第53話 懸念されたこと



Side ライアス・ブラント


冒険者ギルドのギルドマスターのいる執務室で、椅子に座ってダンジョン内で最近になって発行されている新聞を読む。

今のダンジョンの外の世界で作られたものを、ダンジョン内でも作って売り始めたらしい。まあ、便利といえば便利なものだ。


ただ、この新聞を購入しているのは主に商人らしいが……。


「失礼します。ギルドマスター、先週の収支の報告書です」

「ああ、机の上に置いておいてくれ。後で目を通しておく」

「はい。……また新聞ですか?」


ノックとともに、この執務室に入ってきたのはギルド職員をしてるアニーだ。

彼女は、俺の秘書も兼任してくれていた。


「すべての町の情報が載っているからな。

ついつい、購入して読んでしまうんだよ」

「……そういえば、最近増えてきましたよね。見回りの依頼を受ける人が」


今、アニーが話題にした街の見回りの依頼。

実は、ミア様からの依頼なのだ。三週間ほど前から、最初の町で住民の女性を襲う事件が多発していた。


最初の頃は、痴漢騒ぎか。

胸を揉まれただの、お尻を触られただの、キスを迫られたとかもあったが、そんな事件が多発した。

それをどこで聞きつけたのか、ミア様が冒険者ギルドにわざわざいらして依頼を出していかれた。


しかも、一回だけの依頼ではなく継続依頼として出されたのだ。

期間は二日間の最初の町の見回り、痴漢騒ぎの犯人や女性を襲おうとした犯人の捕縛。報酬は金貨二枚、という破格の値段がついた。


これには、いろんな冒険者が飛びつき見回りをしている。

しかも、どこから聞きつけてきたのか他の町の冒険者まで集まってきていた。


「報酬が良いからな。この町を二日見回るだけで、金貨二枚は破格だよ。

本当に、ミア様は何でこの依頼を出したのか……」

「ギルドマスター、知らないんですか? 昨日の強姦騒ぎ」

「強姦? どこで起きたんだ?」


「北門の近くにある道具屋『グロッフェル』です。

ポーションとか、生活雑貨なんかを扱っているお店ですよ。店員が、全員女性だったんで狙われたみたいですね」

「店員が女性だから狙われたって、北門近くだろ?

確か北門近くには、衛兵の詰所がなかったか?」


町を守る城壁に東西南北で門を作っているが、この最初の町はちょっと特殊で北と南にしか門は無い。

前は東と西にもあったが、中央の町ができてからは門は閉められ、今では壁となっている。


そこで、東と西にあった衛兵の詰所が北に集められていた。

だから、大所帯になっているから北門の近くで事件が起きることはなくなったんだが……。


「ありますよ。でも、襲われたのは店内で。

しかも、店員の女性を外に逃がさないように、犯人は十数人いたそうです」

「……多すぎないか? 店員三人だろ?」


「ギルドマスター、そこに引っかかってどうするんですか!

被害を受けた女性たちは、精神的にかなり落ち込んでいるんですよ?」

「す、すまない」


だが、三人の女性を数十人で襲ったって、俺には分からんな……。


「それで、その女性店員たちはどうやって助かったんだ?」

「例の依頼で見回っていた、魔法使いの冒険者が助けたそうです。

店の前を通って、おかしな人影を見たとかで店に近づいて確認して助けに入った、とか」


最近の店って、中が覗けるようにガラス張りが増えているからそのおかげということもあるのか。

そして、店の中の人影がおかしいか……。


「で、犯人はどこの連中だったんだ?」

「ギルドマスター、新聞に載ってないんですか? 結構大きな事件ですよ?

犯人は、外の人たちだったそうですよ」

「外? ダンジョンの外というと、異世界人たちの世界か。

魔素が無くて、魔法が使えない世界だったな」


今のダンジョンの外は、俺たちの世界ではなく異世界人たちの世界に繋がっている。ミア様たちダンジョンの巫女様たちが大切にされるダンジョンマスター様の故郷だとか。


「ええ、私は行ったことありませんがそうらしいですね」

「俺も行ったことねぇよ。しかし、何でまた外の連中がそんな事件起こすんだ?

意味が分からないんだが……」

「さぁ、私も分かりかねますね」


……そういえば、ミア様が懸念として何か言ってたな。

ダンジョンの外の世界には、俺たちの世界のことを題材にした書物が数多く出されていて、その中に種族を題材にしたエロい書物が人気だとか?


「確か、クッ殺だったか……?」

「何ですか? 何か言いましたかギルドマスター」

「いや、何でもない」

「そうですか? では、私は仕事に戻ります」

「おう、ご苦労さん」


アニーが執務室を出ると、静けさが戻る。

ギルドマスターの新聞をめくる音だけが、部屋に響いていた。




▽    ▽    ▽




Side ミア


「どうやら、私の懸念が現実のものになっているようですね……」

「珍しいね、ミアがそんな表情するなんて」

「エレノア、それはしょうがないって。

この、外の世界の連中がしでかしたことを考えれば……」


ハァ、日本から来た人たちがついに事件を起こしました。

しかも、最初の町での強姦騒ぎ。


「マスターのような紳士な男はいないのかしら?

ねぇ、ソフィア」

「エレノア。比べるまでもないでしょ、それは」


いつだったか、マスターの知識の中にあったラノベとかいう書物を読ませてもらったことがあった。

ファンタジー世界に転生や転移して、特別な能力を使っていろいろな体験をするものだ。

このファンタジーダンジョンパーク構想も、そこから来ているらしい。


だが、その書物にも書かれてあったが、必ず悪用するものは現れるそうだ。

ならば、ファンタジーダンジョンパーク構想にもそのことを入れて考えておかねばいけない。


マスターたちは、理解はしていたが実際起きるとは思ってなかったようだ。

昨日の事件が起きる前の、ちょくちょく起きていた痴漢騒ぎでも驚いていましたから……。


オープン式典時の事件から、対策は考えていましたが、こうして防ぐことができたのは良かったと思いたい。

一応、ダンジョンマスター権限を使ったダンジョン内検査でも、秘かに起きていなかったようで一安心です。


「それでミア、どう防ぐかが問題なんだよね?」

「そうです。この指輪のような魔道具を、ダンジョン内の女性すべてに貸し出すわけにもいかないですし……」

「それで、冒険者に見回りの依頼を?」


「マスターの許可は取ってあります。

いくらかかっても構わないから、犠牲者を出さないようにと」


ですが、これから来園者は増えると思われます。

それに、奴隷たちや娼館などでの問題も起きています。来園者の問題行動は、いずれ最初の町以外でも起きていくでしょう。


その時、どう取り締まればいいのか……。







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