第47話 元貴族街の利用



外務省の千堂が、ダンジョン企画の都内にある事務所に訪ねてきたその日の夕食後、父さんが話があるとのことでダイニングテーブルをはさんで話し合いをすることになった。


「実はな、今日外務省の役人が事務所を訪ねてきた」

「外務省? 法務省の人間が訪ねてくるならわかるけど、外務省に何の関係が?」

「最近ニュースでよく取り上げられる、避難民のことだ」


「それって、アフリカのどこかの国から避難してきた人たちのことだろ?

確か、昔交流があったとかで日本を頼ってきたとか」

「そうだ。それと、ブルサース国な。

避難民は総勢二百五十人だ。ファンタジーダンジョンパークの町に移住できないか打診されたんだ」


ここ最近、FDPの町への移住が増えていた。

最初の町で生活して、リモートで仕事をする人や、FDPで仕事を探し、移住する人や、ガッツリ冒険者として仕事をして移住する人などなど。


さらに、ネットなどができる最初の町で動画配信などで生活し始めた人も出てきていた。町の中には、現実世界には無いものがたくさんあるからな。

その中で回復魔法や治癒魔法、それにポーションなどを紹介し病気や傷が治る動画を載せて再生回数を稼いでいる奴がいた。


そのため、今、ダンジョン企画や日本政府に問い合わせの連絡が膨大な数着ているそうだ。

はた迷惑な……。



「二百五十人をいっぺんにとなると、ある程度場所がいるよね。

……最初の町にある、元貴族街を使おう」

「貴族街? 最初の町に貴族が住んでいるのか?」

「今はいないよ、ダンジョンパーク開園のために町を増やしたからね。

その影響で、最初の町に住んでいた貴族には中央の町などへ引っ越してもらったんだよ。

で、今の貴族街はゴーストタウン化している」


それに貴族街は、住んでいた人たちの安全なども確保しなければならないため、城壁や門が設置され隔離されて作られていた。

避難民を移住させるには、中の建物を建て直せばいつでも移住できるだろう。


それに門からしか出入りできないなら、避難民の安否確認とかも簡単ではないかと思う。


「そこを更地にして、住宅とかを建てるのか?

かなり時間がかからないか?」

「FDPはダンジョンの中にあるんだ、俺の操作一つで、貴族街の更地化、住宅などの建物の建設、道路などの整備と一日二日でできるよ」


ダンジョン内の建物は、ダンジョンポイントと交換ですぐに建つからな。


「ただ、問題はブルサース国の住宅がどんなものなのか分からないことか……」

「ブルサース国の建築はフランスと同じだ。

昔フランスの植民地だったからな。その頃に建てられたフランス様式の建物の名残が今も続いているらしい」


「へぇ~」


父さん曰く、第二次世界大戦終盤にフランスから独立してできた民主主義国家だそうだ。

ただ、内戦も多くしているため避難民も当時から多かったらしい。

そして、ここにきてブルサース国が三つに分かれ独立。事実、ブルサース国は消滅した。


「それで、避難民が亡命民に変わったというわけか。

今の政府は亡命者たちと、向き合える総理大臣がいるからな。

ことわることはないだろう」

「ということは今後、増えることもあるってことじゃねぇか?」

「……そうだな」


父さんは、外務省の人たちの心が読めるのだろうか?

この移住計画の裏で暗躍する計画は、あるものとして考えないと出遅れそうだな。

とにかく、動いてみよう。


「移住はいいとして、仕事とかはどうするんだ?」

「さぁ、それは向こうで見つけてもらうことになると思うよ。

それと、モスクと教会を建ててくれ。と書かれていますけど……大丈夫ですか?

この二つの建物を一緒に建ててしまって……」

「と、とにかく、避難民の移住のこと頼むな。颯太」


父さんと移住の話をし終えると、母さんがコーヒーを用意してくれた。

……うむ、美味い。俺、コーヒー好きなんだよね。


異世界でも、DPを使ってコーヒーを用意していたな。

今となっては、いい思い出だ。


「避難民のことは了解したよ。早速建設に入るよ」

「ねぇ颯太? もうすぐ宿泊研修でしょう? 準備とかできてるの?」

「俺はアイテムボックスを持っているし、荷物のほとんどを入れてあるから忘れ物は無いはず。

それに、宿泊研修とかいっているけど、ようはみんなでキャンプしようってことだからね。必要なものは、ほとんど学校が用意してくれるんだよ」


「それならいいけど、必要なものは早めに用意しておくのよ?」

「は~い」


ファンタジーダンジョンパークへの移住も今は歓迎だけど、ある程度いったら締め切らないとな。

このまま、世界中の避難民を受け入れるというわけにはいかないだろう……。




▽    ▽    ▽




Side 千堂龍一


「総理、例の話、前向きに検討されるそうです。

………はい、……はい、私どもにお任せください。

………はい、必ず。……はい、………はい、分かりました。失礼します」


総理への伝達は済ませた。

これで断れば、総理自らお願いに行くだろう。

向こうの大使には、すでに受け入れを表明している。


ダメでした、とはいかないのだ。


「先輩、法務省への提出書類、これでどうですか?」

「……ここが違うな、………ここは詳しく書け。

後、ここはいらない」

「すぐに訂正します!」


お役所は書類仕事とはよく言ったものだ。

どんなことにでも、書類提出が義務づけられている。間違いをなくすためとかいっているが、昔ながらの慣習が息づいているからだろう。


「ファンタジーダンジョンパークとは、何なのだろうな。

政府の一部の部署が調べ始めているらしいが、謎が多すぎる」

「……いいんじゃないですか?

先輩、もう少し軽く考えたほうが」

「軽く?」


「つまり、常識にとらわれていると分からないってことですよ。

はい、これでどうですか?」


後輩の近藤から修正された書類を受け取り、チェックしていく。

今度は、間違いも無く言葉遣いも大丈夫だった。


「よし、オッケー。

これを梅沢さんに提出して、今日はあがっていいぞ~」

「はい、ありがとうございます」


近藤は、俺から書類を受け取り、上司の梅沢さんのところへ持っていった。

FDPを利用して、亡命者の問題を解決させようとしているが、どう生活させるかが問題なんだよな。


何も問題が起きないことを祈るよ……。






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