第72話 見下す者
「初めまして、河口さん」
「ど、どうして俺の名前を……」
エルフ種族の代表であるシルフィラさんに連れてこられた日本人、河口卓二さんと河口さんが購入した奴隷のミリアさんとノービスさん。それに、元奴隷だったフィーリカさんに妹のエーリカさんか。
「『鑑定魔法』ですよ、河口さん。
この眼鏡を掛けると、鑑定魔法が使えるんです」
「ま、魔道具! しかも鑑定の魔道具なんて高級品を……」
急遽、俺のアイテムボックスから取り出しておいた鑑定眼鏡を見せると、河口さんはかなり驚いていた。
たぶん、鑑定眼鏡を手に入れようと思って値段を確認したことがあったんだろうな。
「ま、まあまあ、とりあえずみなさん、座ってください。
ニーナ、みなさんにお茶を用意してもらえますか?」
「はい、畏まりました」
メイドのニーナさんが一礼して、部屋の隅に用意してあったキッチンで全員分のお茶を用意し始めた。
そして、河口さんたちが空いている俺の横のソファに座るが、ミリアさんとノービスさんは河口さんの座った後ろで立ったままだ。
奴隷と一緒に座ることは、できないということなのだろうか?
「さて、まずは自己紹介と行きましょうか。
私は、エルフという種族の代表を務めておりますシルフィアです。
そして、お茶の用意をしているのが私の専属のメイド、ニーナです。
彼女は、奴隷ではありません。私の身の回りの世話をしてもらうために、私が雇ったものです」
河口さんは、ニーナさんが奴隷ではないことに安堵の表情を浮かべた。
まあ、日本人だしな。奴隷にどこか違和感を持っているのだろう。
俺が河口さんを見ていたためか、俺の視線に気づいて自己紹介を始めた。
「わ、私は冒険者をしています河口卓二といいます。
後ろの二人は、私の仲間で猫獣人のミリアと魔族のノービスです。
それと、そちらに座っているエルフのフィーリカも私の仲間です」
河口さんから紹介されると、ミリア、ノービス、フィーリカの三人は笑顔で答えた。
信頼されているというより、恋人たちって感じだな。
ただ、エーリカさんは呆れているみたいだが……。
「あ、私はフィーリカ姉さんの妹でエーリカといいます。
よろしくお願いします」
そして、自己紹介をした全員の視線が俺に突き刺さる。
「最後は私から、私の名はミアと申します。
隣のソフィアとともに、こちらに座る五十嵐颯太様の秘書兼巫女をしております」
「ソフィアです、よろしくお願いしますね」
二人の自己紹介が終わり、俺が口を開く。
「初めまして、河口さん。
俺は五十嵐颯太、このダンジョンのマスターをしている。
ファンタジーダンジョンパークのご利用、ありがとうございます」
俺は笑顔で、河口さんにお礼を言った。
すると、河口さんはすぐに驚いた表情をした。
「え、ええ?! もしかして五十嵐さんは、このダンジョンパークの……」
「そうです、総支配人、総責任者、創造主、そんなふうに考えていただければ大丈夫ですよ」
「ええぇぇ…」
驚きすぎじゃないか? 河口さん。
「さて、ミア様。
ミア様が仰っていたエルフの問題が、私にもようやく理解できました。
兵士でも、あのような偏見を持っているとなるとすでにエルフの町は……」
「危険な状態でしょうね。
偏った教育は、すでに進められていて、その教育で育った者たちが町の行政を担うことになるとどうなるか……」
「それは、自分の首を自分で絞める行為です。
エルフだけでは生きていくことはできません。それに、海エルフを劣等エルフなどと……」
エルフの種族で海エルフと山エルフに大した違いはない。
肌が日に焼けているかどうかの問題だ。
それで、あの言いようだと山エルフが海エルフを奴隷にしそうな気がしてきた。
とその時、部屋の外が騒がしくなった。
ここがどこなのかミアに聞いたところ、中央の町にある行政を司る建物の一室なのだとか。
なら、会議室の一つということか。
で、外の騒動は職員と誰かがもめているみたいだな。
『困ります! シルフィアさまは来客中です!』
『構わんだろう! 来客が誰であろうと、私の邪魔をするものではないわ!!』
『キャッ!』
ドカン! と、大きな音とともに部屋の扉が開いた。
そして、身分の高そうなエルフと河口さんたちに襲いかかろうとしていた、エルフの兵士が三人部屋の中に入ってきた。
身分の高そうなエルフが、部屋の中を見渡し俺たちを見つける。
その中に、探していたフィーリカを見つけ顔がにやける。
さらに、エルフ種族の代表のシルフィアさんを見つけて近づいてきた。
「フィーリカ! 迎えに来てやったぞ!
それと、シルフィア! 劣等エルフのお前が、種族代表をやっているのはたまたまだ!
粋がるんじゃない! まったく、これだから劣等種は……」
「無礼なのはあなたです! フィランド!」
「私を呼び捨てにするな! 私は次期ウルーフス家の当主だ!
劣等種どもが呼び捨てにすることを、許したことはないはずだぞ!」
シルフィアさんに見下すような視線を向けていると、フィランドは俺の後ろに立っているミアとソフィアを発見した。
そして、二人の美しさに目を奪われた。
「……美しいお二人、名を名乗ることを許す。私に名乗って見よ」
「フィランド! あなたは何て口の利き方を!」
「黙れ劣等種!! 私は、そちらの二人の名を聞いているのだ」
名前、聞いていたか?
滅茶苦茶なエルフだ。それに、ものすごい上から目線でシルフィアさんをエルフ種族の代表と認めていないな。
「さあ、美しい二人の名前を教えてくれ」
「……」
「……」
ミアとソフィアが、フィランドに対して名前を教えたくないようだ。
何も言わずに、俺の肩に手を置いてフィランドを睨んでいた。
二人に睨まれ、少し怯んだ様子のフィランドだったがミアとソフィアの手が、俺の方に置かれているのを見てようやく俺の存在を視界に入れたようだ。
そして、見下した視線で俺を下から上へと見定める。
そして、フッと馬鹿にした笑みをして、自身の後ろにいる兵士たちに視線を移した。
すると、兵士たちはフィランドの視線を理解したのか、返事をすると前に出てきた。
「ハッ! 下等生物の人間、きさまの後ろの見目麗しい女性たちを解放せよ!
これは、至高のエルフ貴族、フィランド・ウルーフス様のご命令だ!
逆らうことなど許されないぞ!!」
そう言って腰の剣を抜き、剣先を俺に向けてきた……。
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