第92話 ダンジョンの巫女
Side フィーナ
裏門前には、すでにエルフの兵士が三人いて辺りを警戒しています。
この屋敷から、誰も逃がさないためなのでしょう。
「ダルソンさん、どうしましょう……」
「俺があいつらの気を引く。ナナとフィーナは、気づかれないように裏門を抜けろ。
そして、冒険者ギルドへ急げ」
「ダルソンさん」
「大丈夫だ、さっきの命令を聞いただろ?
捕縛されることはあっても、殺されることはねぇ」
「……分かりました」
「ナナさん……」
「行くぞ!」
そう言うと、ダルソンさんは身を屈めたまま裏門の兵士たちに見えるように横切りました。
そして、兵士たちはダルソンさんを追いかけていきます。
幸い、残る兵士はいません。それを確認して、私たちは裏門を抜けることができました。
「フィーナ! ギルドまで急ぐよ!」
「はい!」
私たちは、走ります! みんなを助けるために!!
▽ ▽ ▽
Side ミア
「ん~、どうしましょうか」
「何落ち着いているのよ、ミア。
この状況は、すぐに救出しないと! それとも、エルフ達を殲滅するの?」
「殲滅しても、ダンジョンのためにならないし、良くて電撃で捕縛。
悪くても、捕縛後呪いをかけて隔離かしら?」
旧聖王国の亡命者、トゥレイヤからのお知らせ合図が届いた。
で、その前にトゥレイヤたちが住む屋敷に、例の問題児のエルフ至上主義者たちが近づいていることに気づいていたら、何かあると警戒していたけど……。
「まさか、人質とって私たちに自分たちの要求を通そうとするとは……」
「あのエルフ達を放置した、私たちの落ち度ということじゃないの?」
「エルフ達は、種族代表のシルフィラに任せたはずよ。
責任は、シルフィラが負うことになるわね……」
結局、シルフィラは何もできなかったか、する前に今回の行動を起こしたか、ね。
とりあえず、今捕まっているメイドのハティを助けないといけないわね。
「捕まったメイドを助けるには、どうすればいいと思う?」
「そんな、吞気にどうするか話し合っている場合じゃないでしょ?
助けるなら、私たちが乗り込んで救出しましょう!」
「それしかないかな……。
そうだ、マスターには知らせた?」
「とっくに、通報済みよ」
「じゃあ、私とエレノアで行きましょうか」
「ええ!」
まったく、こんなことで要求が通れば、ダンジョン内で混乱が起きるわ。
どう連中を大人しくさせるか……。
そんなことを考えながら、転移魔法でコアルームから移動する。
▽ ▽ ▽
Side フィーナ
屋敷の裏門から町に出て、通りを抜けて中央広場へ。
そこから、南へ向けて走れば左手に冒険者ギルドの出張所が見えてくる。
「見えたわ! フィーナ、急いで!!」
「は、はい!」
普段、激しい運動をしてないから、すぐに息が切れてしまう。
でも、みんなを助けたい一心で動かない足を懸命に動かし冒険者ギルドに飛び込んだ。
「た、助けてください!!」
「大変です! お屋敷が襲撃されて、中の人たちが人質に!
すぐに助けをお願いします!!」
私は助けてとしか言えなかったが、一緒にギルドの中へ入ったナナさんが、詳細を話しながら助けを求めた。
これで、ギルドから他の町へ知らせが行くことに……。
「はい、ご苦労さん。
屋敷から逃げて、ここへ飛び込んでくる者が現れると伯爵が言っていたが、本当に来るとはな……」
「残念だったな、ギルドにいた連中ならほれ、あそこだ」
二人のエルフの兵士が、ニヤニヤ笑いながら私たちを見て左を指さす。
そこには、冒険者ギルドの受付嬢や職員たちが縛られて座らされていた。
しかも、何人かの冒険者と思われる人たちも一緒に、だ。
「そ、そんな……」
私は、ギルド内を見渡してエルフの兵士たちに占拠されていたことに気づいた。
すでに、前もって手を回していたということなのだろう。
私は、この状況に絶望してしまった……。
▽ ▽ ▽
Side ミア
「……さて、私たちに用があるとか?」
転移魔法を使い、人質に捕らわれているメイドのいる屋敷の食堂に現れると、辺りを見渡し状況を確認する。
そして、すぐにエルフ達に用向きを聞いた。
「ど、どこから現れ…」
「待ちなさい! ……ダンジョンの巫女様たちですね?
初めまして、エルフ貴族のローフィルト公爵の正妻のコロヒィーと申します。
この度は、このような事態を引き起こしてしまったこと、お詫びさせてもらいますわ」
「お詫び? あなたの表情は、そう言ってはいないようですが?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながらお詫びとは、自分たちの優位が覆らないと信じているようですね。
「とりあえず、そのメイドを放しなさい。
ダンジョンの巫女である、私たちが来たのですから、もう捕まえておく必要はないでしょ」
「あら、ダンジョンの巫女様たちは、お名前を教えてはもらえないのでしょうか?
ダンジョンの巫女様とだけお呼びするのは、いささか寂しゅうございますわよ?」
……確かに、ダンジョンの巫女とは呼ばれていますがそれぞれの名前はあまり知られてはいない。
ここは、時間稼ぎのためにも名乗っておきましょうか。
「それは失礼したわ。私は、ミア」
「私は、エレノアよ」
「おお! ダンジョンの巫女といわれるだけあってお二人ともお美しい!
どうでしょう、ここは私たちにもっとその美しさを見せてもらえませぬか?」
「……は?」
「何を言って…」
コロヒィー夫人の側にいたエルフの騎士が、私たちが名乗り終えるとすぐに前に出ておかしな要求をしてきた。
美しさを見せろ? どういう意味で言っているのか。
「おわかりになりませんか?」
騎士はそう言うと、右手で合図をする。
すると、人質を取っていた兵士がメイドの首にあてていた剣の刃を少しだけ滑らせた。
「痛っ!」
自分の首筋にあてられていた剣の刃が、動いたため痛みが走ったのだろう。
つい声を上げてしまう。
そして、首筋からは血が更に流れる。
「やめてッ!」
「!」
シャリアが叫び、トゥレイヤが驚いている。
だが、私たちには何を要求されているのか分からない。
「分からないから聞いているのです」
「仕方がありませんな~。
巫女様方のお美しさは、エルフである私も認めるほどです。ですから、その美しさをもっと見せてほしいのですよ」
「?」
「……直接言わねばわかりませんか?
ようは、裸になれって言っているんだよ! ダンジョンの巫女様方!」
「!!?」
「それは良い! ダンジョンの巫女様方には、ぜひとも裸になってその美しさを見てみたいわ~。
……でも、わたくしはそんな恥ずかしいことできませんけどねぇ~」
……なるほど、人質の命が惜しければということですか。
時間稼ぎも、ここまでですかね……。
エレノアに合図を送って、お仕置きをはじめましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます