第76話 クリスマスイベントを



エルフの第八階層からの転移から三日後、俺は最初の町にあるソフィアの商会の応接間にいた。

ソフィアは、ダンジョンの巫女という立場ではあるが俺の知識を使った料理で食堂を経営する商会を立ち上げていた。


その食堂では、主にスイーツを扱っておりレシピの販売もしているので、かなりの利益を上げている。

さらに、ダンジョン内にあるすべての町に出店しており各町ともに人気のスイーツ店として存在していた。


「シルフィラさんは、エルフの貴族たちを平民に降格させて、貴族そのものをなくしてしまったのか……」

「はい。それに長老も、エルフ内の権力者から各村の村長程度に降格させました。

これで種族の代表であるシルフィラ様が、実質の種族の頂点となります」

「ん~、まあそれも、期限付きだけどね……」


各種族の代表者は、ダンジョンの巫女であるミアたちに認められて就任する。

しかも、各種族の寿命に合わせた年数の期限付き。

エルフだと、三十年が期限だったはずだ。

人族ならば、五年だったかな。


「それと、転送したエルフ達ですが、エルフの村を中心に東西南北に別れて新たに村や集落を作って暮らすようです。

昨日、シルフィラ様からエルフの村周辺の開拓許可が申請されていました」

「当然だけど、許可は出しておいて。

それと、村や集落に住まないエルフもいるよね?」


「はい、世界樹の巫女と名乗るものたちや町の暮らしが手放せないものなどです。

その者たちは、第六階層へ旅立っていきました。

どうにかして、第七階層、第八階層を目指すようです」

「まあ、第七階層への扉はダンジョン内だし、階段はダンジョンの最下層だから発見するのはだいぶ後だろうね。

それに、第七階層へ行けたとしても第八階層への階段や扉は見つけられないかも……」


向かい側のソファに座って報告していたミアは、俺の顔を見て分からないって顔をしている。


「現在、第七階層には何もありません。

ただ草原が階層いっぱいに広がっているだけ。第八階層への扉や階段を見つけるのは、簡単ではないのですか?」

「フフ、ミアは一度、第七階層へ行ってみれば分かるよ。

あんなだだっ広い場所で、下層へ降りるための階段や扉を見つけるのは困難だよ」


何せ、階層一つの広さは北海道がすっぽり入るのだ。

そんな広さの場所で、山も丘もない平坦な草原が広がるだけ。

見ればわかる、あれはまるで『〇〇と〇の部屋』だったよ。


「まあ、エルフ達はシルフィラに任せておけばいいだろう。

何か不測の事態が起きて、こちらに助けを求めてきたら手を貸してあげてくれ」

「了解しました」


「あ、そうだ、フィランドとかいうバカはどうなったんだ?

ミアとソフィアに一目ぼれして、俺に解放しろとか言っていたエルフは」

「え~と、シルフィラ様の報告書には、貴族家の連中と同じように奴隷落ちさせドワーフ族の管理する鉱山へ労働に出したようです。

毎日、魔法も使えずに力仕事に従事しているみたいですね」


エルフは魔法などで、力を発揮する種族だ。

その魔法を封じられて、鉱山で働かされているということは、相当きつい罰になるか。


「了解。これで、エルフ騒動では俺たちのすることはなくなったね」

「そのようですね。

では、次にダンジョン企画の方から最初の町でクリスマスイベントなどができないか? という問い合わせがきております。

最初の町は、ダンジョンパークに来られた方たちが多い町。

そのため、ダンジョンの外の風習を最初の町だけでもしてほしいようですね」


クリスマスイベントか……。




▽    ▽    ▽




Side ミア


「確か、クリスマスイベントというと恋人同士で過ごす特別な夜という、あれですか?」

「それは、恋人同士でのクリスマスだね。

他にも、家族で過ごすとか、一人で過ごすとか、いろいろパターンがあったはずだよ」


マスターの部屋でネットを使わせてもらっていますが、そこにいろいろと載っていました。

サンタクロースやキリストとかいう人の誕生日など、情報が錯綜しているようですが、どうやらキリスト教という宗教に関係しているとか。


私たちが知る神といえば、向こうの世界の神ですからね。

ネットで知ったイベントは、向こうの世界にはありませんでした。


「それで、どうされますか?

最初の町で、クリスマスイベントを企画しますか?」

「いや、企画は父さんたちのダンジョン企画に任せよう。

最初の町で、どんなクリスマスイベントをするかは分からないけど、事前に最初の町の住民に知らせておけば、混乱は避けられるだろうからね」


「分かりました。クリスマスについてギルドなどの掲示板にどんなお祭りなのか知らせておきます。

後、住民への告知もお願いしておきましょう」

「すでにダンジョンの外からの移住者もかなりいるようだから、楽しむことはできると思うけど……」

「ソフィアの商会でも、クリスマスに因んだスイーツがいい宣伝になるでしょう」


それに、クリスマスイベントが行われるのであれば、マスターと一緒に過ごすことができるでしょう。

楽しみになってきました……。





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