第44話 奴隷を買ったお客
Side 異世界に行きたい男
「ん~、どこで営業しているのか分からないな……」
俺は今、ある場所を探してこうしてさまよっている。
その場所は、六日前の掲示板に載っていた書き込み。それは、奴隷商を見つけた、というもの。
その書き込みを見た直後、俺はすぐに銀行に走り全財産を降ろし、その足でここファンタジーダンジョンパークへと来たのだ。
何故なら、そんな書き込みが問題になれば、すぐにでも警察やら何やらでここが閉鎖に追い込まれてしまうからだ。
ここ最近の書き込みで、ここにはダンジョンがあり、そこにはゲームと同じような魔物や宝物があることや、FDPのお金が日本円に交換できることや、異種族の恋人ができただの異世界に行ったようなレベルの話が書き込まれていた。
さらに動画でも紹介されていたが、その動画はもはや異世界そのものだった。
そして、その動画の一つに奴隷商があったのだ。
俺こと河口卓二は、今年で四十のニートだがいまだ恋人がいない童貞だ。
キモイ、デブ、近寄るなと散々学生の頃から言われ嫌われ続け、すでに心折れ結婚はあきらめていたが、ここにきて人生最後のチャンスと立ち上がった。
女たちに散々嫌われた俺でも、奴隷の女ならば、異種族の女ならばとここに来たのだ。
気持ち悪いと思われるだろうが、俺にしてみれば藁にも縋る思いなのだ。
とにかく、今俺は奴隷商を探している。
このファンタジーダンジョンパークに来て一週間後、ついに俺は奴隷商を中央の町の片隅で見つけた。
それも一軒だけでは無く、何軒も。
ここは、奴隷商が店を構える奴隷商街なのだろうか……。
とにかく、外見の店構えがよさそうな奴隷商を訪ねた。
「いらっしゃいませ、ようこそ奴隷商ホルネルへ」
「あ、あの、奴隷購入を……」
「お客様、奴隷購入は初めてですね?」
「は、はい!」
支配人と思われる男は、俺を見てすぐに奴隷購入が初めてだと見抜いた。
いや、たどたどしい態度にピンと来たのだろう。
「では、まず身分証を見せてもらえますか?」
「身分証……あ、これですか?」
俺は、ここに来た時に作った冒険者ギルドのカードを男に提出する。
男はそのカードを見て、笑顔で対応をしてくれた。
「確かに確認しました。
改めて、奴隷商ホルネルの店長、ジークと申します。
河口様は、どのような奴隷をご購入予定ですか?」
「えっと、身の回りの世話をしてくれる奴隷を……」
いきなり性奴隷と言えないのは、俺の変なプライドか意気地の無さか……。
この歳まで女と話したことも無ければ付き合ったことも無いため、いきなりの性奴隷はハードルが高い気がした。
「フム、ではメイドで体の関係も持ってくれるものがよいでしょうな。
そのような者をこちらで選んでもよろしいですか?」
「は、はい、よろしくお願いします」
「フフ、そのように畏まる必要はございません。
では、こちらにお座りになってお待ちください」
そう言ってソファを勧めて、店長のジークは店の奥へ入っていった。
奴隷商といっても、店に入ってすぐ商談の場所になっていた。
その奥に一本通路があって、その奥に奴隷たちの部屋があるのだろう。
俺が、良く漫画やアニメで見た奴隷商とは少し違っていた。
十分ほどソファに座って待っていると、奥から店長と三人の女たちが出てきた。
どの女性も美人で、スタイルもいい。
ただ、種族は人ではないようだったが……。
「お待たせいたしました。
河口様の要望にあう奴隷は、この三名になります。
右から、猫獣人のミリル、17歳で家事全般ができます。もちろん夜のお相手も了承しております。
次が、エルフのフィーリカ、36歳の元冒険者で家事全般ができます。また、治癒魔法や支援魔法が得意で夜のお相手も了承しております。
ただ、処女ではありませんがそこはご了承いただきたい。
最後が、珍しい魔族のノービス、18歳のサキュバスで家事全般ができます。この娘も魔法は使えますが初級がほとんどで魔族の強みがありません。
ただ、処女で夜の相手も了承しております。
如何でしょうか? お眼鏡に叶う者はいましたでしょうか?」
……さ、三人とも、アイドル以上の美人で目移りしてしまう。
スタイルも最高で甲乙つけがたい!
しかし、三人の俺を見る目が好意的に見えないのが仕方ないのか。
「ね、値段を教えてもらえますか?」
「おお、これは失礼を。
ミリルが、金貨二百六十枚。フィーリカが、金貨三百枚。ノービスが、金貨三百二十一枚となります。
普通、エルフは金貨千枚を超える高額になるのですが、処女でないとここまで値段が下がります。
また長命種ではありますが、二十歳を超えるのも減額の対象ですね。
いかがです? お買い得と思いますが……」
……日本円に変換すると、ミリルが二千六百万円。フィーリカが三千万円。ノービスが三千二百十万円か。
どれもこれも高額だ!
しかし、俺の全財産が二億円。当てて良かった宝くじ!
女運は無かったが、金運は恵まれていたようだ。
「三人とも購入します!」
「よ、よろしいのですか? かなりの高額になりますが……」
「だ、大丈夫です。
あ、でも、ギルドの口座に入れてあるのでどうすれば……」
「それは問題ありません。河口様、ギルドカードを出してもらってもよろしいですか?」
俺は、懐からギルドカードを再び出すと店長のジークが、自分の懐から出したギルドカードを俺のカードに重ねる。
「奴隷購入金、金貨八百八十一枚移動」
店長がそう言うと、俺のカードがまず光り、その後店長のカードが光り、五秒ほどで両方のカードの光が収まった。
「これで、河口様のギルド口座から奴隷購入金が移動されました。
お買い上げありがとうございます。
では、この者たちの主人登録をおこないましょう」
「は、はい!」
店長が店の奥へ移動すると、この場に三人の女性奴隷と俺が残される。
何か声を掛けないとと思うが、言葉が出てこない。
それに、三人の俺に向ける目がどこか怖い感じがする。
たぶん、俺に買われるのが嫌なのだろうか……。
勢いで買ってしまったが、これからこの三人とうまく付き合っていけるのだろうか。不安は尽きないが、ここまで勢いで来たのだ。
何とかなると信じて、がんばろう!
三人に声をかけることができないまま、店長が黒い手の平サイズの箱を持って帰ってきた。そして、一冊の本を俺に差し出してきた。
「こちら、奴隷を持つにあたっての注意事項などをまとめた冊子になります。
購入者全員にお配りしているものですので、必ず目を通してください。
それでは、この黒い箱の上に手を置いてもらえますか?」
「は、はい」
そう言われ、俺は右手を黒い箱の上に置く。
すると、三人の奴隷の女たちは箱の中へ右手を突っ込んだ。
黒い箱は、壊れることなく彼女たちの手を飲み込んだ。
「では、【奴隷紋起動】!」
店長が呪文を唱えると、俺の手が少しピリッとしたが、痛みを伴うものではなかった。
そして、俺の手の甲に紋章が浮かび上がった。
「……無事、奴隷契約が結べたようですね。
これで、この三人は河口様のものとなります。末永く、可愛がってくださいませ。
また、手放すときはぜひ我が商会をご利用いただきますように」
そう頭を下げてお願いされる。
手の甲に刻まれた紋章を確認し、俺が奴隷の主人になったことを改めて認識した。
「ご主人様、これからよろしくお願いします」
「ご主人様、よろしくお願いします」
「ご主人様、末永くよろしくお願いします」
三人が一礼して、挨拶をしてきた。
その声は固い感じがしたが、彼女たちを手に入れたと浮かれていた俺には、その理由を知る余裕はなかった……。
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