第78話 久しぶりに出会う
Side とある親子連れ
「ん~~、ここに来るのも久しぶりだな!」
「半年ぶりかしら? 前来た時は、オープンして間もない頃だったと思うから……」
年末の連休を前に、今日から二日間、久しぶりの休みが取れたので家族を連れて久しぶりにファンタジーダンジョンパークへ来てみた。
来てみたというより、娘に行きたいとお願いされたのだ。
「パパ、あの人たち、テレビに出てたよ」
「あら、芸能人でも来ているのかしら……」
娘と妻が、テレビに出ているという団体客の方を見ている。
大型バスが停車すると、中から外国人の人たちが何人も降りてくる。
あの人たちは、確かにテレビで出ていた人たちだな……。
「あれは、亡命者の人たちだよ」
「亡命者って、ニュースで特集していた?」
「ああ、アフリカのブルサース国からの難民たちが、国が分裂で無くなり帰ることもできなくなったからと日本に亡命した人達だな。
確か、ダンジョンパーク内の町に受け入れてもらって生活するそうだ」
帰る国が無くなり、どこにも受け入れてもらえなくなり日本へ亡命。
今の内閣総理大臣が受け入れを承諾し、閣議決定で決まり日本国内に受け入れ先を探したがどこも受け入れることができず、最後の頼みの綱とかでファンタジーダンジョンパーク内の町で受け入れを要請。
そして受け入れてもらえて、いろいろと手続きが終わり、亡命要請から何カ月もかかったが、今日ようやく受け入れ先であるここに来たということだな。
「でも、ダンジョンパーク内のどこの町で暮らすの?」
「最初の町だよ。
確か、最初の町の中にある今は誰も使っていない貴族街を潰して、亡命者たちが暮らすための家をそろえたと言ってたな」
「……至れり尽くせりね。羨ましいわね……」
「そうか? 俺はあまり羨ましくないな。
帰る国をなくし、亡命者にはなりたくないし……」
「……そう言われればそうね。でも、あの人たちの働き口ってあるのかしら?」
「難民になる前は、農業をしていたそうだから作物を作って生計を立てるんじゃないのか?」
「そうなのね……」
今もぞろぞろと、背広を着たどこかの職員という人に誘導されてダンジョンパーク内へ入っていく。
そのまま、テレビの特集でしていた最初の町の中に造った町へ行くのだろう。
……あの人たちに、幸福が訪れることを祈っているよ。
「パパ、早く中に入ろう。
ネリちゃんに、会いに行こうよ~」
「……そうだな、行こうか」
娘に、ダンジョンパーク内に入ろうと促され、家族でダンジョンパーク内に入るための入り口ゲートを目指した。
自家用車を止めた駐車場からは、少し歩くことになるがのんびり行こう。
今日は、最初の町の宿に泊まることになるのだ。
……あと、ネリちゃんとは、前回このダンジョンパークに来た時に娘が最初の町で出会った天使の少女だ。
天使といっても、天使族という種族があって背中には小さいながらも羽が生えている種族がいるのだとか。
で、その種族の少女と知り合いダンジョンパークから帰る時、また会おうと約束していたらしい。
ずっと家族でいたのに、いつの間にそんな友達ができたのか……。
とにかく、今回来園したのはその少女に会うことが主な目的なのだ。
▽ ▽ ▽
Side ネリスティア
最初の町で、初めてできた友達を探して何カ月が過ぎただろうか?
あの日以来、姿も見なかった。
「幻ってわけじゃなかったわよね~」
天使族の私に、幻術は効かないのだから騙されるなんてことはないはず。
まあでも、この町で仕事を探して長い間住んでいれば愛着も沸くし、知り合いも増えるものだ。
今日も、町を回りながらあの子を探している。
そして、そのついでにギルドから依頼のあった手紙などの配達の仕事をしていた。
「こんにちは、ネリちゃん」
「こんにちは、宿屋のおじさん」
「お、ネリのお嬢じゃねぇか。今日も配達の仕事か?」
「そうよ~! ギルドからの依頼なのよ」
こうして、最初の町のいろいろな場所で声をかけてもらえる。
あの子を探すついでに、配達の仕事を受けたが、今ではどっちが目的でやっているかあいまいになったわね。
「あ! ネリちゃん、久しぶり!」
その声、その姿、何カ月も探していた友達が、私の目の前に現れた。
……ずっと会いたかった。
……ずっと声が聞きたかった。
「りーちゃん!」
「ネリちゃん!」
私は、りーちゃんに抱き着いた。
ずっとずっと会いたかった女の子、りーちゃんは、おそらく人族の女の子。
種族代表が話していた、今のダンジョンの外から来た女の子だ。
昔のダンジョンの外から来た人たちと、今のダンジョンの外から来る人達の服装がそもそも違う。
また、同じ人族でも少し姿が違うし、オーラというのかな? 雰囲気が違うのだ。
こうして、りーちゃんと抱き合っていても分かるのだ。
りーちゃんの柔らかさや、匂いが全然違うということに。
「久しぶりだね、りーちゃん。私、会いたかったよ!」
「私もだよ、ネリちゃん!」
そう言うと、再びお互いに抱き合った。
ふと、視線の先にいる二人の大人の人族が目にはいった。
おそらく、あの男女はりーちゃんのお父さんとお母さんだろう。
りーちゃんと抱き合っていると、りーちゃんが斜め掛けしていた鞄から携帯電話を取り出した。
これ、スマホというやつだ。
「ネリちゃん、番号交換しない?
そうしたら、いつでも連絡できるでしょ?」
「うん、いいよ」
フフフ、実は私もスマホは持っているのだ。
ここ最初の町には、携帯電話の専門店がいくつかできている。
もちろん、最初の町しか使えない携帯電話であるが、持っていればギルドからの注意事項なんかの情報がすぐに入ってきて便利なのだ。
それに、手紙の配達なんかでは最初の町とはいえ迷うことがある。
そんな時は、これでギルドに連絡して正しい道を教えてもらうこともできた。
「……これで、いつでも連絡できるね」
「うん、りーちゃんありがとう」
お互いのスマホを見せて、番号を交換した。
そして、二人で笑い合いながらこれからのことを話すのだった。
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