第40話 乙女のピンチ
Side 渡辺陸斗
今、俺は教室にいる。
自分の席に座り、窓の外を見ていると声を掛けられた。
「あれ? 陸斗、今日は例のファンタジーダンジョンパークのオープン日だろ?
何でここにいるんだよ」
「……期末の成績が悪くてな、追試だよ。追試」
「……まあ、がんばれ」
そう言うと、悟は教室を出ていった。
悟は、確か委員会の会議だったか? それで登校していたんだったな。
ダンジョンパークの提案者で、企画の時から関わっている俺が一番大事なオープン式典に出られないとは……。
「ああ~、何で追試なんてあるかな~」
「それは、渡辺君が赤点を取るからでしょ?」
「……先生」
頭を抱えて後悔している間に、担任の先生が教室に入ってきたようだ。
手にはプリントを持っていた。
「とにかく、追試は渡辺君だけですが一教科だけですからすぐに終わりますよ」
「が、がんばります」
「では、机の上に鉛筆と消しゴムを用意してください」
「う~す」
こうして、俺の追試は始まった。
だが、一教科だけの追試にもかかわらず、俺は二回も追試を受けることになり、その日から何日か落ち込むことになった。
……何で、同じ所で間違えるんだ? 俺。
▽ ▽ ▽
Side 大内凛
私は、勇気を出して颯太に告白をするも失敗し、恥ずかしさのあまり颯太から逃げてしまった。
颯太のことを意識したのは、中学卒業の日だった。
卒業式の後、私は付き合っていた彼氏から別れを告げられ少し落ち込んでいた。
付き合っていたといっても、男女の関係になったことはないしキスすらしたことない。ただ一緒に遊んだり、登下校を一緒にするぐらいの子供の付き合いだった。
友達のすすめで付き合うようになったが、どうもお互い好き同士というわけではなかったようだ。
別れるというのも、別々の高校に行くから別れようというものだったし、落ち込むというより会えなくなることの寂しさのようなものだった気がする。
そんな別れを言い渡されているところを、颯太に見られて、その後励まされた。
私が落ち込んでいるように見えたのだろう。
いろんな話をして励ましてくれるのが、なぜかうれしかった。そんな颯太の励ましを受けているうちに、私は笑顔になっていたようだ。
『凛は、笑った顔が可愛いから……』
あとで聞いたとき、颯太は励ましの言葉として私の良い所を挙げていたようだけど、私はその言葉を意識してしまい顔が熱くなったのを覚えている。
その時、私の顔は真っ赤だったに違いない。
そのときから、私は颯太を意識し始めていたと思う。
同じ高校に入り、同じクラスメイトとして過ごし友達として話すも、どうしても意識してしまう。
学校で颯太に会えるのがうれしかった、颯太といろんな話をするのがうれしかった、颯太に会えない連休が嫌いだった。
携帯で話をするのが嫌いだった。私は会って話をしたかったから……。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「大丈夫ですか? 凛さん」
式典会場から少し離れた大型車の駐車場のあたりで、ソフィアさんに追いつかれた。
ソフィアさんの姿を見ると、少し悲しい気持ちになる。
私にはない、スタイルと美貌だから……。
「わ、私……」
「! 凛さん、何か聞こえませんか?」
「え? 何かって……」
ソフィアさんが私の側に来て、周りを気にしている。何か聞こえたのだろうか?
私も息を整えながら、見渡してみる。
すると、駐車場の奥から三人の男が姿を現した。
全身を作業員の姿をした、いかにも工事関係者といった姿をしている。
頭には、黄色いヘルメットを被っていた。
「向こうにも、進入ルートは無かったな……」
「あの正面のゲート以外、進入できねぇってのがおかしくねぇか?」
「おかしいかもしれねぇが、入れなきゃ意味ねぇだろ……」
あの姿で、今の会話は工事を頼まれたのに中に入れないといった会話のように聞こえるが、ここは本物のダンジョン。
ダンジョンマスターの颯太が造り出したものだから、工事の必要などないはず。
ということは、ゲートを通らずに中に入ろうとしている?
私は、ソフィアさんを見ると険しい表情をしている。
どうやら、この場所にとっての敵らしい。
「……お! お、おい! あれ、あれ!」
「んぁ? お、おいおい、マジか?」
「……すっげぇ、美人じゃねぇか!」
三人の作業服の男たちは、ソフィアさんを見てニヤニヤしながら近づいてきた。
気持ち悪い笑い方だ。
下心が、見え見えで隠す気も無いらしい。
「……何か?」
「何かじゃねぇだろ? どうよ、俺たちと遊ばねぇか?」
私たちの目の前まで近づいて、ソフィアさんを下から上へ見ながらニヤつく。
そして、ソフィアさんの胸に目を止めると口笛を吹く。
「ヒュ~、結構良いんじゃねぇか?」
「見た目もいいし、攫っちゃおうかな~」
「ぎゃははは! おいおい犯罪すんなよ」
……何こいつら、こんなアホな連中がいるの?
「さっき見回った時、警察いなかっただろ?」
「なら、やり放題じゃねぇか」
そう言うと、男の一人がズボンのポケットから黒い塊を出してきた。
そして、その黒い塊を私たちの目に見せるとスイッチを入れたのだろう。バチバチと青い光と音が鳴っている。
「ス、スタンガン」
「正解! 翔、車回してこい」
「俺が最初だからな!」
そう言って、駐車場へ走って行く。
目の前に、スタンガンを持って威嚇する男とソフィアさんと私の後ろに回り込もうとするもう一人の男。
二人を警戒するも、私は怖かった。
「凛さん、気をつけてください」
「ソ、ソフィアさん……」
「おら!」
スタンガンを、ソフィアさんに押し付けようと近づく目の前の男だったが、ソフィアさんはひらりと避けると、男の顎を手のひらで打ちあげてバランスを崩し倒してしまう。
「ガフッ!!」
「て、てめぇ!!」
後ろに回ることができなかった男が、ソフィアさんに襲いかかった。
だが、ソフィアさんは冷静に襲ってきた男の顎を拳で下から打ち抜く。
「ムグッ!」
拳で殴られた顎を手で覆いながら、唸る男。
そこへ、倒れて動かない男が持っていたスタンガンを拾い、唸る男の脇へスタンガンを押し付けスイッチを入れた。
「ウガッ!!」
バチンと大きな音とともに、男はその場に膝から崩れ落ちた。
どうやら気を失ったようだ。
さらにそこへ、黒いワゴンが横付けで停車し、もう一人の男が急いで降りてきた。
「お、おいおい、どうなってんだ……」
「屑に罰を……」
ソフィアさんは、いつの間にか降りてきた男の側に移動していて、手に持ったスタンガンを降りてきた男の脇に突っ込むとスイッチを入れる。
バチンと大きな音ともに、三人目の男も気絶して倒れた。
「……ソ、ソフィアさん、強い」
「凛さん、マスターに連絡をしてもらえますか?
こいつらを縛ってしまいますので」
「は、はい!」
私は、携帯をポケットから取り出し颯太に連絡をする。
そういえば、ここ携帯繋がるんだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます