第91話 助けを呼びに



Side フィーナ


『クレンチェ隊は、庭の方へ回れ!

この屋敷の関係者を発見したら、は捕らえて庭の倉庫へ閉じ込めておけ!

サンハン隊は、正面の門をこのまま封鎖しろ!

誰が訪ねて来ても、通さず隊長か私に相談すること!

後の者たちは、屋敷内の捜索へ向かえ!」

「「「ハハッ!!」」」


騎士の鎧を着た男の前には、軽鎧を付けた少数の男たち。

そして、その後ろに大勢の同じ鎧や剣などの武器を持ったエルフが大声で返事をする。

どうやら、騎士の男が命令をしていたようだ。


フルフェイスのマスクをしていたので、見えなかった。

声だけ聞こえて、おかしいなと疑問に思っていたところだ。


「フィーナ、ナナ、正面はダメだ。

倉庫を回って裏門から逃げるぞ……」

「は、はい」

「ダルソンさん、この屋敷から逃げてどこに行けばいいの?」


正面の門の近くの茂みに隠れていた私たちだが、門を出て逃げることができなくなったので、ダルソンさんが裏門から逃げるため身を屈めたまま進みだした。

そこで、私は裏門から逃げた後どうするのか聞いてみる。


「冒険者ギルドだ。

この村には、冒険者ギルドの出張所があるのは知っているだろう?

そこへ行って、中央から救助をお願いするんだ」

「冒険者ギルドは、どの町にもあるはずですからね。

助けてもらうなら、このやり方が一番でしょう」


ダルソンさんとナナさんは、冒険者ギルドに知らせることに賛成の様だ。

でも、冒険者たちが救出してくれるのかな?」


私は不安に思いつつも、二人について行って裏門を目指す。

すでに、庭の花壇付近にも兵士たちが見張っている。

急いで、移動しなければ……。




▽    ▽    ▽




Side シャリア


食堂の窓から、フィーナを逃がすことができたが他のものたちはダメだった。

庭に出れば、庭師のダルソンとナナが力になってくれるはず。

この屋敷を出て、このことをダンジョン巫女様のミア様に知らせることができれば……。


「シャリア様? 子供を逃がせても、すでにこの屋敷は兵士たちが制圧しています。

これ以上、私どもには逆らわないようにお願いしますよ?」

「……分かりました」


お母様に剣を向けて、私たちを脅して何をしようというのか……。

すでに私たちの生まれ故郷である、レストゥール聖王国は滅びました。

しかも、ここはダンジョンです。


「それで、私たちを捕らえてどうするおつもりなのかしら?」

「トゥレイヤ様、何も難しい要求はいたしませんわ。

私どもが要求することはただ一つ、この場にダンジョンの巫女を呼んでほしいだけです」

「ダンジョンの巫女様を?」

「ええ、そうですトゥレイヤ様」

「……なぜそのようなことを?」



私のその質問に、エルフの貴族のような服を着た者たちが一斉に笑い出した。

それぞれ、何がおかしいのか笑っている。


「シャリア様は、私どもを笑わせる才能をお持ちのようですね。

この件が終わりましたら、私どもに仕えませんか? 道化師として」


そう言ったエルフの貴族の女は、私を蔑んだ目で見ていた。

……この目、もしかしてエルフ至上主義者たちか?


「発言をよろしいですかな? コロヒィー様」

「ええ、構わなくてよ?」


そう許可を得て出てきたエルフの老人は、私たちに嫌らしい笑顔を張り付けて喋りだした。


「シャリア殿たちは、元レストゥール聖王国の王族でしょう?

だからこそ、このダンジョンの巫女と呼ばれる者たちと取引ができた。

そして、この快適な環境を手に入れている。どうです? 違いますかな?」


……確かに、私たちは生活に困らないように配慮されている。

だがそれは、この屋敷がある村から出ないことを条件にしている。

そのため、私たちはこの村から出られない。


しかも、村の者たちも他の町や村との交流を禁止されている。

だから、情報などをもたらせてくれる行商人は楽しみにしているだが……。


「そうよのう。そうでなければ、このような贅沢品が手元にあるわけがない。

わらわたちから奪ったものを、返してもらわねばならぬ!」

「そうです、お方様! ダンジョンの巫女に私どもの要求をのませるには、ここにいる者たちを人質とすることが交渉成立の近道!!」

「オホホホ、このようなことを考えつくとは、さすがバンローグ伯爵。

エルフ貴族の頭脳とは、よく言ったものよ!」


白いローブを纏った金髪エルフが、エルフの夫人に一礼して膝まづき、その手を取ってキスをする。

そして、見つめ合う二人……。


「あなたのために、私の知恵を使って町を取り戻してごらんに入れましょう」

「嬉しく思うぞ、伯爵」


見つめ合う二人、エルフでも貴族と思われる者たちにはああいう関係が成立するのね。

まるで、人族みたいだわ……。


「さて、では元聖王国の第二王妃だったトゥレイヤ様、ダンジョン巫女であるあの人たちを呼んでもらいましょうか?」

「……分かりました」


お母様は、剣の切っ先を突きつけられたまま懐にあるポケットから、スイッチを取り出した。

そして、取り出したスイッチを押した。


……ですが、何も起きません。

何か反応があるのかと思いましたが、何も起きませんでした。

もしかして、不発だったのでは?


「……どうした? 何も起こらんではないか?」

「これは、お知らせボタン。

ダンジョンの巫女様方に、話があるとお知らせするだけの物です。

いつここに来てくれるかは、私にもわかりません」


「な、なんと!?」

「構わん伯爵。 ……そのスイッチ、何度でも押してもらましょうか?」

「!! 何度押そうが、来られるかどうかは……」

「構わぬといったぞ? 三十分ごとに、使用人を殺していけば嫌でもダンジョンの巫女とやらは気づくであろう?

何せ、こんなバカな王族を生かせておいているのだからのう?」


そうエルフの夫人が言うと、周りにいるエルフ達が一斉にニヤリと笑う。

こいつらは、どの道ここにいる者たちを生かしておく気はないのだろう。

だからこそ、その考えが分かって笑ったのだ。


何という者たちでしょうか……。


バンローグ伯爵というエルフが、兵士の一人に合図をすると、メイドの一人の腕を掴み無理矢理立ち上がらせる。


「痛いっ!」

「黙れ! 人族の使用人が、勝手にしゃべるな!!」

「!!」


兵士は腰の剣を抜き、メイドの首に剣の刃を当てる。

まだ切るつもりはないのだろうが、その鋭い剣の刃が少し触れただけで傷をつけた。

そして、少量でも流れるメイドの血。


「あ、ああ……」

「さあ、お優しいダンジョンの巫女様は、何人目でこの場に現れるかしら?」

「クックックッ……」


エルフの兵士が、流れる血を見て笑っている。

ああ、ダンジョンの巫女様。

私たちは、どうすればいいのでしょうか……。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る