第86話 レベル上げとスキル習得



今、俺たちは第六階層にある『虎』のダンジョンの二階層で戦っている。

福井美穂さんには悪いが、目を離すとすぐ自殺してしまいそうなので俺たちでレベル上げを強行させてもらっている。


エレノアの特殊スキルである忍術マリオネットの術で気を失っている福井さんを操り、魔導銃や革鎧などを装備させ、魔物を倒しまくっていた。



エレノアが操る福井さんが、魔導銃を構えると虎の頭をしたゴブリンに狙いを定め撃つ!

一発で倒せないときは、何発も撃ちまくる!

そして、どんどん魔物を倒していき、福井さんのレベルを強制的に上げていくのだ。


ハンドガンタイプの魔導銃を両手で構え、狙いをしっかりつけて撃つ!


―――パン! パン!


『クゲェッ!』


虎頭のゴブリンの頭を撃ち抜き、討伐に成功した!

二発撃ったのは、念のためだったが一発目で撃ち抜いていたな……。


「よし! これでレベルが十二になるはずだけど……」

「……大丈夫です。福井さんのレベルが十二に上がりました」

「ならば、早速耐性スキルを覚えてもらうか」


俺は、アイテムボックスから精神耐性スキルのスクロールを取り出し、エレノアが操る福井さんに手渡した。

が、ここで重大な失態を犯していることに気づいた。


「失態だ!」

「ど、どうしたの? マスター」

「福井さんが気を失ったままだから、スクロールを読むことができない……」


スキルスクロールや耐性スクロールは、読むことで習得となる。

また、魔法のスクロールは、魔力を流すことで習得することができる。

スクロールといっても、覚えるものによって習得方法が違うのだ。


今回は、耐性スクロールだから読むことで習得できる。

だが、福井さんは気を失ったままでエレノアが操っている状態だから、スクロールを読むことができない。


「……マスター、とりあえず習得可能レベルまで上げておかない?」

「そうだな、習得は後で福井さん自身にやってもらおう」


こうして、俺たちのポカによってレベル上げだけを行うことにした。


スクロールには、それぞれ習得可能レベルが設定されている。


これは、レベル一の者がいきなり高レベル魔法を使えないようにすることや金の力で高レベルのスクロールで無双しないためだ。

後は、魔力が足りなくなり魔法を使うたびに気絶しないためでもある。


スクロールで、高レベルスキルだけを習得し無能になった者が昔いたとかいなかったとか。

そんなわけで、スクロールには習得可能レベルがあるらしい。




▽    ▽    ▽




Side エレノア


私とマスターの二人で行った、福井美穂様のレベル上げは終わった。

最終的に、福井様のレベルは三十となった。


これは、恐怖耐性スキルの習得可能レベルが三十だからだ。

ミアの提案だったが、マスターが恐怖耐性スキルの習得に賛成してくれてよかった。

ミアと一緒に、福井様の思考を覗いたが自分の子供を見るたびに、自分を襲った男を思い出して恐怖するとは……。

このままでは、虐待も考えられたが耐性スキルという解決策を提示してくれた。


今、私たちは最初の町の孤児院の応接室に来ている。

ソファには、私と福井様、そしてマスターの三人が座っていた。


「マスター、私たちからそんなに離れなくても……」

「いや、福井さんを怖がらせるわけにはいかないだろう。

いいからエレノア、福井さんを起こしてあげてくれ」

「分かりました」


私は、魔法を使って福井様を起こす。

治癒魔法の一種だが、気を失った相手を起こすならこの方法が一番確実だ。



「……んん、……ここは……」

「福井美穂様、大丈夫ですか?」

「わ、私は……」


部屋の天井の照明の明かりに、少し眩しさを感じながら福井様は起き上がる。

そして、私を見て、周りを見渡してマスターを発見した。


「ヒッ…」

「大丈夫ですよ、福井様。

彼は、このファンタジーダンジョンパークの責任者の一人です」

「え、せ、責任者……」


ここで、ようやく思考が追いつき自分が何をしたのか思い出した。


「わ、私、森に……」

「自殺は阻止させていただきました。

ダメですよ、子供を残して死んでしまっては……」

「そ、それは……、それは……」


福井様は涙を流し始め、泣き出してしまいました。

私は、福井様を抱き寄せ安心させるように言いました。


「大丈夫ですよ、福井様。大丈夫です。

何故、福井様が子供を置き去りにしたのか分かっていますから……」

「……あ、ありがとう、ございます…」


私は、マスターの方を向くと右手を差し出してスクロールを渡すようにお願いします。


「マスター、スクロールを」

「ああ、分かった」


そう言って、アイテムボックスから精神耐性スキルと恐怖耐性スキルのスクロールを取り出し、私の手に渡してくれました。


「福井様、まずは、このスクロールをお読みください」

「……スクロール?」

「はい、この二つを読んでから詳しいお話を聞きします。

ですので、まずはお読みください」


そう言って、スクロール二つを渡すと一つ一つスクロールを開けて読みだす。

まずは、精神耐性スキルのスクロール。

そして次に、恐怖耐性スキルのスクロールを。


「!! こ、これは!」


福井様がスクロールを読むと、体が淡い光に包まれスキルを習得したことが分かった。

さらに、福井様の表情も変わったのだ。

先ほどまで、この世の終わりという表情をされていたのが、年相応の普通の女子高生の表情になっている。


深刻な悩みがあるとは思えないほど、カラッとしていた。


「お分かりになりますか? 今まで福井様が何をされていたのか……」

「……そうだ、私自殺しようとしていたんだ。

自分の子供の顔が、私を襲った奴の顔に見えて、恐怖を感じて、育てていく自信を無くしていたんだ……。

誰にも相談できなくて……」

「それで、ダンジョンパークに置き去りにした、と?」


「ここなら、誰かが育ててくれると思っていた……。

ダンジョンパークで生活している人たちって、やさしい人が多いから……大丈夫と思って……」


だからといって、置き去りはダメです。

どうしても、育てていく自信がないなら親に相談するか児童相談所という所でしたか?

……いえ、あの時の福井さんには考えられなかったでしょう。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る