第67話 イベントをやる?
宿泊研修の事件は、逮捕者が出たことで一応の解決となった。
もちろん、被害者たちの心のケアや被害補償など問題はまだまだあるが、俺たちが関われるのはここまでだ。
ダンジョンで起きた事件なら、呪いをかけて警察へということなのだが、今回はダンジョンの外で起きたことだったので呪いをかけることができなかった。
みんながみんな、納得のいく解決ではなかったがここまでだ。
「ところで颯太」
「ん?」
「ダンジョンパークで、クリスマスなどのイベントってしないのか?」
「……そういえば、イベントとかしたことなかったな」
「そういえば、そうね」
ファンタジーダンジョンパーク開園から今まで、イベントを企画、開催したことはなかった。本来のアミューズメントパークであれば、何かしらのイベントを企画、開催して集客を考えるのだが、このダンジョンパークでは企画すら出なかった。
おそらく、ダンジョン内に住む人々が地球とは違う異世界の住人だからだろう。
「でも、どんなイベントをするんだ?」
「これからを考えれば、クリスマスイベントだろう。
ハロウィンはすでに過ぎているし、世の中はクリスマスの準備を始めているだろ?」
クリスマス、か?
異世界人たちに、クリスマスのイベントが通じるのか?
「ダンジョンパークで、クリスマスか?
最初の町で開催しても、住人には何のことか分からないと思うぞ」
「……やっぱり、世界観の違いか?」
「地球の歴史は知らないし、小さいころからの経験もないからな。
開催しても、理解してくれるのは遊びに来ている地球人だけだな」
「そうか~」
最初の町に住む人の中で、日本からの移住者は千人もいない。
だが、最初の町以外となると約一万人ほどが移住してきている。
それは、ダンジョンや冒険者ギルドなどで稼いだお金が、日本円への換金が可能だからだ。ダンジョンパークで稼ぎ、日本円へ換金して日本へ出かける。
そんな人が、ここ最近多くなっているのだ。
「それなら、ダンジョンパーク独自のイベントとか考えてみないか?」
「ん~、そもそもダンジョンパークにイベントが必要なのか?」
「必要だろ? たくさんお客さんに来てもらいたいだろ?」
そう、そこなのだ。
実を言えば、ファンタジーダンジョンパークへ大勢のお客を呼ぶ必要性はあまりない。ダンジョンパーク内は、遊びに来たお客さんでもっているわけではないからだ。
「ダンジョンマスターとしては、あまり必要性を感じないんだよな……」
「えぇ~」
「……確かに、颯太の言う通りかもね」
「凛まで……。でも、客が来ないと儲からないだろ?」
「いやいや、そもそも来たお客のお金なんて当てにしてないぞ?
ダンジョンマスターの俺は、ダンジョンの能力で鉱石など作ることできるから金を生成してダンジョンの外で売ればお金になるし、日本以外で売れば外貨獲得になる。
さらに、ダンジョン内で作っている野菜や肉なども販売するから、ダンジョンの外との貿易もできるから困ることはないんだよ」
「ダンジョンの外との貿易って、おやじたちもうそんな企画を始めているのか?」
「昨日、大手のお菓子メーカーと話を進めていたぞ?
何でも、ジャガイモが美味しかったからダンジョン内に工場ができないか、とか」
「マジか~」
ダンジョンパークが開園してから二か月ほどで、外の大手コンビニ企業と手を組んで食材の貿易を始めていた。
最初の町に、コンビニをオープンさせる時に工場をどうするかで話し合ったんだとか。そこで話題になったのが、ダンジョン内の町で流通している食材だ。
ダンジョンの外で作られた食材より美味しかったことが、だいぶショックだったらしくてその企業が流通させていた食材を、すべてダンジョン産に入れ替えたほどだ。
それからは、いろいろな企業が参入するたびにダンジョン産の食材に驚き、そして入れ替えが起きていた。
そんなわけで、現在の世界で起きている食糧事情で日本だけは国内産の食材の大半が輸出用に回され、国内で流通する食材の大半がダンジョン産に入れ替わっていた。
「そういえば、最近飯が美味しくなったのはダンジョン産に変わっていたからなのか。
というか、大丈夫なのか? ダンジョンの生産量は?!」
「それは心配ない。
ダンジョンで栽培している階層の広さが、北海道が丸々入る広さだからな。
それに収穫時期も、通常の野菜より早いしまだまだ余裕があるよ」
「すげぇな、ダンジョン。
……でも、なるほどな。それなら、外との貿易ですでに国家レベルなのか」
「ダンジョンの各階層、同じような広さだから困ることは人手不足くらいだな」
父さんたちも、人手が足りないと愚痴っていたな。
一応、人手不足を補うために人型ゴーレムを導入しているが、解決策となっていないらしい。
「……でもよ、そんなに儲かっているなら何で、俺のお小遣いは値上げされないんだ?」
「陸斗、お小遣い貰ってるのか」
「颯太は違うのか?」
「俺は、ダンジョンマスターだから自由になるお金が多いんだよ」
「羨ましい!!」
▽ ▽ ▽
Side 河口卓二
「え? 結婚?!」
いつものように、ダンジョンに潜るために冒険者ギルドへ申請に行くと、エルフのフィーリカからの手紙が届いていた。
それを受け取り、ダンジョン探索を中止し宿で猫獣人のミリルと魔族のノービスと一緒に手紙を読んだ。
すると、結婚するから行けなくなりましたとだけ書かれていた。
フィーリカにしては、短すぎる手紙に違和感を感じたのは俺だけではなかったようだ。
「フィーリカが結婚? 本当でしょうか?」
「ご主人様と、仲が良かったフィーリカが結婚なんておかしいよ!」
「ん~、それにこの文字、フィーリカの字じゃないみたいなんだよな……」
代筆ということもあるだろうが、フィーリカは真面目な女性だった。
断るにしても、誰かに代筆させるなんてことはないと思う。
「もしかして、何かあったのでしょうか?」
「冒険者ギルドでも、エルフに関する情報は入りにくくなっているらしい」
「それって、どういうことなの?」
「何でも、エルフの町が街道を封鎖していて、手前の村までしか行けなくなっているらしい。さらに、そのエルフの村も砦が作られて外部からの侵入を拒んでいるとか」
今まで、エルフは奴隷狩りの対象だったらしく種族保護のため通行などを遮断したのだとか。
ただ、ギルド経由で情報交換はしているらしいが……。
「ご主人様! 迎えに行きましょう!」
「え? フィーリカを?」
「そうです! 私たちもお供しますから行きましょう!
フィーリカが、自分の意志でご主人様を拒絶するはずがありません」
……もし、フィーリカが困っているなら力になりたい。
「よし! フィーリカを迎えに行こう!!」
「「はい!」」
俺たちは、すぐに準備をしてエルフの村を目指して出発した。
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