第75話 転移 後編
Side とあるエルフ貴族
「退去状だと?」
「あの劣等エルフは、何を考えているのだ?!」
各エルフの貴族当主から、シルフィラに対する罵声や怒号が飛び交う。
私ことノバラス・オルゲも、怒りで震えているほどだ。
エルフの種族の代表なのは、一時的なものだ。
それを何を勘違いしたのか、我々至高のエルフに対してエルフの町から退去するように命令してくるとは……。
「コーハク長老、劣等エルフに対する懲罰をここに提案したいのだが、どうだろうか?」
「それは良い! 劣等エルフが、エルフの代表というだけでも納得がいかなかったのだ!」
「すぐに、劣等エルフのシルフィラに罰をあたえなければ!」
ハートガラン卿の提案で、場はすぐにシルフィラへどのような罰をあたえるかの話し合いに変わった。
だが、それを遮るように長老が言葉を発した。
「待て! 仮にもシルフィラはエルフ種族の代表だ。
それに、巫女のお三方にも面識があるからすぐに次のエルフ代表をとはいかんぞ?
それは、どうする気だ?」
巫女のお三方。
この世界を創造された方の側使い、実力もありエルフよりも長命と聞く。
また、今回はある事件で我々貴族の立場の印象が悪い。
「……巫女のお三方がいたか。
確か、ウルーフス家のバカがやらかした件があったな」
「あれで、我らエルフの貴族の印象が悪くなってしまったのだ。
……もしかして、今回のシルフィラの暴走はそれを知って、我らを追い詰める気か?」
「なるほど、巫女たちを味方につけて、か」
ありえる話だ。劣等エルフの考えそうなことだな。
種族の力で敵わないと見て、巫女たちの力を借りて自身がエルフの頂点に立つつもりか?!
「長老、巫女のお三方に関しては我ら貴族の総意と説明すれば、よろしいのではないですか?
エルフの中で、我らは優れたエルフです。
そのエルフから、劣等エルフを解任すると言えば納得してもらえるはずです」
「……分かった、巫女様たちにはそう伝えておこう。
では……ん?! 何の光だ!!!」
「魔法陣?! まさか! 転送陣か!!!」
「バカなっ! 我らエルフが気づかなかっただと?!!」
慌ただしく席を立つが、私たちは魔法陣の光に包まれ転送された。
至高のエルフのはずの私たちが、何も抵抗できずに……。
▽ ▽ ▽
Side シルフィラ
私の目の前に、数多くの転送魔法陣が出現し一瞬強く光った後、数多くのエルフが出現した。ダンジョン巫女のミア様たちが、予告したとおりだ。
目の前に現れたエルフ達は困惑しているし、混乱している。
「静まれ!!!」
私が風の魔法を使い、この場所に出現したエルフすべてに声を届ける。
そして、私の第一声に反応し全員がこちらを向いた。
「私は、エルフ種族代表! シルフィラだ!!」
「シ、シルフィラ! 貴様が転送させたのか?! ここはどこだっ!」
すぐ目の前にいた長老が、私を怒鳴りつけてくる。
ここがどこかなんて、退去状に書いてあったはずだが?
「ここは、第一階層にあるエルフの村だ!
あなたたちは、エルフの階層といわれた第八階層から追い出されてここに転移された!」
「な、何だと! おい! ここがエルフの村なら、転移街道でエルフの町へ戻れるはずだ!」
長老の後ろにいた男が叫ぶ。
近くにいた、自分の部下に命令する。エルフの町へと続く転移街道を探せと。
……だが、転移街道はダンジョンのマスターによって封鎖された。
「聞けえ! エルフの町への道は封鎖された!
これは、ダンジョンの巫女であるミア様、エレノア様、ソフィア様も承知のことだ!」
「シ、シルフィラ! 貴様がそう巫女様たちを仕向けただな!
我らはもう、エルフの町へ行くことができないということか?!」
私は、仇のような目で睨む長老に諭すように告げる。
「そんなわけないでしょう。
エルフの町がある第八階層へは、第七階層から行くことができます。
ただ、転移街道が使えなくなっただけです」
「だ、第七階層へどう行けば……」
エルフ貴族の男が、縋るような目で私に質問する。
この男、確かハートガラン・アバゼーレンという貴族の当主。しかも、エルフ至上主義の中心貴族だったはずだ。
それが、こんな情けない男とはな……。
「第七階層へは、第六階層のダンジョンを攻略すれば行けますよ。
十二あるダンジョンのどれかに、第七階層への道が置かれているそうですから」
「そ、そんな馬鹿な……。これでは……これでは……」
貴族ということを鼻にかけていた当主たちは、全員が膝をついて項垂れている。
そこへ、一人のエルフの女性が私の前に出てきた。
「シ、シルフィラ様! シルフィラ様! 世界樹の巫女をしていますミエラと申します。どうか私だけでも、世界樹の元に帰ることはできませんか?」
「……世界樹の巫女? 精霊の大木は、いつから世界樹と呼ばれるように?」
「そ、それは……」
どうやら、至高のエルフとやらの教育の一環で精霊の大木を世界樹と呼び、巫女を選出して世話をしていると……。
世界樹の世話? どんな世話が必要なのだ?
私は同じエルフでも、海エルフと呼ばれているが精霊の大木に世話役が必要だったとは初めて聞いたぞ。
「残念だが、今の世界樹に世話は必要ない!」
「そ、そんな……」
「あと、エルフ十三貴族家だったか? ミア様たちからの伝言だ。
エルフ貴族家は廃止する! とのことだ」
「ふ、ふざけるな劣等エルフ!! そんなことが許されると思っているのか!!」
「おい! 劣等エルフのシルフィラはエルフ種族へ謀反を起こした!
即刻捕らえて、処刑せよ!!」
「「「ハハッ!!」」」
貴族の一人が怒鳴り、長老が私に対して処刑を兵たちに命じた。
こちらの戦力が見えないのかしら?
「長老、元貴族エルフ、兵士に対して戦闘を許可します!
ただし、殺さないように注意してください!!」
『了解』
私の後ろに並んでいたゴーレム騎士たちが、腰の剣を抜き私に向かってきたエルフの兵士たちへ戦いを仕掛けていく。
「ゲッ!!」
「こいつは!」
「ガッ!」
そんな声を上げながら兵士たちは、ゴーレム騎士に倒されていく。
次から次へと倒されていき、ついに剣を構えた元貴族エルフの一人を捕縛してしまう。
さらに、その側で驚いたままの元貴族エルフも同じように捕縛し、それを見ていた兵士たちや元貴族エルフ達が逃げ出し始めた。
「な、何を逃げている! 先ほどまでの威勢はどうした!!」
「逃がすな! 捕らえるのは、元貴族エルフと兵士たちだ!!」
「シ、シルフィラ、よくも、よくも我らエルフを裏切ってくれたな……」
「長老、自分勝手な思想をエルフ達に植え付けたのはあなたたちでしょう。
そのことが、ダンジョンマスターや巫女様たちの怒りをかったのです」
「ク、ククッ!!」
長老は、悔しそうに表情を歪め地面を何度も拳で叩いていた。
その間も、元貴族の当主や次期当主にその家族がゴーレム騎士たちに捕らわれていく。
エルフの騒動は、こうして一応の解決を見たが、まだまだやらなければならないことがある。私は、エルフ種族の代表としてこれからもっと頑張らなければ……。
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