第98話 魔素対策



次の日、ミアにあれほど叱られたからには魔素対策をきちんとしておこう。

ただ、ダンジョンから魔素が漏れ出るとしても、地球自体に何か影響があるわけではないんだよね。

もし惑星にそんな影響があれば、異世界の惑星にこそ影響がみられるはずだし。


それに、地球の大気に魔素が充満したとしても、すぐにでも地球人が魔法を使えるようになるわけでもない。

ただ、一番最初に影響が出るのは地球環境の方だろうね。


俺のダンジョン以外のダンジョンができるとか、地球の生物が、魔物化するということも考えられるか……。


「ん~、魔素濃度六十四%。

ダンジョン内も、今のところ問題なし」


ダンジョン内は、第八階層と第九階層で魔素が作られているけど、第六階層の十二ダンジョン内と人々の生活する第一階層から第五階層までで消費されているから、この濃度で安定しているんだよな。


確か、消費率六十二%だったか。

この二%が、異世界道で繋げた扉を開け閉めした影響というやつだな。

誤差の範囲だから、今のところ問題はない。


だけど、扉の開け閉めだけで増えるということはもう少し消費率を上げたうえで、外へ逃がす仕組みを作るべきか。

それとも、魔素を分解、消滅するべきか……。


「でも、分解、消滅はダンジョン内の魔素にも影響があるからな……。

ここは、外へ逃がす仕組みで対処するしかないか」


そして、もちろん逃がすダンジョンの外は、異世界側の方に造るべきだな。

一方通行の通り道なら、逆流入する心配はないだろう。


俺は、魔素の排出機能を追加するためにダンジョン操作を行っている。

それも、間違いの無いように事細かく設定していく。




▽    ▽    ▽




Side ミア


昨日のことが堪えたのか、ようやく魔素の流出の問題を解決しようと動き出してくれました。

今も真剣に、このコアルームでダンジョン操作を行っています。


「ようやく、真剣になってくれたわね、ミア」

「ええ、このまま向こうの世界と繋げることになると大変なことになりますから」

「大変なことって? ミアとエレノアは分かっているような認識みたいだけど……」

「ソフィアは、そういう知識は無いんだったっけ?」

「いえ、ソフィアにもダンジョンマスターに関する知識はあったはずです」


じっと、私とエレノアはソフィアを見る。

すると、何かに気づいたのか「あ!」という声とともに、何かを理解したみたい。


「……なるほど、これがダンジョンマスターに関する知識なのね」

「どうやら、忘れていたというより認識してなかったようね」

「ダンジョンマスターの弱点のようなものなのだから、マスターに生み出されてすぐ認識しないとダメでしょう」

「ごめんなさい」


ダンジョン内の魔素濃度が過剰に増えて、一定の量を超えるとダンジョンコアが崩壊する。

コアが崩壊するということは、コアと一心同体のダンジョンマスターが一番影響を受け、コアとともに死に至る。


特に、ダンジョンコアを体内に埋め込まれたマスターは、さらに過剰に反応を示すことになるだろう。

一定の量を超えなくて、ダンジョンコアが崩壊しなくてもマスターが死に至ることがあっても不思議ではない。


だからこそ、魔素に関する問題はすぐに対処しなければならないのだ。


「それなのに……」

「よし! できたぞ!!」


マスターの喜ぶ声で、魔素の問題が解決できることに私たちも安堵するのだった。




▽    ▽    ▽




Side リリィ


冒険者ギルドの扉を開けて、入り口から中を見渡すると正面に受付があり、何人もの受付嬢が対応していた。

今が何時は分からないが、たくさんの冒険者が並び受付嬢とカウンター越しに話し合っている。


向かって右手には、大きな掲示板が備え付けてありいろいろな依頼書が貼られていた。

また、よく見れば依頼書は、何かの法則があるのかいくつかまとまって貼られている。

たぶん、冒険者のランクで分かれているのではないだろうか?


向かって左手には、飲食店が三件ほど入っていた。

受付近くから、食堂、座って食べるスタイルの様だ。

次が軽食店、サンドイッチなどの軽食がメインの様だ。時間がない人用かな。

最後が、酒店。いや、飲料店だ。飲み物を主に提供しているみたい。


それから、さらに奥が階段に扉が二つ。

階段は二階へ続いているみたいだし、二つの扉はどこに続いているのかな?


「リリィ姉様、入り口で考えこんでいると、通行の邪魔ですよ」

「あ、ごめんなさい!」


うっかり、入り口でギルド内をじっくり観察してしまいました。

これは、邪魔でしたね。

私は注意してくれたローリィに謝って、右に除け端に移動した。

ここなら、じっくり観察できるでしょう。


掲示板をじっくり観察して、依頼書を見渡しました。

すると、依頼書の下方に依頼者のことが書いてあります。

そして、そこには簡単な住所も書いてありました。


「そうだ、依頼書に書かれている依頼者はその町の住人が主だよね?」

「……あ、それを見ればここが何という町か分かるわけだ。

え~と、レストール。これがこの町の名前みたいですね」


レストール。今は滅んだレストゥール聖王国のような名前だ。

もしかしたら、レストゥール聖王国に関係した人が作った町だからかな?


ギルドマスターたちが作った資料によれば、異世界と繋がるダンジョンマスターのスキルは、行ったことのある場所だけだという。

ならば、移動することのなかったダンジョンマスターのスキルで、ダンジョンのあった聖王国滅亡後の場所から移動することはない。


ダンジョンが消えた場所も、遺跡跡だったというからそこに町ができたということだろう。

私が、うんうんとじっくり依頼書を見ながら考え込んでいると、受付から私を呼ぶ声が聞こえた。



「リリィ姉様! リリィ姉様! 順番が来ましたよ!」

「いつの間に!」


ロジィとローリィの二人が、いつの間にか受付の列に並んでいた。

そして、二階の資料室のことを受付嬢に質問して聞いていたのだ。


……私の考察は無駄だったのかな?







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