第79話 捨て子と孤児院
Side ネリスティア
「りーちゃん、クリスマスプレゼント決まった?
………うん、うん、そうなんだ~。私? 私は、何がいいかな~。
………うん、そうだね、相談してみる。
………うん、うん、うん、またね!」
私は、スマホの通話を切る。
りーちゃんの家族が、ダンジョンパークから帰って五日が経って、りーちゃんから電話がかかるようになった。
話題は、大半が今月あるというクリスマスのこと。
私には、何のことか分からなかったがりーちゃんに少し教えてもらった後、孤児院の先生に詳しく教えてもらった。
ダンジョンの外の世界のお祭りだそうで、クリスマスの夜にはサンタクロースという白い口髭がすごいお爺さんが、その年に良いことをした子供に、ご褒美として玩具などをプレゼントしているのだとか。
たぶん、この話はどこかの宗教が関係しているのだろう。
そうじゃなきゃ、そんな奇特なお爺さんの話が子供たちの間に広まることはないわね。
「ネリス、庭のお掃除は終わったの?」
「これからだよ、シスター。
お友達から連絡が来たから、お話していたの」
「お掃除の間は、電源を切っておきなさいね? それに、お友達もいいけど仲間のことも考えなきゃだめですよ」
「は~い、お掃除終わらせてきま~す」
孤児院で子供たちのお世話をしている、リニーシスターに注意されてしまった。
ここは、ファンタジーダンジョンパーク内の最初の町の東の端にある孤児院。
孤児院は、各町に存在しているがここ最初の町の孤児院は特別だ。
私のように、天使族で見た目が十歳の女の子にしか見えないような子供が数多く生活している。
実際、見た目は子供でも精神年齢は大人という子が多くいる。
もちろん、見た目も精神年齢も子供という子もいるが……。
ただ、そういう子供は人族がほとんどだ。
ではなぜ、このような孤児院があるのか。
それは、先週に起きた事件のせいで、孤児院を置くことにしたのだとか。
先週の事件、それはりーちゃんが遊びに来た次の日のこと……。
▽ ▽ ▽
Side ネリスティア
私は今、夜の最初の町の住宅街を走っていた。
この町は、ダンジョンの外からの人たちを迎えるためにダンジョンの巫女様たちが手を貸されて、いろいろと安全が確保されている。
その一つが、街灯の設置だ。
夜の町中でも、街灯で照らされているおかげで誰かに襲われる不安や恐怖はある程度緩和されている。
もちろん、これで安全というわけではない。
そこで、衛兵の巡回も行われていて安心できるのだ。
そんな夜中の、住宅街を走っているのには訳がある。
まあ、そんなに大げさなものではない。
りーちゃんとの遊びを優先させてしまい、ギルドからの配達の仕事を忘れていたからだ。
そのため、ギルドから呼び出され、今こうして配達させられているというわけだ。
配達の仕事は、毎日あり人手も不足いているため私のような配達人は貴重なのだ。
だからといって、無断で休んでもらっては信用問題になってしまう。
ギルドと私の信用問題だ……。
「……これで、おしまいっと」
ギリギリ、日付が変わる前に配達の仕事が終わった。
だが、明日はりーちゃんが帰る日だ。午前中だけでも、休めるように後で交渉を……ん?
「何だろう……」
近くで、子供の泣き声がする。
この辺りは倉庫街だから、誰か住んでいる者はいないはずだ。
それなのに、子供の泣き声がするということは……。
私は、声の聞こえる方向へ足を勧めた。
そして、何度か倉庫の角を曲がって、籠に入った赤ん坊を見つけた。
見た目は、人族の赤ん坊だ。
「あー、あー、」
「えっと、誰か忘れた? それとも……」
赤ん坊は、私の顔を見て安心したのかすぐに泣き止んで、私の指を掴んで離さない。
こんな時、通常であれば町の孤児院へ連れて行く。
そこで預かってもらい、衛兵やギルドなどで親を探したりするんだ。
「うー……」
「大丈夫だよ~、すぐに連れて行ってあげるからね~」
「だぁ~」
少しぐずり始めたが、私が話しかけると笑ってくれた。
だけど、この最初の町に孤児院はない。
歓楽街や貴族街が無くなった時、教会も引っ越したので孤児院も引っ越してしまったのだ。
一応、町の人から孤児院の設置を要望されてはいたが、人数が少なかったのかいまだに設置されていなかった。
この間の種族会議にも、話題に出なかったって天使族代表のルティエア様も仰っていたわね。
まあ、そのルティエア様からはダンジョン巫女様の話しか出なかったけど……。
「この子、どうしようかな……」
「んん?」
私は、赤ん坊を見て決めた。
配達の仕事が終わった報告をするついでに、ギルドに報告すれば何か考えてくれるだろう。
この子にとって、いい結果になることを祈りましょう。
最初の町にある冒険者ギルド。
深夜一時になっていたが、ギルドは閉まることなく開いていたし受付にも受付嬢が何人かいた。
「ただいま戻りました~」
「おかえりなさい、ネリ、ス?
あら? その赤ちゃんはどうしたの? 産んだの?」
「そんなわけないでしょ!
私のこの見た目を考えたら、産めるわけないでしょ!
それよりも、配達は終わったわ。その帰りに、倉庫街で見つけたの」
受付嬢は、私が抱いていた赤ん坊をカウンター越しに持ち上げて自身で抱いてあげる。
見た目十歳の私より、見た目二十歳前後の受付嬢が抱けば、まるで母親に抱かれている子供の様だ。
「ん、ちょ、ちょっと? 私のおっぱいは出ないわよ?」
「いつから倉庫街に置かれていたのか分からないけど、お腹が空いているようね。
おっぱいの出る人はいないの?」
「この時間にはいないわよ、……ん、ちょっと、待って、ね?」
赤ん坊は、お腹が空いているのだろうか、受付嬢の少し大きな胸を制服越しに両手で揉んでいる。
しかし、出ないことが分かればすぐに泣きだしそうだ。
「どうするの?」
「そうだ、リラ! リラ!」
そう受付の裏に向かってちょっと大きな声で叫ぶと、暖簾から女性が一人顔を出した。
猫獣人の受付嬢だ。
「何、シシリー。って、何その子。シシリーの子供?」
「違うわよ。倉庫街に置いていかれてたって、それより、食堂のハルさんを呼んできて」
「……ああ、了解。ちょっと待っててね」
そう言うと、何かを理解したのかすぐに引っ込んで、走って行った。
ギルドに併設されている食堂のハルさんという人が、おっぱいの出る人なのだろうか?
それより受付嬢の名前、シシリーっていうのね。
金髪青眼の人族の受付嬢は、赤ん坊を何とかあやしながら時間稼ぎをしている。
泣きそうで泣かない赤ん坊を見ていると、ふと疑問に思う。
この子、髪が黒い。
ダンジョンの中で暮らしていた人の中に、黒い髪の人はいなかったはず。
ということは、この子の親は……。
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