第68話 束縛と問題



Side エーリカ


「ハァ! ハァ! ハァ!」


今、私たちは走っている。

後ろから、村にいたあいつの手下の兵士が追ってきているかもしれないと思うと、一刻も早く中央の町へ急ごうと走ってしまう。


隣を走る姉のフィーリカは、十日前に奴隷から解放されて私の元へ帰ってきてくれた。

中央の町の冒険者ギルドから知らせが来て、今か今かと村の入り口で待っていたところに姉のフィーリカが、冒険者二人を連れて帰ってきたのだ。


私はうれしくて、姉に飛びついた。

そして、お互い泣きながら再会を喜んだのだ。


それが、今はあいつから逃げるため走っている……。

あいつ、姉フィーリカの婚約者を名乗るフィランド・ウルーフス。

エルフの貴族で、ウルーフス家の次男。


だが、その正体は姉を奴隷に落とした張本人。



姉フィーリカとフィランドが出会ったのは、姉が冒険者として登録したばかりの頃。

エルフが冒険者をするのは珍しく、また、魔法や精霊魔法が得意なエルフは、その見目麗しい姿も相まってパーティー勧誘が殺到する。


姉フィーリカも、他のエルフと同じようにパーティー勧誘が殺到したそうだ。

だが、そこへ助け舟を出したものが現れた。

それが、当時冒険者として高ランクで名をはせていたフィランドだ。


エルフはエルフを助けるため、フィランドは姉を自身のパーティーに誘い安心させた。

だが、それが罠だったのだ。


姉フィーリカの美しさは、エルフの中でも上位に位置するらしくフィランドはすぐに一目ぼれし、フィーリカに交際を申し込んだのだ。

姉フィーリカも、やさしく高貴なフィランドにひかれていたところがあり、すぐに了承して交際することに。


だが、フィランドと交際してすぐに奴の正体が判明する。

奴は、今までの交際相手を奴隷落ちさせ自分の屋敷に拘束していたのだ。

奴の屋敷に拘束されていた女性は、種族問わず十五人の女性が捕らえられていた。


捕らえられていた女性の中には、すでに精神に異常を期していた女性もいて異常ともいえる束縛男だった。


姉はこの状況を、ギルドへ通告しようとしていたがその前に闇ギルドの連中によって攫われ違法奴隷に落とされてしまった。

その後、ダンジョン内の最初の町の奴隷商に売られフィランドによって購入予約される。


奴隷の購入予約は、予約金を奴隷商に払うことでフィランド意外に売らないようにすることだ。

こうしてフィランドは、余裕をもって購入しようとしたがそこでエルフの種族としての事情が購入を阻む。


それが、エルフの長老たちが起こした引きこもり政策だ。

精霊の大木を中心に精霊の森が広がる、ダンジョンの第八階層への転移街道を封鎖し第一階層にあるエルフの村からも通行できなくしてしまった。


さらに、エルフの村に砦を築き第八階層への街道を監視するようになった。

エルフの村の中も、兵士を配置し他の種族から敵対するような動きをしていた。


これも、エルフが奴隷として高額で取引されていることを憂いた結果なのだが、他の種族からすればやりすぎであるのは間違いない。


だが、その封鎖が姉フィーリカには幸運をもたらし、河内卓二という人に買われることになった。

姉フィーリカは、河口さんのことを本当の恋人のように教えてくれた。

奴隷として買われてからどうなって今に至るか、それを教えてくれるのだが私からすれば、ただのろけ話を聞かされているに過ぎない。


でも、本当にその人のことが好きなんだと分かった。

フィランドの正体に気づいてからは、日に日に表情が無くなっていった姉を思い出せば、その河口卓二という人族との生活が、どれほど楽しいのかが分かる。



「エーリカ! 中央の町の城壁が見えるわ!」

「私も見えた! もう少しよ姉さん!」


走りながら、いつの間にか回想していた私は姉の声で現実に戻された。

ここまで、何度も後ろを気にしながら休憩をはさんで走って来たが、ようやく目的の町に着いた。


後は、冒険者ギルドへ知らせて保護してもらい、河内卓二という人に姉を守ってもらうことができれば……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


陸斗から、クリスマスのイベントを考えないか? という意見をもらったが、ダンジョン内の住人でクリスマスを楽しめるのか分からないため保留とした。


ダンジョン企画の父さんたちにも話して、意見を聞いてみよう。

特に、ミアたちの意見の方が参考になるかな……。

そんなことを考えていると、ダンジョンの管理をしているミアから俺のスマホに連絡が来た。


「はい、颯太です」

『マスター、今日の放課後マスタールームまでお越しください。

どうしても私たちでは、解決できない問題が発生しました」


ミアたちでも解決できないなんて、珍しい。

そう思いつつ、俺はミアのお願いを了承する。


「了解、放課後そっちに向かうよ」

『はい、お待ちしております』


そこで通話が切れた。

その様子を見ていた凛が、声をかけてくる。


「誰からの連絡?」

「ミアからだよ。何でもミアたちでは解決できない問題が発生したとかで、放課後寄ってくれって」

「ミアさんたちで解決できないなんて、ものすごく珍しいんじゃない?」

「確かに珍しい。ん~、どんな問題だろうか……」


少し考えてみるが、思いつかない。

まあ、放課後ミアから教えてもらえるかと軽く考えていた。








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