第97話 情報収集とお叱り



Side リリィ


「冒険者ギルドより派遣されてきました、リリィです。

こっちは、パーティを組んでいるロジィとローリィです」

「初めまして、ロジィです」

「ローリィです。ロジィの妹です」


ダンジョンの第七階層に案内され、さらに階層北側の町『外泊の町』に来て、すぐにダンジョンの巫女のエレノア様に挨拶をする。

ギルドマスターの話では、ここから私たちの故郷の世界の町へ行くことができるらしい。


ただ、私たちはこのダンジョンの生まれで、故郷と説明されてもよく分からなかった。

冒険者への依頼として、情報収集と調査で行くだけだ。


「ダンジョンの巫女のエレノアよ。

この扉の先が、あなたたちに調査してもらう世界の町になります。

いいですか? 必ず生きて帰ってきてください」

「「「はい!」」」


そう返事をすると、扉を開けて中へ入っていく。

他にも、調査のためにこの扉を通って行った者たちもいるらしいが、冒険者の依頼で行くのは私たちのパーティーだけだ。


後はギルド職員で、調査のために入った人がいたとか。

とにかく、私たちも調査を開始する。




扉を抜けると、そこは小さな通りが真っ直ぐ前に続いている。

どうやらここは、裏通りの行き止まりってところだろう。


「う~ん、家とかは私たちの町の者と変わらないよね?」

「そうね、何か私たちの知らない壁があるかと思ったけど……。

これなら、街並みは私たちの町と変わらないってことね」

「それじゃあ、まずは冒険者ギルド……があるかどうか分からないけど、そこを目指しましょう」

「「了解」」


そして、私たちは歩きだした。

真っ直ぐ続く小道を、三人で歩き二百メートルほど歩くと大通りに出た。

そこには、いろんな人が歩いていて人々の生活があると分かる。


「すみません、冒険者ギルドはどこでしょうか?」

「冒険者ギルドなら、南に少し行った所に看板が出ているよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「頑張ってね」


そう言われて、ロジィは手を振ってこたえていた。

相変わらず、積極的な女の子である。


「こっちだって、冒険者ギルド」

「今の質問で、冒険者ギルドが存在するのが分かったわね」

「ああ、確かに!」


教えてもらった看板を目指し歩きながら、私が冒険者ギルドがあることを確認するとロジィが驚いていた。

積極的だけど、何も考えてない女の子なのね。


「ところで、何故冒険者ギルドへ行くのです? リリィ姉様」

「あ、それ私も気になってた」

「……冒険者ギルドには、冒険者のための資料室があるからですよ」

「死霊室?」

「資料室ですよ、ロジィ姉様」

「ああ、そっちの資料室ね」


何、この間違い。もうロジィは脳筋といってもおかしくないわね。

治癒術師なのに、不憫な……。


「でも、資料室って依頼に関する資料が置いてあるだけではないのですか?」

「そうよ、依頼に関する資料が置いてあるわ。

でもね、町の地図や周辺の地図、後は簡単な歴史書とかもあるのよ。

これも一応、依頼と関係する資料だからね」

「……なるほど、詳しい資料じゃなくても情報収集にはなるんですね」


ローリィの言う通り、私たちの目的は情報収集だ。

この町が何ていう町か、とか、周辺に何があるか、とか、何という国に属しているのか、とかだ。

特に、何という国なのかは重要だ。


それが分かっただけでも、各ギルドマスターの行動が変わってくる。

さらに、詳しく分かれば交渉次第で、私たちのダンジョンと交易もありえるだろうね。

そうなれば、外泊の町はこっちの世界との入り口となる。



「あ、あの看板じゃないか?」

「……見たいですロジィ姉様。剣と盾に杖のマーク」

「間違いないわね。それじゃあ、中に入りましょう」

「「はい」」


私たちは躊躇することなく、冒険者ギルドの扉を開けて中へ入る。

……そういえば、こういう時って絡んでくる酔っ払いがいるらしいって美弥子に借りた小説に書いてあったわね。


本当かどうか知らないけど……。




▽    ▽    ▽




Side エレノア


「反省してください、マスター!」

「はい……」


ダンジョンコアルームに戻ると、ミアがマスターを正座させて叱っていた。

何をやらかしたのか知らないが、こんなに怒るミアも珍しい。


「ねえソフィア、マスターどうしたの?」

「ダンジョンから漏れ出る魔素の対処を、今の今まで先送りにしてたんだって」

「え、それって、結構前から問題になっていたのにマスター、忘れてたの?」


信じられないことだよね?

マスターって、忘れっぽい性格だったかな?


「それが、対処しようとしたときに限って、他の大変な案件が現れてそっちの対処に一生懸命になってしまって、忘れてしまったそうよ。

それで、思い出して対処しようとすると別の案件が持ち上がって、今の今まで対処できなかったって……」

「そ、それは、何ていうか、不運な……」


ダンジョン関連の問題や住人関連、さらには通っている高校での問題に、世界情勢まであったかな?

でも、魔素の問題はマスターの身体に直接関係してくるから、今のうちに対処した方がいいと思うけどね。



「それはそうと、マスターの家に陸斗様が訪ねてきたわよ。

お母様から、伝えてほしいってお願いされて来たんだけど……」

「……まだ叱られているから、無理ですね」

「あらら……」


今日という今日はと、ミアが本気で叱っているのなら終わるまで待つしかないわね。

陸斗様を待たせることになるけど、お友達だし大丈夫でしょう。








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