第49話 暮らせる場所
Side 宮近瀬里奈
「ミア様、到着しました」
私たちが乗ってきたゴーレム馬車が止まり、ドアが開けられてから運転手をしていたセリカという女性が目的地へ着いたことを知らせてくれた。
私たちは、ゴーレム馬車を降りると、目の前に大きな立派な門が鎮座している。
「ミアさん、これは?」
「これが、旧貴族街を隔離している門になります。
この門を抜ければ、避難民たちを受け入れるための町になります」
「へぇ~」
なかなか立派な門で、ところどころ彫刻が施されていて芸術的だ。
天使の門だの天国への門だの言われても、納得してしまうほどだ。
「さぁ、こちらへどうぞ」
そう促されて、私は門を眺めながら潜っていく。
その時、ゴーレム馬車の後ろから男が声をかけてきた。
「すまないが、ミアさんとエレノアさんでしょうか?」
私は、声をかけてきた男を見て、イケメンばかりを集めたタレント事務所のイケメンタレントがそこにいると思った。
それほど、彼はカッコイイ容姿をしていた。
「そうですが、何か?」
「俺のために、時間を作ってもらえませんか? 少しでいいのです」
そう言うと、イケメンがカッコつけて右手を出し誘っている。
私が見ても、ミアさんを誘うようなイケメンスマイルをしていた。
「私は現在仕事中です。あなたのために時間を取ることはできません」
「……そうですか。では、エレノアさんはどうですか?
俺のために、時間を作ってもらえませんか?」
「私も仕事中です。あなたのために時間を作るわけにはいきません」
そうきっぱりと断られ、イケメンスマイルが少し引きつっているみたいだった。
そして、私に視線を向けるととんでもないことを言い出す。
「そこの君、すまないが俺のためにミアさんかエレノアさんを解放してくれないか?
仕事のことならどちらかがいれば十分だろう? ん?」
「……」
私は、何も言えなかった。
このイケメンは、頭がおかしいイケメンだったのだ。
「宮近様、行きましょうか。
この門を潜った先ですので、ご案内いたします」
「よ、よろしくお願いします」
そう話を戻し、私たちは門を潜っていく。
すると、イケメンが大声で叫び出した。
「な、何故だ! 俺のようなイケメンに声を掛けられたら、イケメンの言うことを聞くはずだろう!
そんな仕事なんか放り出して、俺の側に来たくはないのか!!」
私は、可愛そうなものを見る目で振り返って見たが、ミアさんとエレノアさんは無視していた。
「ミア! エレノア! 君たちは、俺のようなイケメンのものになるべきだろう!
俺のようなイケメンでないと、君たちを幸せになどできないぞ!
さぁ! 俺の元へ来るんだ!!」
イケメンが喚いている。
いや、あれはイケメンというより、ナルシストだな。
自信がイケメンだということを自覚して、ミアさんとエレノアさんを手に入れようとしているんだ。
肝心のミアさんとエレノアさんは、振り返ることなく私と門を潜り元貴族街へと入った。まだ、後方から声が聞こえるが目の前の光景に私は心を奪われていた。
門を潜った直ぐの場所は、大きくてきれいな噴水があり、その向こうにヨーロッパの街並みが広がっていた。
それも、中世の頃のまさにファンタジー世界の街並みだ。
建物も、新しく建てたもののようで新品だった。
また、花壇や柵などの備品も新品だし、何より地面が石畳で道路がしっかりしている。
これなら、馬車で通ることも可能だろう。
「こ、これは……」
「ブルサース国の街並みを調べて、こちらで建てておきました。
あの門は開けたままにしておきますので、町への買い物も問題ないと思われます」
「ここに建っていた貴族用の屋敷を取り壊して、避難民の人たちが住める住宅を建てておきましたので気兼ねなく暮らしていけると思います。
また、自身で作物を育てたい場合は、相談してもらえれば場所を提供させてもらいます。いかがですか?」
私は、言葉もなくじっと眺めて観察した。
こんな建物を、ここまで用意できるなんて……。もしかして、最初から避難民を受け入れる気だった、とか?
いや、日本の避難民の受け入れは急遽決まったこと。
それから、場所の確保や建物を建てるなど時間がなさすぎる。
一体、ここは何なのだろうか……。
「いかがですか? 宮近様。
避難民の方々は、ご満足いただけるでしょうか?」
「もちろんです、ミアさん。このような場所を用意していただけるなんて、日本政府を代表してお礼申し上げます!」
私は一礼し、お礼を言った。
避難民の場所は確保した。後は、避難民の受け入れから移動の手配だ。
後は、ここでの仕事だけど、それは私たちで考えましょう。
この後、ミアさんやエレノアさんと少し話してファンタジーダンジョンパークを出た。
旧貴族街の門を出たところで、例のイケメンがいて何事もなく声をかけてきたが、どんな言葉も空回りで見ていられなかった。
さらに、無視され続けたことでイケメンが怒ってミアさんに手を出しそうになったが、軽くあしらわれ地面に倒されて放置された。
『どこにでも、勘違いのバカは湧きますから』
『どうしようも無いのよね~』
と、帰りの馬車の中で言われていた。
本当にこのまま、放置していいのか心配だ……。
▽ ▽ ▽
Side とある男
「許せない! 何をするもカッコイイ俺が、こんな扱いを受けるとは!
見ていろ、ミア! エレノア! 必ず俺の腕の中でヒィヒィ言わせてやるからな!!」
俺は、雄々しくそそり立つ下半身を鏡越しに確認しながら、ミアとエレノアの姿を想像していた。
俺のようなイケメンには、あのような完璧な美人がふさわしい。
いや、あのような美人こそ、俺の側にいなければならないのだ!
「フフフ、待っていろミア! エレノア! ソフィア!
俺のことしか、考えられないようにしてやるぞ!」
机の上に置かれている黒いケースの中に、三本の注射器が光る。
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