第73話 ダンジョンからの制裁
目の前の剣先を俺に向けているエルフの兵士は、ミアとソフィアを解放しろといった。
解放しろ? どういう意味だろうか?
「あ~、開放しろとはいったい?」
「しゃべるな人間! 高貴な私の耳が腐るではないか。
だが、後ろの見目麗しいお二人に免じて答えてやろう。
解放しろといったのは、奴隷から解放しろという意味だ!
貴様のような醜い人間が、後ろの美しい女性を側に置けるわけがない。だから私は察したのだ。奴隷として仕方なく彼女たちは、きさまに従っているのだとな!」
なるほど、それで解放しろと。
だが、このエルフはミアたちが奴隷かどうかも分からないのか?
確か、奴隷契約魔法では、首輪、指輪、腕輪と奴隷と分かるような目立つ場所に付けるようになっていた。あと、刺青は印を体のどこか目立つ場所にいれるらしい。
俺は、後ろに控えているミアとソフィアに視線を送ると二人とも俺に対して笑顔で答えてくれた。
「俺には、そうは見えないが……」
「黙れ! 貴様がしていいことは美しいお二人を解放することだけだ!」
やれやれ、話にならないな。
俺は呆れながら、ミアにお願いする。
「ミア、兵士とアホを拘束してくれ」
「分かりました。【拘束チェーン】」
ミアの魔法で、床から光の鎖が何本も一斉に飛び出し、エルフの兵士三人とフィランドを動けないように拘束した。
「な、何だこれは!?」
「クソッ!」
「ガッ!!」
「う、動けない……」
シルフィラさんとニーナさんは、フィランドの兵士たちが俺に迫った時から壁際に逃げている。
また、河口さんたちはフィーリカ姉妹と一緒に俺の斜め後ろ側に逃げていた。
つまり、兵士が剣先を向けてきたときには俺以外座っていなかったことになる。
「さて、シルフィアさん、これはエルフという種族の総意ではない。
ということで、よろしいですね?」
「は、はい! 一部のエルフの暴走です! 総意ではございません!」
「分かりました」
「クッ! このような鎖で、この私を拘束などできるなどと!!」
フィランドは、床から出てきた光の鎖を引き千切ろうと力の限り引っ張るがビクともしなかった。
それどころか、ますます光りの鎖が体に食い込み痛みが増していく。
「クッ! ググッ!! な、何だこの鎖はっ!!」
「フィ、フィランド様! は、外れない!!」
「グゥーッ!!」
「クソッ! クソッ!! クソッ!!!」
兵士たちは、主人であるフィランドが苦しむ姿を見てすぐに救出しようと鎖の拘束から逃れようとするが、自分たちもまたフィランドと同じように光りの鎖が食い込んだ。
「無駄なことはやめなさい、その鎖は『断罪の鎖』といって聖魔法で自身の罪の重さで強度が上がります。
あなたの犯した罪では、そう簡単に外れるはずかありません」
「な、何を言うのです、美しき人よ。
私は、選ばれし至高のエルフ。奴隷としてそこの醜い人間に捕らわれのあなたを解放させようとしただけです。
それが、罪だと言われるのですか?」
やっぱり、ミアが奴隷で俺に束縛されていると思い込んでいたようだ。
人は見た目ではない! と思いたい!
「ええ、罪です!
私はこの方、五十嵐颯太様の秘書であり、巫女であり、妻なのです!
私は、望んで今の場所にいるのです。
勝手な憶測で、決めつけないでもらいたい!!」
「う、嘘だ! 嘘だ!! 嘘だ!!!
あなたのような美しい人が、私ではなくそこのゴミを選ぶなんて!!」
「……」
ミアは、俺のことをゴミと呼んだフィランドを威圧のこもった目で睨みつけた。
「「「「!!!」」」」
ミアの威圧を受けたフィランドはもちろんのこと、威圧の余波を受けた三人の兵士たちもフィランドと同じように気絶してしまう。
その場に崩れ落ちた四人は、光の鎖により床に押し付けられる。
「ミ、ミア様、今のは……」
「マスターをあのように呼んだ罰です。
しばらく、床に縛り付けておきます。よろしいですね?」
「は、はい!」
シルフィラさんが、ミアにフィランドたちが気絶したときの力を訪ねたが、ミアは俺への呼び方が気に入らなかったようで気絶させた。
言葉を発することもできないほど驚いている河口さんたちは、今だソファに座ったままの俺に視線を向けた。
「あ、あの五十嵐さん、彼らはどうするんですか?」
「こいつらの処遇は、シルフィラさんにお任せします。
それと、第八階層からエルフを追い出します。
さらに、第八階層への道を七階層と九階層からの階段のみとします」
「マスター、追い出したエルフ達はどこへ?」
「第一階層のエルフ村に出現させる予定です。
まあ一応、第八階層のエルフ達に知らせはしますが……」
「聞く耳を持ちますかねぇ……」
「すぐに、現実だと分かりますよ。
この裁定でどうでしょうか? シルフィラさん。後は、エルフ種族代表のあなたの仕事だと考えますが……」
俺のやり方に、ミアとソフィアが少し甘いと思ったようだがダンジョンマスターの俺が処断するわけにはいかないからな。
このダンジョンには、種族ごとに代表がいるし法だって存在する。
直接、俺に手を出したわけでもないしこんなものでしょう。
「ありがとうございます! 必ずエルフの意識を変えて見せます!」
「よろしくお願いしますね。
それと河口さん、ここでは重婚が認められています。ダンジョン都市で結婚するなら、役所に届け出るだけで認めてもらえますから」
「あ、は、はい、ありがとうございます」
これで、フィーリカさんの件も大丈夫だ。
河口さんと一緒にいたいなら、フィーリカさんと再びパーティーを組むはずだし、後々には結婚もするだろうし。
妹のエーリカさんはどうするのか分からないけど……。
「ミア、こいつらの拘束を手足と口に切り替えてシルフィラさんに渡してあげて」
「お任せください、マスター」
こうして、フィランドたちの愚行は鎮圧された。
もちろん、断罪はこれからである。
そして、エルフの町に襲いかかる絶望もこれからだ。
しばらく第八階層は封鎖するとしても、いずれはエルフに解放しないといけない。
何か対策を考えるか……。
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