第95話 異世界への道
二学期が終わる前に、何とか期末試験が終了した。
だが、宿泊研修での強姦未遂事件はかなりの影響を残し、文化祭を始めあらゆる学校行事を中止に追い込んでしまっていた。
さらに、今までの宿泊研修や修学旅行での被害者が声を上げたため、学校の対応だけでおさまらず、教育員会や文科省にまで飛び火していた。
すでに、この件は過去に遡って調べられ始めていた……。
ただ、そんな大変な騒動だが、俺たちが何かできるわけでもなく情勢を見守るしかなかった。
そして、冬休みに突入した初日の今日、俺はダンジョンの中央の町にある商業ギルドの大会議室隣の控室にいた。
これから、各種族代表と各ギルド代表を集めて会議を行うためだ。
もちろん、俺の側にはダンジョンの巫女であるミア、エレノア、ソフィアの三人が付いている。
「さて、各代表はちゃんと集まるかな?」
「特に忙しい時ではありませんし、何か問題を抱えているというわけでもありませんから大丈夫だと思いますよ」
「ミア、エルフ種族代表のシルフィラは違うと思うわよ?
この間の件で、種族内でだいぶもめたらしいし……」
すでにミアの中では、エルフ至上主義者の起こしたことは終わったことのようだ。
だが、エレノアの指摘するように代表のシルフィラは種族内でかなり責められているらしい。
どうして私が代表の時に、と、後悔しているとか。
「そろそろみんな揃ったようだし、顔を出しますか」
「「「はい」」」
▽ ▽ ▽
大会議室へ通じる扉を開けて中へ入ると、それぞれの代表者たちが一斉に立ち上がって迎えてくれた。
それを確認しながら、俺は自分の席へと座り、両隣りにミアとエレノアが座り俺の少し後ろにソフィアが座る。
俺たちの行動を確認して、各代表者たちが着席した。
「さて、今日みんなに集まってもらったの…は……」
代表者たちを見渡しながら話していたんだが、シルフィラを見たところで俺は言葉が詰まった。
何故なら、シルフィラの表情がものすごいことになっていたからだ。
「シ、シルフィラ? 大丈夫? 目の下のクマとか髪型とかたいへんなことになっているけど……」
「も、申し訳ございません!
例の至上主義者たちの対応で、エルフ種族の中が揉めておりまして対応に苦慮しているところです。
何とか、何とか対策を考えているのですが……」
「ダンジョンマスター殿、私からもエルフ種族のことで謝罪させてください。
本当に、申し訳ございません」
シルフィラが大変なのは分かるけど、錬金ギルドマスターのカレナも謝罪してきた。
カレナは、至上主義者が多かった森エルフ出身だ。
だからこそ、同じ森エルフとして責任のようなものを感じているのだろうな。
「それにしても、そんな秩序を乱したエルフ達を何故処刑しないのですかな?」
「そうだな、そんな連中など『百害あって一利なし』であろうに……」
獣人代表のセロが質問し、ドワーフ代表のブロードがさらに言ってくる。
確かに、処刑すれば早いんだけどね。
ただ、黒幕の捕縛まで行っていないから処刑しないということもあるんだけど。
「現在、こちらの計画のために処刑を待ってもらっています。
そうですよね? シルフィラ様?」
「は、はい! ミア様より、処刑はダンジョンマスター様の都合で待ってほしいとお願いされて停止しています」
「ん? それは何故ですぅ?」
魔族代表のラフィリスが質問してくる。
しかし、おかしな喋り方をしているな……。
「実は昨日、ダンジョン内の人の数が百万人を超えたんだよ。
それに伴って、ダンジョンマスター専用の特殊スキルが解放された」
「では、そのスキルを解放させるために処刑を止めさせていたと?」
「その通りだよ、ルティエア」
冬休みに入ってすぐ、百万人を超えるとは幸先がいいねぇ~。
まあ、移住者も増えていたし入場者も増えたことで百万人を突破したんだろうな。
「それで、どんなスキルが解放されたんですか?
ダンジョンマスターの特殊スキルというと、どんな文献にも載っていないから興味あります」
「そうだな、もったいぶってないで教えてくれや」
冒険者ギルド代表のライアスと運搬ギルド代表のトルグが興味を示した。
「今回解放されたスキルは、『異世界道』という。
俺が、行ったことある異世界への道を開くことができるスキルだ」
「……え?」
「い、異世界、道?」
固まる各代表者たちだが、中には考えこむ代表者もいるな。
そして、理解ができたようだ。
「それじゃぁ、元の世界へぇ~、帰れるってことぅ?」
「そりゃすげぇ! いつ帰れんだよ!!」
「そんなスキルがあるのか……」
冷静に聞いてくる者もいれば、すぐにでも帰りたい者、ただ単に驚く者と多種多様な反応だ。
中でも、トルグの反応は切実だったな。
運搬ギルドは、異世界との道が閉じられてから業績が悪化していたからな。
今は配達業務や運送業務などで、何とかつないでいる状態だ。
ダンジョン内の町からダンジョンの外の町への運搬業務で、かなり稼いでいたから閉じられたダンジョン内だけの世界では、食いつなぐのがやっとだったんだな。
今も、俺に何時繋がるのか迫ってくるところをミアたちや他の代表者たちに止められている。
その表情は、必死だった。
「それで、このダンジョンからみなさんの故郷の世界へつなげようと思いますが、準備しなければならないものがあります」
「準備ぃ?! そんなものより、まず繋がるかどうかが問題だろうがよぅ!」
「待てトルグ! ギルドのことで一生懸命なのは分かるが、ダンジョンマスター殿に食ってかかってもどうにもならないだろうが!」
「そうだぞ、ここは少し冷静になれ!」
「クッ! クソッ!」
トルグは、俺が座っている席に詰め寄ろうとして止められ、他の代表者たちの言葉に少し冷静になったようだ。
自分が座っていた席に、ドカッと座って腕を組んだ。
「ではまず、異世界、つまり君たちの故郷の世界と繋げる階層は第七階層を予定している」
「第七階層? 第一階層ではダメなのか?」
「ハビオリ、第一階層だと、俺の故郷の地球の人間が間違って迷い込んでしまう危険があるんだよ。
召喚で呼ばれた地球人でない限り、君たちの故郷で生き延びることは難しいんだ」
「……なるほど、そのためですか」
「あとは、君たちの故郷の世界からの流入者対策だね」
「流入者?」
「みんなは知らないとは思うけど、俺の世界と君たちの故郷の世界とでは時間の流れが違うんだ。
だから、今、君たちの故郷の世界がどうなっているのか分からないという理由もある」
「………」
これには、代表者全員が黙ってしまった。
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