第90話 狙われた場所
俺たちを異世界へ召喚した国、レストゥール聖王国は滅亡した。
その滅亡した聖王国から、ダンジョンに逃げてきた王族がいる。それが、第一王妃のソルフィーナと第二王妃のトゥレイヤ。
それに、トゥレイヤの子供であるシャリアとアーブルの四人だ。
その他にも、避難民として王都に住んでいた人たちや戦争に巻き込まれた町などから聖王国の人々が避難してきていた。
そう、ダンジョンの住人の人族と呼ばれる種族のほとんどがこの避難してきた人々だ。
もちろん、その他にも移住してきたエルフや獣人などがいる。
ダンジョンに亡命してきたころ、ソルフィーナたちは最初の町の貴族街に居を構えていたがダンジョンパーク開園のため、貴族街から退去することになった。
ダンジョン側、つまりミアたちが用意した住居は、中央の町の貴族街だったのだがソルフィーナたちはそれを拒否し、中央の町と東にある農業の町との間に住める場所を建ててひっそりと暮らしたいと申し出たのだ。
ダンジョン側はそれを承諾し、中央の町と農業の町の間にレストゥールの村を用意した。
その村に住む人たちは、王族に仕えていた人たちなどが住み着きソルフィーナたちとともに生活していた……。
そんな村の中央にある屋敷の庭で、一人の少女が庭師の男女とともに庭園の世話をしていた。
「フィーナ、どう? ここの花は、育てるの難しいでしょ?」
「ええ。残念だけど、二本枯れていたわ」
「聖王国の庭から移し替えた種類だからねぇ~。
あそこは、魔道具を使って環境を整えていたから枯れることもなかったんだわ」
「……本当に、難しいわね。植物を育てるのって」
二人で、枯れた花を手にして話し合っていると男の庭師が声をかけてきた。
「おーい、そろそろお昼にしようやー」
「は~い、ダルソンさん。
フィーナも、トゥレイヤ様たちに声をかけてあげて」
「は~い」
そう言うと、庭師の女性はフィーナと別れてダルソンとともに休憩所へと歩いていく。
「ナナ、フィーナはトゥレイヤ様たちを呼びに?」
「ええ、家族で昼食をとるためにね」
そう言われ、後ろを振り返るダルソン。
フィーナの歩いて行った方向を見る。
「ソルフィーナ様がお亡くなりになって、もう何年にもなるが王族の方たちは変わられたなぁ……」
「変わらざるをえなかったのよ。
聖王国を滅亡させて、私たちの両親の生活は変わったわ。
でも、だからといって王族の方たちを責めたってなにも変わるわけじゃない。
あの頃の避難してきた人たちは、それが分からなかったのよ……」
ダンジョンに避難してきた当初、ダンジョンに亡命していたレストゥール聖王国の王族は、避難してきた人々に責められていた。
もし、そんな人々の前に出てしまったら責められるだけではなく直接制裁を加えられ、断頭台の露と消えていただろう。
もしかしたら、そのための貴族街と住人の住む町との隔離だったのかもしれない。
そんな状況が分かっていたからこそ、ソルフィーナはダンジョン側のミアたちにいろいろな要望を出していた。
それは、避難してきた人たちに分からない所で行われていたため今でも、生存する避難してきた人たちは王族の人たちを嫌っている。
「ダンジョンに住み着いて、もう三十年以上経つが、ソルフィーナ様方への態度は今も変わらねぇな……」
「私たちだけでも、ソルフィーナ様方の努力は認めてあげないと……」
避難してきた人たちが、ダンジョンの町で家を持って住むことができたり、支度金を用意されたり、一年ほど食料に困らなかったりしたのは、すべてソルフィーナたちがダンジョン側と交渉したおかげであることは、一部の者しか知らない。
何故なら、ソルフィーナは誰かを恨むことは、生きる力になると生前言っていた……。
「さて、フィーナたちの昼食が終わるまでに次の花の苗を用意しておかねぇとな」
「次は、何の花がいいかな?」
「今の時期だと……」
そんな話をしながら、二人の庭師は歩いていく。
▽ ▽ ▽
Side フィーナ
私の祖母であるトゥレイヤ様、母のシャリアにその弟のアーブルさんと一緒に昼食を食べ終えると、話はアーブルさんの家族のことになった。
「アーブル、弟子たちの様子はどうですか?」
「母上、私の弟子たちの成長はかなりのものですね。
何名かは、迷宮都市への遠征を言い渡しましたが全員がダンジョンで活躍をしているようです。
今年も、教え子の何名かを送るつもりです」
「結構です。私たちが持つ知識が、こうして人々の役に立つならどんどん教えていきなさい」
「はい、母上」
今はもうないレストゥール聖王国で培われた、剣術や魔法などをお婆様は人々へ教えている。
王族や貴族だけに伝えていったのでは、いつか廃れてしまうからと思っているからだ。
アーブルおじさんが、レストゥール聖王国の騎士団などで磨かれた剣術を、母のシャリアは、宮廷魔術師に伝えられていた魔法や知識を、人々に教えることで次に、未来につなげているのだ。
「フィーナは、魔法は覚えないの?」
「お母様、フィーナは魔法があまり得意ではないのよ」
「あら、そうなのね……」
「でも、植物などの知識に関しては、光るものがあるわ」
「それじゃあ、フィーナには王宮で育てられていたあの植物を任せてみようかしら?」
私は魔法や剣術などの適性が低かった。
それで落ち込んでいると、母が知識を得るようにと勉学を教えてくれた。
そこで、母が言うように光るものがあった。
それは、植物との相性だった。
そんな私に、お婆様がある植物の育成を任せてくれる……。
「お婆様、その植物とは?」
「それはね……」
その時、食堂に屋敷で働いてくれているメイドや執事がなだれ込んできた。
ドアをノックすることもなく、何かから逃げてくるようになだれ込んできた。
「! どうしたの?!」
「シャリア様、賊です! エルフの貴族たちが、兵士たちを連れて攻め込んできました!」
「何ですって!!」
そこへ、エルフの貴族と思われる者が三人と兵士や騎士鎧を着たエルフも合わせて十人ほどが、武器である剣を抜き、切っ先を私たちに向けてきた。
「何をしているのですっ!!」
「黙れ!! 人族ごときが我らエルフの貴族に、偉そうにするな!!
貴様たちは、ただ膝まづいていればいいのだよ……」
「クッ!」
このエルフ達は一体……。
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