第88話 末路



Side 石井廉次


頭がぼーっとする。

誰かに呼ばれている気がするが、どうもはっきりしねぇ……。

確か、いつもの実行班の連中と一緒に……。


「石井さん!」

「はっ!!」

「……気がつきましたか? 石井さん」


隣で俺を呼んでいたのは、健二か。こいつはアンロブトの編集班で、会社の編集室にいるはずだが何で俺たちと一緒にいるんだ?


「健二? 何でお前がぁ?! な、何だ、コレ……」


健二に、何で俺といるのか聞こうと体を動かしたが動かない。

驚いて、自分の今の恰好を確認して俺は絶句した。

木製の椅子に、鎖で雁字搦めに拘束されている。しかも、腕は背もたれの後ろで拘束され鍵までかけられていた。


「クッ、クソッ! 動かねぇじゃねぇか!!」

「石井さん、無駄っスよ」

「信也? 何でお前までこんなところに……」

「会社にサツがガサに来たんスよ。石井さんたちが、捕まったとかで」

「ハァ?! 俺たちが捕まった? 何の冗談だ?」

「捕まってるじゃないっスか! 現にこうして、俺たちも拘束されてるんスよ……」


そう言うと、信也は無理に体を動かし拘束している椅子から鎖と鍵の擦れる音が聞こえた。周りを見渡してみれば、俺たちの他にもアンロブトの社員全員が同じように拘束されている。


いまだ目が覚めていないもの、絶望的な状況に諦めているものなど、二十三人の男たちがいた。


「クソッ! 信也、ここは一体どこなんだ?」

「分からねぇっス。気づいたときには、もう拘束されてたっスから」

「でもよぉ、俺たちサツに捕まったはずなのに何でこんな所にいるんだろうな……」

「サツに捕まった?」

「ええ、俺たち会社の編集室で作業中だったんス。

そこへサツがガサに来て、会社にいた連中は全員捕まって、パトカーに乗せられたんスよ」


「だが、気づいたらここだったと?」

「はい、あそこでまだ気ぃ失ってる浩司やテンの奴も会社にいて捕まりました」


……どういうことだ?

警察に捕まって、警察署に行かずにここでこうして拘束って。



「……もしかして、捕まえに来たのはサツじゃない?」

「正解です!」

「誰だ!?」


声のした方へ顔を向けると、そこには黒髪の女が笑顔で立っていた。

かなりの美人で、こんな時でなければ絶対声をかけてものにしてたな……。


「なかなか頭のいい人もいるようですね~」

「……あんたが、俺たちを捕まえた黒幕か?」

「フフッ、黒幕ってなんだかゾクゾクする響きですよね~。

でも、違いますよ。

あなたたち、性犯罪者を捕まえたのは被害者の会です」

「被害者の会? 被害者って何のことだ?」


この女、俺たちがやってたことを分かったうえで、捕まえたってことか。

しかも、こんな拘束までして……。


「フフフッ、被害者は被害者です。

あなたたちに、望みもしないのに無理やり襲われた女性たちが依頼してきましてね?

こうして捕まえたってことですよ~」

「……それで、俺たちをどうするつもりだ? 殺すのか?」

「石井さん?!」

「この状況を考えれば、ただで済むはずがねぇ!

殺されるか、拷問されるか、酷い目にあうのは間違いねぇだろうが!」

「そ、そんな……。お、俺は、編集作業をしただけっス!

直接、女性に手を出したわけじゃねぇっスから!!」

「お、俺だって!」

「てめぇら……」


ここに来て、裏切りか?!

健二と信也が、女にてぇだしてねぇことを言い始めやがった。

自分たちだけ助かるつもりか?


「まあまあ、ここにいる時点で全員制裁対象ですよ。

呪いをかけて、警察へ全員つき出してあげますから覚悟してくださいね?」

「は?」


な、何言いやがった、この女。

呪い? バカか? どこの厨二病だよ!

呪いなんてものが、本当にあるわけねぇだろうが!


俺は健二や信也を見ると、こいつらも理解したようだ。

笑ってやがるが、ここはこの女の妄想にのっかって警察につき出されて終わりか。

強姦罪とかで何年かくらうが、その程度だろう。


「の、呪いなんてやめろ!」

「そ、そうだ! 呪いなんてかけたって」

「フフフッ、大丈夫ですよ。

痛みとかありませんし、すぐに終わりますから……」


おいおいおい、マジでこの女おかしいんじゃねぇか?

本気で、呪いを掛けようとしているぜ……。


「【反応ゼロ】!」


女がそう叫ぶと、俺たちの視界が暗転する。

突然、真っ暗になったのだ。ブレーカーでも落ちたのか?


「何だ? 突然真っ暗になったぞ?」

「ブレーカーっスか?」

「呪いは掛け終わりました~。

次に起きたとき、あなたたちは知るでしょう。

世の中には、本物がいることを……」


「は?」

「え?」

「な、何を……」


「【スリープ】 では、さようなら」


女が何か言った後、俺たちは急な眠気に襲われそのまま眠ってしまったようだ。

その後俺たちは、パトカーの中で目を覚まし連行されているところだった……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


ダンジョンパークにある最初の町のソフィアの店の奥の一室の扉を開けて入ると、ミアが声をかけてきた。


「マスター、良く似合ってますよ?」

「え? ああ、この姿は連中に呪いをかけたときの姿だよ。

本来は、ミアたちが呪いを掛けるんだけど、ああいう連中にミアたちを見られるのも嫌だから俺が姿を変えて呪いをかけてきたんだ」


そう、連中の前に現れた女は俺が魔法で姿を変えたものだったのだ。

変装魔法と同じようなものだが、声も変えられるから潜入なんかには重宝するだろうね。

弱点は、触られると元の姿が分かってしまうことかな。


俺は魔法を解除し、元の姿に戻った。


「連中に呪いは掛け終えた。

強力なものをかけておいたから、生きているうちは解けないだろう。

後はエレノア、薬物所持と使用で警察に捕まるように手配しておいてくれ」

「了解しました」


これで、あいつらも終わりだろう。

二度と性関連のことができないように呪いをかけたし、人生としても。


後は、今までしてきたことを後悔してくれればいいのだけど………

無理だろうな……。







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