第43話 野望のお客



Side とあるニートの男


「何だよ、アトラクション全然ねぇよ!」

「ねぇ~! 楽しみにしてたのに~」

「ね、教えてあげない? ここは遊べないテーマパークだって」

「おぉ、いいんじゃねぇ! 早速、つぶやいとこぜ!」


男女四人のイケてる連中が、出口へ歩きながら後悔ともとれる会話をしながら、余計なことをし始めた。

四人が四人ともスマホを取り出し、ここ、ファンタジーダンジョンパークがいかに面白くないかを発信している。


俺はそれを眺めるしかできないが、来場者が減ってくれるのは歓迎だ。

何故なら、これから俺たちはファンタジーダンジョンパークに挑戦するのだから。



「待たせた、石川さん。

オープン二日目も、こんなに混むものなのだな……」


今謝っていたのは、山田清隆さん。三十歳の俺と同じニートだ。

ニートといっても、俺とは家庭環境が違いお金はあるので裕福ニートといったところかな。ある掲示板で知り合い意気投合。

今回の、俺の考えた計画に乗ってくれた人の一人だ。


「それでも、オープニング当日とは違って幾分スムーズになっていますよ。

昨日は、もっと混んでいたし……」

「そういえば、初日警察が来たそうですね。

テレビのニュースで見ましたよ。何でも、婦女暴行未遂だったとか?」


「らしいですね。俺もニュースで見ました。

確かに、パトカーが何台か通って行きましたよ」

「お待たせしました、石川さん山田さん。

紹介しますね。こちら、斉藤日和さんと鈴木英雄さんです」

「初めまして、掲示板でオン城の名前で書いてました斉藤日和です」

「私も初めまして、にょっけの鈴木英雄です。

ゲーム配信動画の、こいこいこと石川紀明さんにお会いできるとは……」


後から合流してきたのが、同じ職場のバイト仲間の西岡佐奈子さん。

西岡さんが紹介したのが、掲示板で知り合った斉藤日和さんと鈴木英雄さん。

そして、もう一人。


「ふ~、ようやく登録できた。

冒険者ギルドのカードとは、なかなか心くすぐる演出だけど、あの混雑はないな~」

「お疲れ様です、藤岡さん」

「石川さんも、今回の計画に呼んでくれてありがとう。

ラノベや漫画で異世界物に憧れたけど、ここで本物の異世界体験ができるとは感無量だよ。そのうえ、ダンジョンだろ?

掲示板で誘われたときは、うれしかったよ」


俺たちは、この六人でダンジョン探索に挑む予定だ。

そして、勝ち組へと成り上がる!!



「でも石川さん、大丈夫かな?

私たちでダンジョンに潜るなんて、危険じゃない?」

「それに、初期投資もバカにならないでしょ?」


斉藤日和さんと西岡佐奈子さんが、心配している。

俺の立てた計画は、大丈夫なのかと。


「大丈夫ですよ。これは、公式のHPにも載っているやり方なんですから。

さ、まずは最初の町にある冒険者ギルドを目指しましょう。

その側にあるはずです、両替所が」


俺たちは、ゲーム配信で知り合い、掲示板で意気投合し、こうして俺の計画でダンジョンに挑戦しようとしている。

魔物との戦い方は、魔導銃や魔法銃を主体にして、魔道具の杖やタクトの魔法で戦うつもりだ。

そして、魔物を倒して魔石やドロップアイテムを売ったりして報酬をもらい、それを日本円に両替すればお金持ちになれるという。


さらに、この一連の流れを動画で配信すればバズること間違いなしで、また儲かるという。

ただ、問題はダンジョンではネットに繋がらないということだ。

ここファンタジーダンジョンパークは、最初の町以外では電波が通じず携帯が使えないしネットに繋がることも無い。


計画についてもう一度考えながら歩いていると、冒険者ギルドの横に建っている両替所が見えた。

ガラス張りで店内が見えているが、お客が入っている様子はない。


「あれか? 両替所。ガラス張りの店内丸見えで、防犯は大丈夫なのか?」

「どう何ですかね?

ところで、みなさんはいくら両替するか考えてきましたか?」

「もちろんですよ、斉藤さん。

俺は、バイトで貯めたお金を初期投資に使います」


「私は、へそくりのお金を初期投資に使おうかと」

「西岡さん、へそくりなんかしてたの? 私は石川さんと同じで、バイトで貯めたお金を使います。山田さんは?」

「俺は、財布に残っていたお金を持ってきた。

俺の今使えるお金って、これしかないので……」


「私は、今まで貯めたお金ですね。銀行から降ろしてきました。鈴木さんは?」

「俺は、退職金を初期投資にするつもりです。

五年ほどの新聞配達生活でしたが、結構ありましたよ」


みんな、それぞれで持ってきたんだな。

俺と斉藤さんがバイトで貯めたお金、西岡さんがへそくり、山田さんが財布に入っていたお金、藤岡さんは貯めたお金を銀行から、そして鈴木さんが退職金と。


そのお金を持って、両替所へ入っていく。




「いらっしゃいませ~」


カウンターの窓口にいた、小柄な女性が声をかけてきた。


「両替をお願いします」

「FDP硬貨ですか? 日本円ですか?」

「日本円を、ここのお金に両替してください」


そう言うと、俺は封筒を鞄から取り出しカウンターに置いた。

受付をする女性は、封筒を受け取ると中身を確認する。


「……はい、日本円をFDP硬貨への両替ですね。

まずは、こちらのレートをご覧ください。

日本円で十円が、FDPでは銅貨一枚となります。これは固定ですので、いつ両替してもこのレートでの交換となります」

「変動してないのか……」


円をドルとかに変える時は、変える時で価値が変わっていたが、ここでは違うのか。


「では、封筒に百二十万円入っておりましたので金貨十二枚ですが、一枚は銀貨百枚としておきましょうか?」

「それでお願いします」

「分かりました、少々お待ちください」


そう言うと、立ち上がって奥へと姿を消した。

両替所の奥に、金庫か何かがあるのだろうか。すぐに白い袋を持って現れた。


「お待たせしました。こちらが金貨十一枚と銀貨百枚が入った袋です。

あちらのスペースで、お確かめください」


そう言うと、窓口から左手にある丸い小さなテーブルを教えてくれた。

テーブルの上には、硬貨を入れて何枚になるかという簡易確認ができる装置があった。


「これを使って確認か。コンピューターとかがなかった時代の物みたいだな。

とりあえず、確認確認」

「次の方どうぞ~」


こうして、俺を含めた全員が両替し初期費用を作った。

つまり、RPGで言うところの最初のお金というやつだ。王様にもらったり、初めから持っていたりするあれだ。


このお金を使い装備などを買って、ギルドで依頼をこなしたり、ダンジョンへ挑戦したりする。

まさに、ラノベや漫画やアニメでやっていた異世界物の王道が現実でできるのだ。

成り上がるぞ!!







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