理になっていなくてよかった。高校時代のままの芹那ちゃんで、安心したわ……。


「総理、そろそろお時間です」

「次の場所へ参りませんと……」

「分かったわ、それじゃあね太郎、今日子。今日は楽しかったわ」

「ああ、また今度な」

「それじゃあ、またね」


そう別れの挨拶をすると、山波総理はSPの二人とともに、私が入ってきた出口とは別の出口から出ていった。

居酒屋に残るのは、私と夫の太郎さん。


「帰りましょうか?」

「そうだな。お~い、お勘定~」

「は~い」


厨房の奥から、女性が出てくる。

支払いは、太郎さんが払うのね……。



「あ、財布忘れた」








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