第81話 置き去りをした親



ミアに孤児院建設の陳情が届いて二日後、俺は学校の教室で考えこんでいた。

陳情に基づき、最初の町の孤児院を建設するにしてもどこに建てるのか?

子供たちの面倒を見る人を、どう雇うのか?

最初の町にはいない、教会のシスターにお願いするのか? などなど。


考えれば考えるほど、難しく考えてしまう。

しかも、冒険者ギルドに保護された子供をはじめ、他の場所でも置き去りにされた子供が見つかっている。

それも、全員が黒い髪の子供たちだ。


「ん~」

「どうしたの? 颯太。難しい顔をして」

「凛、ちょっとな……」

「一人で解決できない悩みなら、私も一緒に考えてあげるよ?」

「ありがとう」


そう言ってくれる凛に、俺は孤児院建設のことと子どもの置き去りについて話した。

凛は、真剣に聞いてくれた。そして、孤児院の建設はすぐにでもするべきと意見を出してくれて、子供の置き去りに関しては怒りをあらわにしていた。


「ひどい! 子供を何だと思っているのよ!!」

「いや、俺に怒ってもしょうがないだろう……」

「あ、ごめん。でも、許せないよ、そんなの。

それで、ギルドが預かっている子供たちは今誰が面倒を見ているの?」


「ギルドの受付嬢たちが、持ち回りで面倒を見ているって話だったな。

でも、すぐに限界が来るだろうから場所が決まったらこっちで孤児院を建てるつもり」

「ダンジョンポイントとを使うの?」

「その方が一瞬だからね。ただ、建設場所に苦労しているみたい」

「建設場所って……」


実は、孤児院の建設場所はどこでもいいわけではない。

最初の町の建設配置は、ファンタジーダンジョンパーク開園時のためにいろいろと弄っているために、新しく何かを建てる時は景観を考えなければならないのだ。


貴族街を潰して亡命者を受け入れた区画の町を作ったのも、元々貴族街が最初の町で隔離されていた場所だったからすぐに作ることができた。

住宅街や店の位置に各ギルドの配置などなど、ファンタジーの町を見て感じることができるように配置している。


ファンタジーな住人をすぐに見れたり話せたりするのは、動線がそうなっているからなのだ。

こういうところは、結構苦労したところだったな……。


それはともかく、そんな最初の町に孤児院を建てるとなるといろいろなところとの話し合いが必要なのだ。


「……結構考えて建てられていたんだ」

「だから、今、建設場所でもめているんだよね。

子どもたちのことを考えれば、すぐにでも建てたいんだけど……」

「それじゃあ、コンビニとかスーパーの建設も?」

「もちろん、建てて良い場所を紹介している」

「へぇ~」


ファンタジーな世界にコンビニって違和感あるけど、それを違和感を抱かないような外観で建てているんだ。

孤児院も、ファンタジーな外観はもちろんだけど場所も苦労することになるな……。




その後、孤児院の建設場所が決まったのは凛に話した三日後になった。

ただ、建設自体はその日のうちに終わったけど。




▽    ▽    ▽




孤児院建設後のコアルームで、俺はミアたちとダンジョン内の問題について話し合っていた。


「倉庫街に置き去りにされた、赤ちゃんの親が判明しました」

「確か、ケニー君だっけ。名前が分からなかったとかで、ギルドの受付嬢が付けたっていう……」

「はい、よく覚えていましたね?」

「孤児院建設の切っ掛けのような子供だからね、それは覚えているよ。

で、そのケニー君の親が分かったって?」


ミアが、透明な操作盤を操作すると、俺の目の前にいくつもの画像表示画面が現れる。

そこには、一人の女性のプロフィールなどが表示されていた。


「こちらをご覧ください。

彼女が、赤ちゃんを置き去りにするところが映し出されます」

「……う~ん、こうしてみると軽い気持ちで置き去りにしたとは思えないね……」

「はい、それでこの人物を入場ゲートにある映像記録と照合したところ、名前が確認できました。

ですが、分かった時にはすでにダンジョンパーク外に出ていたので見つけることができません」


ダンジョン内であれば、ダンジョン操作盤を使えばすぐに分かるけど、ダンジョンの外の日本だと分からないよな……。


「そこで、ダンジョン企画に協力を依頼し探偵を使って捜索してもらいました」

「探偵を使うって、なんかすごい大人な感じがするな……。

それで、分かったの?」


まあ、目の前にプロフィールが出ているんだからわかったんだろうけど、一応聞いておく。


「はい、彼女の名前は福井美穂、十七歳。

新條女子高に通う高校二年生でしたが、今は休校しているようです」

「休校?」

「はい、高校一年の時、下校時に暴漢たちに襲われレイプされたそうでそれ以降休校しているそうです」


暴漢に襲われたって、まさかその時の子供?

言葉が出ないな……。


「それは、何というか……」

「探偵が調べたところでは、ずいぶんと降ろすか産むか悩んでいたそうです。

ですが、悩んだ末産むことにしたそうですが……」

「置き去りか……。何かあったのかな?」

「分かりません。……それで、どうしますか?」


どうするかといってもな……。

彼女を、呼び出した方がいいかもしれないな。

あんなに泣きながら置き去りにしたうえ、何度も何度も振り返りながら去っていく姿を見てしまってはな……。







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