第66話 協力者



「ハァ~、結局キャンプ中止になったな……」

「あんな事件があったんじゃ、しょうがないって」


宿泊研修というキャンプが中止になった。

朝、あんな事件があり警察やら救急車やらが来て、俺たちは荷物まとめてバスに乗せられ学校へ帰ったあと解散となった。


再び宿泊研修を行うかどうかは職員会議で決めるというが、おそらくこのまま中止で終わりだろう。

それにしても、キャンプのテントで強姦未遂事件を起こすとは……。



「颯太! 颯太!」


何度も俺を呼びながら、陸斗が教室に入ってきた。

こういう時の陸斗は、何かすごい情報を仕入れてきたときだ。


「どうしたんだ? 陸斗」

「この間のキャンプの時の事件で、すごい情報を聞いてきた!」


ほらな? 一体陸斗の奴はどこで情報を仕入れているのか知らないが、聞かないという選択肢はないだろう。

いつの間にか、暇なクラスメイト達も俺と凛の周りに集まってきていた。


「それで、どんな情報を仕入れてきたんだ?」

「キャンプ場の事件で、テントの中にいた女子生徒のことだ!」

「確か、手足を拘束されていた女子のことだよね?」

「そうそう。それと口も猿轡で塞がれていて、下着姿だったらしい」

「「「ほぉ~」」」


俺が陸斗に聞くと、予想通りキャンプでの情報だった。

凛が、テントに拘束されていた女子たちのことを聞くと陸斗がそれを補足し、俺たち男子が想像をして女子たちに睨まれた。


「そ、それで、その女子のどんな情報なんだ?」

「それがさ、そのテントの中に拘束されていた女子が七人いるんだけど、そのうちの六人が女子高の生徒だったって話だ」

「えぇ?! どこの女子高の?」

「キャンプ場近くにある、保清女子だ」


女子たちの睨みにたじろぎながらも、陸斗に聞くと他の女子高の生徒がいたとか。

凛たちは驚いて、どこの女子高の生徒か聞いていた。


「……ねぇ、どうなっているの?

事件の全体像が見えないんだけど……」

「なあ、最初にキャンプで夜這い事件の計画を立てたのは誰だ?」

「それは、一組の富樫って男だ。

そいつが、友達と一緒に都市伝説となっているテントの女子に夜這いするっていう話を持ち出したそうだ。

そこで、悪乗りした友達たちが参加して計画が出来上がった」


佐々原が、事件の全体が見えなくなったとかで陸斗が調べてきた事件の始まりを話し始めた。

陸斗の奴、警察に協力者でもいるのか?



「ただ、思った以上に悪乗りが拡散して参加人数が多かったんだ。

そこで普通は、計画中止となるはずだったんだけど富樫にはあるコネがあった」

「コネ?」

「そう、コネ。それも、風俗関連のコネがね」

『何それ! 高校生で風俗にコネって、そいつ大丈夫か?』


恭太郎が、陸斗にその富樫という男子に対して引いている。

俺は、その風俗関係へのコネが気になっていた。


「富樫に関してはもうだめだな。昨日の職員会議で、退学が決まったらしいし」

「退学? その富樫だけ? 他の参加した男子は?」

「参加した、計画を知っていたものが停学、計画を知らなかったものが反省文と厳重注意だったな」

「何それ、軽すぎない?」


清水の機嫌が悪い。

おそらく、参加した男子生徒の処分に納得がいかないのだろう。


「軽いかどうかは、俺には分からないが学校は来にくくなるだろうな。

……で、風俗の関係のコネというのが、富樫の兄が風俗店のオーナーをしているってやつだ。そのおかげかどうかは知らないが、そのコネのせいで近くの女子高から女子生徒が調達されたらしい」

「ちょ、調達?! 女性を何だと思っているのよ!」


ついに清水が、陸斗に掴みかかり怒鳴った。

だが、陸斗は情報を提供しているだけで計画者でも参加者でもない。

そのため、周りの女子が清水さんを宥めている。



「し、清水さん、大内に怒ってもしょうがないでしょ?」

「渚の怒っていること、私たちも同じだから。

でも、大内に怒るのは違うよ」


陸斗から清水を放し、女子たちが清水を落ち着かせている。

また掴まれた陸斗は、首を抑えてせき込んでいた。


「ゴホッ、ゲホッ……」

「大丈夫か? 陸斗」

「だ、大丈夫じゃ、ない……」

「そ、それで、富樫の兄貴がこの計画に参加してきたのか?」


少し苦しがっていた陸斗の気をそらすため、話を進める。


「あ、ああ。富樫は兄に計画のことを相談してたらしくてな、男子は集まりがいいのに女子が集まらないとかで中止にするとか言ったらしい。

そうしたら、女の方は任せておけと兄に言われて計画を進めたんだとか」


なるほど、その富樫の兄が裏でいろいろやってしまったってところか。

女子生徒の確保や、テントに女子生徒を置いておくことなんかを……。


「……ん? ということは、その富樫兄がテントに女子を下着姿で、しかも手足を拘束して置いたってことだよな。

なら、キャンプ場に運んだ仲間とともに来ていたってことになるんじゃ……」

「なあ颯太、部外者を見たか?」

「……いや、見なかったな」


例の防衛用の魔道具を設置するときも、トイレとかで管理棟に行った時も関係者以外見かけなかった。

気配だって、キャンプ場に来た時のままの気配だったし……。


その時、スマホでテレビを確認していた祐樹が声をかけてきた。


「お、おい! 例のキャンプ場の件で逮捕者が出たぞ!」

「な、何!!」


俺たちは、祐樹の見ていたスマホをのぞき込んだり、自分のスマホでテレビを確認する。

すると、確かに逮捕者が出たとニュースで流れていた。


『先週、このキャンプ場で起きた強姦未遂事件で、近くの風俗店店主富樫孝蔵二十五歳を暴行未遂など複数の罪で逮捕しました。

また、富樫の店で働いていた三人の店員も同じ暴行の罪で逮捕されました。

この件について、文科省の……』


……よく考えたら、これってレイプ未遂事件なんだな。

テントの中に連れてこられた女子生徒は、参加したくていたわけではなく攫われてテントの中にいたみたいだし……。







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