第93話 巫女の実力と黒幕
Side ミア
「さあ! 巫女様方、いかがいたしますか?
裸になるか、それともこのメイドを見捨てるかっ!」
メイドに剣を突きつけているエルフの兵士が、私たちに強気に出て要求する。
ここには、屋敷で働いていたメイドが十人ほど、それに執事が三人。
さらに、トゥレイヤに娘のシャリアと息子のアーブル。
エルフ達は、兵士が十二人に騎士が二人。
後は公爵夫人のコロヒィーに、白いローブのバンローグ伯爵か。
こんな中で、私たちの肌を見せるとかありえないわね。
私は、エレノアを見て合図を送ると、エレノアは小さく頷いた。
「私たちの肌を見ていいのは、マスターただ一人。
あなたたちのようなクズに見せるものなど何もありません!」
「よく言ったぁ!!」
そう叫ぶと、メイドの首にあてていた剣の刃をいったん放し、首を切るために勢いよく剣を振り下ろした。
だが、ガキン! という金属音がしたと同時に、剣がメイドの首で止まっていた。
いや、正確にはメイドの首から少し離れた空中で止まっている。
「な、何だ?!」
「嬉しそうに首を切断しようとするとはね……」
そう言うと、金属の籠手を着けたエレノアの右腕がメイドの後ろから延びていることが分かるように姿を現した。
その姿を見て、兵士は驚き私の側にいたエレノアを見る。
「何だとっ!? ど、どうなっている!!」
「?!」
エレノアは確かに、私の側にいた。
そして、兵士は再びメイドの後ろから腕を伸ばしているエレノアを確認した。
そう、エレノアが二人いたのだ。
これには、食堂にいた私を除く全員が驚いている。
「え、エレノア様が、二人……?」
「そんなばかな!」
椅子に座ったままだったコロヒィー夫人が、恐ろしいものでも見るような表情で驚き立ち上がった。
全員が驚いている隙に、エレノアは側の兵士を蹴り飛ばしメイドを救出した。
「残念だったわね? 私、忍術スキルが使えるのよ」
「!! 忍法使いかっ!」
「さすがね、忍法使いを知っているなんて。
長命種というのは、だてじゃないわね」
伯爵や兵士は、悔しそうな表情をするがコロヒィー夫人はまだ笑みを浮かべている。
「メイドだけが人質じゃありませんわよ!
この村のギルドや役所にも、私たちの手の者は送り込んであります!
この屋敷の周りにだって…」
「はい、そこまで!」
そう言って、食堂の扉が開け放たれ一人の女性が中へ入ってきた。
「ソフィア!」
「遅くなってごめんね、ミア、エレノア。
マスターの指示で、この村中にいるこいつらの仲間の兵士たちを捕縛していたの。
人数多くて、思いのほか時間がかかったわ」
入ってきたのは、ダンジョンの巫女の最後の一人、ソフィアだ。
普段は、最初の町でケーキ屋の店主をしているのだが、いざというときはこうして協力してくれる。
でも、時間がかかったって私たちが乗り込んできてから、そう時間は経っていないと思うけど……。
マスターへ通報した時点で、すでに対処をしはじめていたってことなのかな?
……さすが、マスターね。
「さて、コロヒィー夫人?
これで人質になる者はいなくなったわ。
改めて、あなたたちの要求を聞こうかしら?」
「……戻しなさい! 私たちエルフを、世界樹の守るあの森の町へ!!」
やっぱり、第八階層のエルフの町へ戻せという要求なのね。
しかも、今回決起したのはエルフ至上主義の中でも脳筋と呼ばれる者たちばかり。
ということは……。
「誰の入れ知恵でそんなことを?」
「あの方は、私たちに知恵をお貸しくださっただけ!
これは、エルフの意思よ! ダンジョンの巫女だろうと、私たちエルフの意思は変わらない!!」
もはや、何を言っているのか分からないわ。
私は、エレノアとソフィアを見て合図を送ると、二人とも小さく頷いてくれた。
「こんなことをした時点で、あなたたちの要求は通りません!」
「「【拘束チェーン】」」
エレノアとソフィアが同時に呪文を唱えると、エルフの兵士や騎士、コロヒィー夫人に伯爵は床から延びてきた光の鎖に拘束された。
聖魔法の拘束チェーンは、罪の重さによって痛みという罰も与えてくれるから捕縛にはもってこいの魔法です。
「クッ! は、外れ、ない!!」
「痛! な、何だこの鎖は!」
「クソッ! 私は伯爵だそ!!」
捕縛され、エルフ達が床に転がったところでシャリアは使用人たちの所へ行き、無事を確認している。
アーブルは、屋敷の中を執事の三人とともに見回りに行った。
そしてトゥレイヤは、私たちのところまで歩いてきて頭を下げてお礼を言ってきた。
「ミア様、エレノア様、ソフィア様、この度はありがとうございました。
どうか、ダンジョンマスター様にもお礼を……」
「その必要はありませんよ、トゥレイヤ。
これは、私たちダンジョン側の者と旧聖王国側のあなたたちとの契約。
あなたの義姉、ソルフィーナが頑張ったことなのだから……」
昔、聖王国から亡命するとき、マスターは第一王妃のソルフィーナとある取引をした。
それは今も、こうしてトゥレイヤたちに引き継がれている。
その約束は、残念ながら私たちには知らされていないけどマスターが納得されているなら、それでいいのでしょう。
「それで、この者たちはどうするのですか?」
「エルフの、種族代表のシルフィラに引き取らせます。
もちろん、それぞれに呪いを施してになりますが……」
でも、ココのことが知られてしまいましたね。
マスターと相談して、何か対策を考えておきましょう。
▽ ▽ ▽
Side ???
エルフの村の端にある旧教会の建物に、エルフの女性が一人入っていった。
村人と同じような姿をしていたが、印象は薄かった。
旧教会の廊下を進み、一番奥にある扉をノックした。
『はい』
「リルカです。バンローグ伯爵の派閥は、全員が捕縛されました。
屋敷の兵士に死者は出ましたが、伯爵の兵士に死者は出ていません」
『……分かりました、報告ありがとう』
「失礼します」
そう言って、女性は来た道を戻っていった。
後ろを振り返ることなく、去っていく。
部屋の中には、二人の女性が向かい合わせで椅子に座っている。
「脳筋たちが行動したようね」
「世界樹の巫女である、私たちの知恵に縋るとは……」
「でも、これで私たちの印象は良くなったはず」
「……そうね、ダンジョンマスターは今も私たちを見ているわ。
私たちの願いを、ちゃんと聞き届けてくれるわよ」
二人は天井を見た後、向かい合って笑顔を見せる。
「でも、もし願いを聞い届けてくれなかったら?」
「簡単よ、ディスニー。何度でも、私たち二人の印象を良くすればいいのよ」
「そうね、レスニー。バカなエルフ至上主義者を使えば、印象は良くなるわね」
「「フフフ、フフフ……」」
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