第46話 要望とねらい

現代でダンジョンマスターになった男の物語 第46話




都内某所のビルの一室にある『ダンジョン企画』の事務所。

そこへ、スーツを着た男が二人訪ねてきた。

入り口の自動ドアを通り、受付カウンターにいる二人の受付嬢に声をかける。


「失礼、五十嵐さんはいらっしゃいますか?」

「申し訳ございません、どちらの五十嵐でしょうか?」

「ダンジョン企画の代表である、五十嵐太郎さんです」


目の前の男性に、会社の社長の名前を出されて驚いたが、もう一人の男性がそっと出した名刺を見て、すぐに社長室に連絡する。


『はい』

「失礼します。こちら受付の宇崎ですが、五十嵐社長に会いに来られた方がいらしてますが……」

『……千堂さんかな? 外務省の千堂さんならお通ししてくれ』

「分かりました、失礼します」


そう言って電話を切った。


「ご案内いたします、外務省の千堂様、近藤様」

「よろしく」


もう一人の受付嬢に後を任せると、宇崎さんは二人を社長室まで案内した。

このダンジョン企画の事務所は、受付、社員、社長室と別れているぐらい部屋数が少ない。そのため、社長室に行くには社員が仕事をしている横を通っていくことになる。



「こちらです」


宇崎さんは、社長室のドアをノックした。


『はい』

「五十嵐社長、千堂様と近藤様をお連れしました」

『入ってもらってくれ』

「はい。千堂様、近藤様、こちらが社長室になります」

「ありがとう」


そう言って、ノックしてドアを開けた。


「失礼します」


千堂と近藤は部屋の中に入ると、シンプルな部屋に少し驚くが、五十嵐社長を見つけて笑顔を作り一礼した。


「初めまして、外務省の千堂といいます」

「同じく、外務省に勤めています近藤です」

「フム、どこの部署かは無しか。まあ訳ありってところか。

ダンジョン企画の代表をしている五十嵐だ。まあ、まずは座ってくれ」

「失礼します」


千堂と近藤は、五十嵐の対面にあるソファに座ると鞄からA4サイズの茶封筒を取り出し、五十嵐社長の目の前に出した。


「これは?」

「単刀直入に言います。

五十嵐社長、ファンタジーダンジョンパークで人を雇ってもらえませんか?」

「この中に載っている人たちを、お願いしたいのです」


そう言うと、千堂と近藤は座ったままだったが深々と頭を下げた。

その光景を見て、五十嵐社長は茶封筒を開けて、中の三ページ分の名簿リストを見た。

載っていた人数は、全部で二百五十人。


「……これ、今ニュースでやってる人たちだよな?」

「そうです。日本に亡命してきたブルサース国の元避難民二百五十人です。

日本政府は、この亡命を受け入れましたが住む場所がありません。

各地方や都市部などを探しましたが、どれもまとめてとなると……」


「まあ、ある程度別けないと受け入れはできないよな。

でも、別けることはできずまとめての受け入れ先はないか探している、と」

「はい、総理が母国へ帰ることも考慮してまとめての受け入れ先を探せと……」

「今の総理は、お優しいからな。

女性初の総理ってことで、国民からの期待も大きいからできないとは言えなかったんだろうが、この数をまとめてとなると……」


「はい、今の日本にすんなり受け入れてくれる場所はありません。

特に、言葉の問題が厄介でして……」


ブルサース国は、アフリカ大陸にある国の一つで独特の言語を話すのだ。

最近まで内戦が激しくて、今回の人たちも避難してきた人たちだったのだが、いざ終戦となった時、ブルサース国は三つの国に分かれて消滅していた。


他の国へ逃れていた避難民が、三つの国のどこかに戻る中、日本に避難してきた人たちはタイミングを逃し帰れなくなってしまった。

何と、三つの国が戦争を始めてしまったのだ。


そのため、避難民たちは帰国をあきらめ日本に亡命することになった。

そうなると、日本は亡命を受け入れ難い国なのだが、今の総理が女性ということもあり移民などにある程度寛容なため、今回も受け入れることに。


だが、言葉の壁や生活習慣の違いから受け入れる場所がなく、外務省の職員の一人が見ていたファンタジーダンジョンパークの動画から、受け入れをお願いしたというわけだ。



「あそこは言葉はどうにでもなるらしいから、問題は住む場所だな」

「何とかなるのですか?」

「ああ、FDPでは言葉の壁は無いらしい。

ただ、住む場所をどこにするかだ。この亡命者たちは、日本で仕事をするのか?」

「いえ、今現在、仕事に付いている者はいません。

よろしければ、FDPで仕事を探してもらえれば、と思っています」


「う~ん、これは他の者と話し合ってからでいいか?」

「はい、前向きに検討していただければ」

「分かった。たぶん、受け入れる方向で話は進むと思うが、万が一の時のことは考えておいてくれ」

「! ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」


千堂と近藤はソファから立ち上がると、五十嵐社長に向かって深々と頭を下げた。

前向きに検討してくれたのは、ダンジョン企画だけだった。

元避難民の亡命者、二百五十人の命は助かったはずだ。


しかし、このことをきっかけに、他の国からの避難民や亡命者が増えるかもしれない。千堂たちの苦労は、ますます増えていく……。




▽    ▽    ▽




Side 千堂龍一外務省職員


ダンジョン企画という怪しい事務所のあるビルを出ると、後輩の近藤が話しかけてきた。


「先輩、先輩の言っていた通りになりましたね。

前向きってことは、ほぼ間違いなく受け入れてもらえますよ。それにしても、どうして受け入れてもらえると分かっていたんですか?」

「FDPの動画は、近藤も見ているだろ?」


今、人々の間でファンタジーダンジョンパークの動画が大人気になっていた。

きっかけは、朝の情報番組で猫獣人の子供が紹介されたこと。

それまでの猫人気に、さらに火を投じる形で猫獣人の人気が急上昇。


そこへ、猫獣人に会える場所のFDPが注目され、FDPの動画が人気になったのだ。だが、その動画にはいろいろと問題のモノが映し出されている。

その中の一つが魔法だ。


特に、回復魔法や治癒魔法が問題となり、日本だけでなく海外の身体に問題を抱えている人たちが殺到する形となった。

その人たちの問い合わせを、ダンジョン企画だけでは賄えず一時的に外務省が当たることになり大変な目にあった。


今は、専門部署が立ちあがりダンジョン企画とともに対処しているため以前のような問題は起きていない。

そんな繋がりで、今回俺たちは断られることはないだろうと話を持っていった。


「あのFDPの動画の影響で、俺たちも苦労させられたからな。

そのことが分かっていれば、俺たちに負い目のあるあそこは断らないと思っていたんだよ」

「なるほど……」


(それに、FDPには信じられないような秘密があるような気がする。

……ま、今はそんな藪を突いて蛇を出す様なことはしないさ。今は……)


この先、FDPはいろいろなところから注目されるはず。

そのときの手綱を、日本政府が握っていればいいんだよ……。







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