第65話 朝の騒ぎと謎



テントで就寝した次の日の朝、何事もなく平和な朝を迎えられたことに感謝し、昨日仕掛けておいた魔道具の木箱を回収に向かった。


途中、複数の教師や生徒、警察官に救急隊員が騒いでいる区画があったが、何かあったのだろうか?

……まあ、陸斗辺りが何があったか情報を仕入れてくるだろう。



キャンプ場を移動するときに使う街道を少し外れ、森の中に移動すること一分ほどで目的の魔道具の木箱を仕掛けた場所に到着する。


俺はすぐに、木箱の蓋に付けてある魔石を確認した。


「フム、魔力が無くなっている。

ということは、昨日の夜から朝までちゃんと動いていたってことだな」


動いていたかを確認した後、魔道具の木箱を俺のアイテムボックスの中へ収納する。

これで、陸斗が言っていた襲撃がどうのという事件が起きることはないだろう。


そんなことを考えながら、俺は自分たちの班のテントに帰っていく。


「あいつら、とうとうやっちまったのか……」

「犯罪者になるとは……」


再び騒いでいる区画を通った時、集まっていた野次馬の生徒たちから何やら物騒な話が聞こえる。

みんな、小声で言っているのだろうが他の人にも聞こえているぞ……。


「ねぇ、加藤君も倒れていたって?」

「ああ、テントの前で他の男子生徒と折り重なるようにな……」

「減滅~」

「あの加藤がな……。あいつ、彼女いただろ?」

「あの彼女で満足できないとは……、あいつどんだけ性欲強いんだよ……」


何やら、加藤とかいう男子のことを話しているようだな……。

……でも彼女のいる加藤って、六組の加藤だろ?

バスケ部の期待のエースとか、次期主将とか言われている奴だったはず……。


女子の人気もあったのに、こんな噂が出るとはな……。


大勢集まり始めた野次馬を避けながら、俺は自分たちのテントのある区画へ戻ってきた。


「ただいま~」

「長いトイレだったな~」


朝起きて、すぐにトイレと言ってテントを離れたけど、悟の奴がニヤニヤしながら俺を揶揄ってくる。

だが、今回は遅くなった原因を用意してある。


「時間がかかったのは、別の理由だよ」

「何かあったのか?」

「そうれがさ恭太郎、野次馬がたくさん集まっている区画があったんだよ」

「野次馬? ということは、陸斗の情報待ちか」

「ああ、だから今のうちにテント畳もうぜ~」

「だな~」


俺と悟と恭太郎は、張ってあるテントを片付け始めた。

まだ凛たち女子は寝ているみたいなので、俺たちの使ったテントだけを片付けた。


そこへ、陸斗が走って帰ってくる。

どうやら、俺たちの予想通り情報を収集してきたみたいだ。


「大変だ! 大変だ!」

「野次馬の理由が分かったのか?」

「……何だよ颯太、よく分かったな」

「あれだけ集まってたらな。

で、野次馬の理由は何だったんだ?」


俺たちの話声が五月蠅かったのか、凛たちのテントから女子が起きてきた。

凛も佐々原も清水も、すっぴんではあったが寝ぼけてはいなかった。


「うるさいよ~」

「男子は、朝から元気ねぇ~」

「おはよう、颯太。どうしたの? 騒がしいけど」

「凛、おはよう。陸斗が、その情報を持ってきたんだよ」

「情報?」


凛たち女子も、陸斗を見ると話し始めた。


「ああ、このキャンプ場の端にある区画で、木が邪魔で隠れるような区画があるんだが、そこで大変なことがあったんだ」


陸斗の話した情報はこうだ。


今朝、空が明るくなってきた頃、自分の班の男子生徒が一晩中帰ってこないと担任の教師と一緒に捜索したところ、隠れるような区画のテントの前で倒れているのを発見した。


また、他にも倒れていた男子生徒を発見し教師は他の教師を携帯で呼び出し大騒ぎとなった。

また、男子生徒たちの他にテントの中にいた手足を縛られ、下着姿の女子生徒たちを発見しさらに大騒ぎとなった。


倒れていた男子生徒たちのために呼ばれた救急車だったが、すぐに拘束されていた女子生徒たちのために使われた。

さらにさらに、警察も呼ばれる事態となりあの野次馬の多さとなったのだ。


「……そんなことがあったの」

「その女子生徒、かわいそう……」

「拘束されていたってことは、準備した人がいるってことよね?」

「そう、そのことで警察が来て騒いでいたんだよ。

鑑識だっけ? そんな人たちが指紋とか、靴跡とかとっていたよ」


もはや事件だ。


「ねぇ、このままキャンプを続けるのかな?」

「たぶん、すぐに帰ることになるんじゃない? そんな事件があったのに、のんきに宿泊研修という名のキャンプを続けている場合じゃないでしょうし……」


「それで陸斗、男子生徒は何人いたんだ?」

「えっと、十一人だ」

「確かか?」

「倒れていた男子生徒が、十一人だから間違いないだろう」

「テントに拘束されていた、女子生徒は何人いたんだ?」

「えっと……、七人だ。

どの女子も、猿轡に手足を拘束されて下着姿でいたそうだ。

誰が、そんなことをしたんだろうな~」


本当に、誰がそんなことをしたのか……。

今回の俺が用意した魔道具は、その拘束されていた女子たちのために役立ってよかった。


でも、女子がテントに拘束されたのは、俺が魔道具を仕掛ける前ってことだよな。

夕食の後片付けが終わって、各班の代表が集まってイベントの話し合いがされていた頃、拘束されてテントに運ばれたことになる。


俺が魔道具を仕掛けたのは、話し合いが始まってしばらくしてからだ。

夕食の時は全員いただろうし、魔道具を仕掛けてからはテントに女子生徒を運び込もうものなら、虫に襲われて電撃くらって気絶し朝までコースだ。


う~ん、これは犯人は探し出せるのかな?

もしここがダンジョンなら、すぐに犯人が分かるんだけどな……。







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