第45話 種族と子ども
ファンタジーダンジョンパークが開園して二か月が過ぎた。
その間、いろいろな客が入って行動しているそうだが、俺は今そんなことを気にしている場合ではなかった。
何故なら、夏休みがいつの間にか過ぎていたからだ。
FDPのことでいろいろ修正とかしていたら、夏休みを満喫することなく新学期が始まり、今や学力試験の真最中ときた。
高二の夏休みといえば、最も謳歌しなければならない時期だというのに俺たちは、FDPにかまけて何の思い出も作れなかった。
そんな後悔をしている俺に、朝から陸斗が騒がしく話題を振ってくる。
「颯太、これ見たか? これ!」
「何の動画だ?」
「ファンタジーダンジョンパークのオープニングセレモニーの時、撮られていたみたいだな」
陸斗が見せてきたスマホに、ある動画が流れていた。
それは、ソフィアが例の暴漢を退治する動画だ。コメント欄には、ソフィアの容姿に注目したものや、暴漢への憤りにソフィアの強さにいたるまで、炎上するような勢いの賛辞のコメントが並んでいた。
「……すごいコメントの数だな」
「日本語のコメントが大半の中に、いろんな国の言葉が並んでいるから世界中が注目したんだぜ」
「まあ、ほとんどが賛辞のコメントでよかったけど……」
すると、後ろから動画を見ていた凛が恥ずかしがっていた。
「これ、私も映っているじゃない……」
「モザイクとかかけてないんだよな、コレ」
「うう~、ソフィアさんとの対比に使われているし……」
コメントの中に、凛とソフィアの容姿を比べて意見を交わしている奴がいるな。
まあ、他のコメントの奴らにフルボッコにされてるけど。
後、オープン式典の様子も出ていて、その動画ではソフィア、ミア、エレノアの三人が美人三姉妹とか、恋人はいるのとか、そっち方面のコメントが多かった。
「にしても、最近はFDPの町の中の映像が増えたよな~」
「あ、あのさ颯太、あの最初の町って携帯とかの電波きてるよね?」
「うん、ダンジョン企画の本社があるからね。
電話での応対ができるようにとか、リモートができるようにとかで通じるようにしてあるんだよ」
「そうなんだ……」
そうそう、あのオープン式典の出来事をきっかけに、俺と凛は付き合うようになった。あの日の翌日に、俺から告白して恋人同士となったのだ。
実際は、あの日の夜、ソフィアから凛に告白するように言われたのだ。
ミアやエレノアも、凛の気持には気づいていたようで俺だけが鈍感主人公のごとく分からなかった。
だが、告白するのはいいが俺の気持ちはどうなのか、少し考えてみた。
凛との出会いから、今までのこと、そして凛に恋人ができたと告白された時のこととか、式典の暴漢のこととかを思い出し、俺の凛に対する想いに気づいた。
どうやら、俺も凛に対し想いをよせていたらしい。
らしいというのは、凛のことばかり考えてしまうような青春の恋ではないからかな。
俺はこう見えても、異世界で十年の時を過ごしている。
その間、女性との経験もあるのだ。
だから、少し冷静に考えても凛と関係を持とうと考え俺から告白した。
そのとき凛は、涙を浮かべて喜んでいた。
付き合いだしてまだ一カ月ちょいだが、関係はあまり変わってない。
幼馴染から、恋人になっても普段と変わらないのは、普段が恋人の付き合いに近かったからか?
「あ、颯太、ミアさんたちって付き合っている人とかいるのか?
俺の周りの男どもが、聞いてくれってうるさいんだけど……」
「ミアたち? いるぞ、付き合っている人。
それも、三人とも同じ人だぞ」
「マジか!」
まあ、その付き合っている人って俺のことなんだが、ここで言うことじゃないよな。
凛も黙っていた方がいいと、念を押していたし……。
「凛は知ってたか?」
「まあ、ね。私の相談にのってもらってるときに聞いてたし……」
そう言いながら、俺の顔を見てきた。
凛の表情は、困った顔をしていた。
「そうか~、俺だけ知らなかったってことか……。
颯太、ミアさんたちって何の種族になるんだ? あの美貌だとエルフあたりか?」
「ミアたちの種族? ミアたちは確か、ダンジョンエンジェルじゃなかったかな。
ダンジョンマスターの補佐として生まれたはずだから、優秀な種族だったはず……」
実際は、ミアたちは錬金術の最高傑作である『ホムンクルス』であるが、そのベースになったのがダンジョンエンジェルという幻の種族だった。
ダンジョンが生み出せる種族には、ダンジョン○○といわれる。その中でも最高に力があるのがダンジョンエンジェルだ。
さらに、ダンジョンエンジェルには、天使族やエルフのような容姿の美しさもあったのでホムンクルスを作る場合、好んで使われた。
俺もダンジョンコアを埋め込まれ、ダンジョンを造った時、補佐のできる者を望みミアたちが作られたのだ。
「……なあ、それってミアさんたちって子ども作れるのか?」
「作れるよ、普通に子供を。
ただ、ミアたちの種族では生まれないが、相手の種族で生まれるらしい」
「……それって、何だかかわいそうな気がするけど」
凛の言うことも分かるが、ホムンクルスとの間でできる子供は相手の種族で生まれるようになっている。
これは、錬金術で造られたホムンクルスが長命であるため子孫を残す必要がないためらしいが、詳しいことは分かっていない。
初めてホムンクルスを生み出した錬金術師が、こうなるように設計したためといわれている。
「FDPの町にいる種族とはどうだ? 子供出来るのか?」
「それこそ、問題ない。両親のどちらかの種族で、子供が生まれるはずだ。
ただ、ハーフという存在はいないからな」
「そうなのか? ハーフエルフとかいないのか?」
「いない。両親のどちらかがエルフなら、エルフか人族のどちらかだな」
こんなことを聞くということは、陸斗の奴、ファンタジーダンジョンパークの町にいる誰かと子どもを作るつもりか?
「陸斗、気になる人でもいるのか?」
「そうじゃねぇよ。気になるって掲示板で呟かれてんだ」
そう言って、陸斗は自分のスマホの画面を見せてくる。
そこには、呟きの掲示板で異種族との間の子供についていろいろと質問していた。
地球人というか、日本人の中でFDPで子作りでもして出来ちゃったのだろうか?
魔力を持って生まれるのか? とか、いろいろと質問していた。
「その質問、全部答える気か?」
「だって、何だか真剣さが感じられるんだよな。
だから、いろいろと答えてやりたくなったな……」
陸斗も、ある意味優しいというか物好きというか……。
まあ、そんな陸斗の性格は嫌いじゃあないけどね。
「次の質問は何だよ」
「お、颯太。答えてくれるのか?」
「物好きな陸斗が、ほっとけなくてな」
「じゃあ、次の質問だが……」
俺と陸斗は、凛に見守られながらその日の試験開始時間まで質問に答えていた。
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