第96話 いい加減なズレた時間



「繋がる場所は、今まで繋がっていた場所と同じ。

向こうの世界で、このダンジョンが出現していた場所だな」

「それでしたら、レストゥール聖王国の領土だった場所ですね」


天使族代表のルティエアが確かめる。

まあ、向こうの世界で俺が知っている場所なんてそこしかない。

異世界人召喚されて、ダンジョンコアを埋め込まれてダンジョンを造り、町や畑などを作って聖王国を縁の下から支えさせられたからね。


「ダンジョンマスター殿、どれほど時間のズレがあるのですかな?」

「俺たちが予想していたズレは、七千年だった」

「な、七千年?!!」

「そ、それでは、文明が滅んで……ん? だった?」


このずれ予想は、俺が地球に帰ってきた時間とミアたちにあって聞いた過ぎた時間から計算したものだが、ありえないような気がしていた。

何故なら、俺は召喚されたのが通学のために乗っていた電車の中だったが、帰ってきたときは召喚された当日の朝のベットの中だったのだ。


つまり、送還時にもズレが生じているのだ。

となれば、地球の時間と異世界の時間には本当にズレがあるのか疑問に感じたのだ。

そこで、本当はどうなのか気になったのでここに来る前、少し異世界へ行ってみた。


「そう、だった、だ。

七千年というのは、あくまでも俺たちの予想だよ。本当にそんなにズレがあるのか分からない。

そこで、俺はスキルを使って向こうの世界へ行ってみた」

「行けたのか?!」

「ああ、俺の召喚された、みんなの故郷の世界に繋がっていたよ」

「「ウオオォオ!」」


喜ぶ者、驚く者、複雑な表情の者といろいろだな。

特に、運搬ギルドのトルグが一番喜んでいるように見える。


「向こうの世界は、このダンジョンがあった場所はどうなっていたのですか?」

「町ができていたよ」

「町?」


ダンジョンの扉を召喚するように、異世界への扉を召喚して、ゆっくり開ければ、その先はどこかの裏通りの一角で、道の両側に家が建っていた。

おそらく、町になっているのだろう。


村では、こんなに家と家の間が狭いわけないからね。

町で間違いないはずだ。

そして、扉を抜け周りを確認しながら通りを進んで行けば、大きな通りへと出た。


大きな馬車や馬のいないゴーレム馬車が通っていくが、何より多くの人々が歩いていた。種族は多種多様で人族もいれば獣人もいる。

エルフにドワーフ、天使族に魔族もいた。


そこで周りを見渡せば、遠くに城壁を確認した。

あの距離に城壁があるということは、ここは町という認識で間違いない大きさだ。

ただ、時間も時間だったのでそこで帰ってきたのだ。


「どれくらいの時間が経っているのか、確認されなかったのですか?」

「もちろん確認したよ。

これを、裏通りで見つけて拾ったんだ」


俺が取り出した物、それは掲示板に張られていたであろう紙だった。

紙の上の両端が破れて、どこかの掲示板からとれて風に流されて俺の足元にあったのだ。


「少し汚れているが、そこに書かれている記事を読んでくれ」


そう言って、俺は代表たちに回してみてもらった。

紙にはこう書かれている。

『勇者ナナカ様、亡くなる!

帝国の大陸統一に尽力した勇者ナナカ様が、昨日未明二百年の生涯に幕を閉じた。

後日、帝国皇帝の命により英霊神殿に埋葬される模様』


その先は汚れていて読めなかったが、俺が送還されてから何年たっているかは分かった。


「ナナカといえば、帝国の命でダンジョンを荒らしていたあの女性か?」

「ああ、あの女、確かこのダンジョンにも攻めてきていたはずだよな……」

「それが勇者とはな……」

「私ぃ~、この女嫌いぃ!」


代表のみんなも、ナナカに関しては印象は良くないようだが問題はそこではない。

二百歳の生涯に幕を閉じたという所だ。

ミアの話では、ナナカがここへ責めてきたときは若い姿だったようだしおそらく召喚されたばかりの頃だ。

となれば、ナナカの召喚時期とこの掲示板の記事の年齢、さらに紙の汚れ具合から、おそらくダンジョンが消えてから約二百五十年ほどが過ぎていると思われる。


「この掲示板の情報から、計算し直した結果約二百五十年ほど経過していると考えられる」

「二百五十年……」

「……それぐらいなら、知り合いがまだ生きている可能性があるわね」

「人族と獣人は無理だな。

俺たちの寿命は、百年前後だからな……」


鍛冶ギルドのギルドマスターオルランが、過ぎ去った時間に何かを思っている。

また、錬金ギルドのカレナがまだ生きているだろう知り合いを思い浮かべて安堵していた。

だが、冒険者ギルドのライアスは肩を落としている。

こんな時は、長命種が羨ましいのかもしれないな……。


「しかし、勇者が二百歳とは長生きしたってことなのか?」

「いや、召喚された者は年を取らないはずだ。そうだよな、ミア」

「はい、召喚された異世界人は年を取りません。

ただし、それは召喚時の特殊条件を使ったからです」

「特殊条件?」


龍人族のハビリオが、召喚者の寿命に疑問を持ったようだ。

まあ、見た目は人族と変わらないからね。

でも、俺たち異世界人が召喚されたときは、年を取らなかったはずだ。

それをミアに確認したら、特殊条件下であったことを教えてくれる。


「はい、それは召喚者の生死が召喚時間として召喚した場合です。

マスターを召喚した際、召喚者の魔術師はマスターたち異世界人を縛るためこの方法をとったのでしょう。

隷属と変わりない方法ですが、召喚者が亡くなった後、異世界人たちを悪用させない、もしくは敵対させないためには有効な手段です」


「……まあ、時間は分かった。

それで、どうするんじゃ? 第七階層に繋げて、独自の町を作り、その町を経由して何かするのか?」

「ゆくゆくは、ブロード様の言われた通り貿易などを行いたいと考えております。

ですが、今は少し調べる必要があります。

そこで、向こうにまだ知り合いがおられる方を何人か送りたいと思いますが……」

「そうねぇ~、各ギルドで人を送り込めばいいんじゃないかしらぁ?」


ラフィリスのこの提案で、各ギルドから何人か送り込むことで決定した。

後は、俺たちからも何人か情報収集のために送り込むだけか。


向こうの世界を調べて、どこに繋げるか考えないとな……。







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